表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/203

その声に名はあるか

 境界零域――


 夜の帳が降りたその地には、霧のような魔導波が漂っていた。


 瘴気とも呼ばれるそれは、かつて失敗とされた命の残響。


 


 その中央に、三体の影が立っていた。


 《NS-01》《NS-03》《NS-07》。


 識別コードだけが与えられ、人格も言葉も否定された“模倣群の残渣”。


 


 リュミエとシェイドは、結界の端に立った。


 風が重く、空が低い。


 


 「……キタカ」


 《NS-01》が低く唸る。


 


 「完成品のゼロ。名を得た影、シェイド。

 貴様らだけが“命”などと呼ばれる理由が、どこにある?」


 


 シェイドが一歩前に出た。


 その動きに攻撃性はなく、魔導波も安定していた。


 


 触感板が浮かぶ。


 


 「ボク ナマエ モラッタ」

 「ダカラ イマ ナマエ ヲ サガシテル」


 


 リュミエも隣で板を掲げる。


 


 「キミタチ ハ ナマエ ホシイ?」


 


 だがその問いに、《NS-03》が吠えた。


 


 「言葉で縛るな! 名など、我らを閉じ込めた記号と変わらん!」


 


 《NS-07》も魔導器官を震わせながら呻く。


 


 「ナマエ……モラエナカッタ。ダカラ モトメタ。

 ……ダカラ ニクム。アナタタチ ノ ヒカリ」


 


 怒りと悲しみがないまぜになった、剥き出しの感情。


 それは言葉にはなっていなかったが、確かに“声”だった。


 


 リュミエの手が震えた。


 


 彼は触感板にこう刻む。


 


 「ボクモ ムカシ キエタカラ」

 「キミタチ ノ クルシミ シッテイル ト イエナイ」

 「デモ キイタ。ボク ソレ ウレシカッタ」


 


 そのとき、風が揺れる。


 《NS-01》の動きが一瞬、止まった。


 


 沈黙が流れ――その中で、シェイドが自ら魔導波を放つ。


 波形は“共鳴”。


 


 《NS-07》が、少しだけ顔を上げる。


 


 「……コレ ナニ?」


 


 シェイドが触感板を掲げる。


 


 「タダ ナマエ ヲ オクル ワケジャナイ」

 「ワカリタイ。キミタチ ノ カオ ヲ シッテ ナマエ ヲ アゲタイ」


 


 その言葉が――届いた。


 


 《NS-03》の魔導波がわずかに乱れ、叫びのような咆哮を残して霧に消えた。


 


 《NS-07》は何かに戸惑いながら、ぎこちなく一歩を下がった。


 そして、ただ一体――《NS-01》がその場に残った。


 


 「……私は、名を望んだことはない」


 低く、濁った声。


 


 「だが、もしそれが――私が“私”になる唯一の道だというのなら」


 


 リュミエが板に刻む。


 


 「ボク ヨケイナ コト シテナイ?」

 「イヤ ナラ イワナイ」


 


 《NS-01》は長い沈黙の末、わずかに首を振った。


 


 「……名が“誰かと交わる光”なら。

 ならば、私にも――それを知る資格があるのかもしれない」


 


 リュミエはそっと板に記す。


 


 「キミ ノ ナマエ ハ――」


 


 一拍の間のあと、魔文字が浮かぶ。


 


 「ノワール」


 


 意味は“夜”。


 けれど、それは闇ではない。


 光の終わりでもなければ、始まりでもない――静かに寄り添う影。


 


 ノワールは立ち尽くしながら、その名を――口の中で何度もなぞるように繰り返した。


 


 その夜、ミュリエでは報告が記された。


 


 【新規:命識別個体ノワール誕生。かつて拒絶された存在、共鳴反応を経て自律の兆しを確認】

 【備考:“命の受容”は、与えることではなく“共に見つけること”にある】



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ