0.プロローグ
高校三年生。
本来であれば大学への進学か就職に躍起になる時期。
小学校から続いた人生最後になるかも知れない青春の一時。
俺は学校に行かず、部屋に引き篭もりゲーム三昧の日々を送っていた。
学校から送られてくる課題を終わらせ、郵便で学校に送る、不登校緩和時代のおかげで出席しなくても進級はできてしまう。
それに俺は結構頭は良いから学校に行かなくても問題ない、自分で言うのもアレなんだが。
自習でなんとかなる。
そして、送られて来た今週分の課題を.....今終わらせた。
あとはいつもの様に母にポストに入れて来てくれるように言えば良いだけだ、さてゲームしよう。
テレビに接続しているゲーム機(Link)を起動して、俺はテレビの液晶画面に手を触れる。
そのまま俺は吸い込まれる様に、テレビの中に入っていく。
激しい閃光を超えた目の先は.....ゲーム『Fantasy World Quest』の世界の村だった。
俺は今日もゲームの世界に入り込みプレイを開始する。
一部の人間が『力』に目覚める世界
1999年7月を堺に世界では突如、一部の人間が未知の『力』に目覚める事件が起きた。
『力』に目覚めた者は、火を吐く、空を飛ぶ、指からビームを放つなどの何らかの超人的な未知の能力を手に入れた。
原因は未だわからず、今も『力』に目覚める人はかなりいる。
仮に『力』を持っていたとしても気付かないパターンは結構あるらしい。
普通の人にはない、使い方もわからない、ましてやどんな力なのか誰にもわからないから当然だ。
そして、力を持っているからと周りに自慢する奴も滅多に現れない。
『力』を持つ者の存在は、普通の人から見れば危険な存在だ。
例えるなら、誰にも見えない包丁を持ち歩いている様な感じ。
当然同じ人間とは見てくれず、差別の対象となった。
だが、『力』を持つ事を秘密にする理由はそれだけじゃない。
確か....昔、世界中の銃の弾薬を体から生み出す『力』を持った男が合衆国に現れたとニュースになった。
後日その男はどこぞの国の特殊部隊に攫われ安否不明。
『力』の内容によっては国の力関係を揺るがす貴重な武器となる。
当然世界中の国は『力』を持つ者を探し始めた。
日本では警察と軍隊の中に『力』を持つ者だけで構成された部隊が多々ある。
『力』の秘匿は『力』を持つ者達にとって共通認識となった。
そして、俺も『力』を持っている。
『ゲームの世界に入り込む』という力だ。
あれは中学三年の頃....家でスマホを弄っていたら....短い様な長かった様な不思議な夢を見た....様な気がした俺は、特に何にも思わずスマホゲームを始めた瞬間、画面に吸い込まれた。
気が付けば何十万と課金してやっとの思いでお迎えすることのできたゲームのキャラクター、サヤちゃんというエルフの美少女が目の前にいた。
そして俺はこの『力』に気付いた。
昨日までは何ともなかったのに何が原因か、突然『力』が目覚めたようだった。
それからはその『力』を使い、様々なゲームの世界に入り、現実では味わえない冒険を味わった。
俺の『力』はゲームに入り込み、主人公の姿となって行動ができる......リズムゲームやパズルゲームなどの主人公を操作しないゲームには入れない。
だが、主人公を操作できるゲームなら何でも良いというわけじゃない。
この『力』の一番の問題は、痛覚や味覚などの感覚あることだ。
ゲーム内で食べ物を食べれば美味しいが、剣で刺されれば痛いし、毒攻撃をくらうと気分が悪くなる。
この『力』でFPSゲームに入った事があったが、銃が頭に当たった瞬間....死を体験した。
意識は存在するが何も考えれず体が動かない、ただ頭に空洞ができた感覚だけを味わい、これが永遠に続くかの様に思った。
すぐリスポーンしたので大事にはならなかったが。
俺の『力』だとFPSゲームは三途の川体験にしかならないので二度と入り込まなくなった。
そんで次に入ってみたのは対戦格闘ゲームだ。
1試合を終えて、このジャンルに二度と『力』を使わないと誓った。
次に目をつけたジャンルがRPG系。
そこでこの「ファンクエ」だ。
『Fantasy World Quest』通称.ファンクエ。
最新テレビゲーム機『Link』で遊べる王道RPGゲームだ。
発売から6年が経ち、既に人口は過疎化。
プレイヤーが集って作るギルドもほぼ活動していない。
人とできるだけ関わりたくない俺にとっては、誰にも邪魔されずソロプレイができる絶好の環境だ。
そして何より、RPGのお約束であるレベルアップ機能が存在する。
どんどんレベルを上げればHPと防御力が増える。
HPが高ければ高いほど、例え剣で刺されようと魔法で攻撃されようと、瀕死にならないダメージは大して痛くないため、そこの問題も解決した。
そうしてプレイを始めて約1ヶ月、俺は上限のレベル100まで上げきった。
ゴブリンの持つ棍棒の攻撃は、もはやピコピコハンマーで殴ってきている様な感覚だ。
無事最強となった俺は、爽快感を味わえストレス発散にもなる雑魚モンスター狩りと、装備品やアイテムのコンプリートを目指してプレイしてく。
◆
レベル10程度の雑魚モンスターしかいない、初心者向けダンジョンのボスと対面した。
緑色の肌に人をひと回り超えるサイズの亜人。
ゴブリン・オーガ.....魔王によって作られたゴブリンとオーガのキメラ種だ。
こいつからドロップする、全10種のゴブリン武具シリーズのコンプリートを目指して周回中だ。
こいつは攻撃力が高いだけのボスで、その攻撃もレベル差のおかげで俺には1ダメしか入らない。
剣を一撃当てれば倒せる、というかもう倒した。
ゴブリン・オーガは倒れ、死体がゆっくりと消えドロップ品が落ちる
「よっし!ゴブリン鉄球ドロップ!!あと2つでゴブリン武具シリーズコンプだ!!!」
ドロップした武器を見て思わず喜び叫ぶ俺。
敵の落とす武器は毎回ランダムだ、一度出た武具だからと言って未入手の武器のドロップ率が上がるわけではない、既に約30周くらいやっている。
あとこの武具を必死に集めているが別に強くない、むしろ今の装備に比べたら弱い、ゴミだ。
しかし俺は基本、どんなゲームでも全種類のアイテムや武器、防具を集めたがる....言わばコンプ厨。
常人ならコントーラーを投げる鬼畜ドロップ率だろうと粘って必ずコンプする。
それが俺のゲームにおける鉄則、いや、ゲームへの礼だ。
「ふぅ....ゲームを始めてから6時間は経ったか?一旦現実に戻るか」
13時からゲームを始めたので現実では恐らく19時頃、そろそろ晩飯の時間のはずだ。
この『力』は両親にも隠している、もし晩飯の時間になっても声ひとつ出さなければきっと部屋に入って来る。
部屋に俺は居ないしきっと慌てふためき警察を呼び大騒動になるかもしれない。
俺はテレビから出るため能力を使おうとした...その時だった。
突然世界が暗くなった。
次に俺の目が覚めると、そこは真っ白な空間だった。
登場人物紹介
・小川くん[18歳]
名門高校に入学するも一年のある事件が原因で不登校に。
重度のアニメ・漫画・小説・ゲームオタクで永遠に引きこもって幸せでいられる自信が本人にはある。
・『力:冒険の書』
テレビやスマホなどのゲームの世界に主人公として入り込みプレイできる力。
憧れのキャラに触れられる、ゲーム世界を冒険できる、ゲーム内で食う飯が美味いなど利点はあるが、ダメージをくらうと実際にその痛み(銃で撃たれた場合は実際に銃で撃たれた感覚)を味わうなどの欠点もある。