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緑と魔力の融合

 朝露が残る薬草園に、青々とした芽が一斉に顔を出していた。

 春の陽射しが柔らかく降り注ぎ、風が植物たちを優しく撫でてゆく。


 エリスは手袋をはめながら、目の前の畝にしゃがみ込んだ。

 今朝は一段と発育がいい。芽の張り、色、香り……どれを取っても申し分ない。


「やっぱり、魔力の流し方が変わってから効果が出てるわね」


 小さく呟きながら、エリスは指先に魔力を集めた。前世の知識と今世の体が、今ようやく融合し始めていた。

 彼女の持つ“生命属性”の魔力は、植物との相性が極めて良い。だが、ただ力を注ぐだけでは枯れてしまう。繊細なバランスと、適切なタイミング――それを知るための鍵が、前世の記憶だった。


「土壌の栄養バランスを見て、根の張り方を考慮して……あとは、魔力を“水”として浸透させるように」


 指先から青白い光がにじみ出る。魔力が根へと染み込むように流れていくと、葉がわずかに震えた。

 その様子を見ていたアルフレッドが、目を見張る。


「姉上、魔法を“流し込む”なんて、王都の魔術師たちは誰もやってませんよ」


「そうね。でも、私は“魔法を使う”んじゃなくて、“植物に魔力を与える”の。目的が違えば、方法も変わるわ」


 魔力は力であると同時に、情報でもある。

 前世で学んだ“栄養の与え方”――つまり、植物の成長段階に応じた施肥の知識を、魔力制御に応用することで、エリスは独自の“緑魔錬金術”を編み出し始めていた。


「このやり方が確立できれば、薬草の育成期間を半分以下に短縮できるわ。しかも、品質は落とさず、むしろ向上する」


「……姉上、それは革命的だ」


「革命なんて、大袈裟よ。でも……この方法が広まれば、救える人はきっと増える」


 エリスは柔らかく笑った。

 王都で注がれることのなかった愛も、無視され続けた努力も、ここでは確かに意味を持っていた。


 


 夕方、調合室ではマリーとリーナが忙しなく作業をしていた。

 エリスは完成したばかりの魔力活性薬草を乾燥させ、細かく砕いて瓶に詰めていく。


「これが……“試作品三号”ですね」


「ええ。前回の二号より、香りが安定してるでしょう? 魔力を使って乾燥工程を調整したの。温度を一定に保つことで、成分が飛ばないようにしたのよ」


 リーナが恐る恐る瓶の香りを嗅ぎ、小さく声を上げた。


「すごく……いい匂いです。これ、眠れないおばあちゃんに渡してあげたら、きっと喜びます」


「眠気を誘うだけじゃなく、身体を温める作用もあるの。今の季節にちょうどいいわ」


 魔法と知識と経験――それらを調和させ、エリスはひとつの技術として確立させつつあった。

 それは単なる薬ではなく、“人に寄り添う力”となるべきもの。


「次は、抽出液を使った初歩の回復薬に取りかかりましょう。そろそろ貯蔵庫も整理しないとね」


「了解しました!」


 活気に満ちた声が飛び交い、作業は次々と進んでいく。

 小さな別荘の一室だった場所が、今や立派な錬金術工房として機能し始めていた。


 


 夜、アルフレッドと並んで食卓についたエリスは、ふと窓の外に目をやった。

 月明かりに照らされた薬草園が、まるで宝石のように輝いていた。


「姉上」


「ん?」


「僕、今日ずっと考えてたんです。エリス・フォン・ベルグランドという人は、“失われた姉”なんかじゃない。……姉上は、ここで“本物になった”んだなって」


 その言葉に、エリスは一瞬だけ沈黙した。

 だがすぐに、静かな笑みを浮かべた。


「ありがとう、アルフ。そう思ってくれるだけで、私はもう十分」


 温かな食事、寄り添う家族、日々の積み重ね。

 それらすべてが、エリスの魔力と調和し、彼女の歩む“新しい道”を照らしていた。


 


 そしてその頃――。

 エリスの薬草と錬金術に関する噂は、とうとう“帝国”の耳に届き始めていた。

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