第88話 戦いは終わったと思っているようだが、それは思い違いだぞ
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第88話 戦いは終わったと思っているようだが、それは思い違いだぞ
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フジカム家の使者と面談する。
「待たせてすみませんね」
呼び出しておいて、三時間ほど待たせた。こちらには用がないので、放置しても問題ない。むしろ苛つかせておけばいい。
「……いや」
捕虜だったヘルグ・フジカムの返還交渉の際は、テアス・ガルド様に交渉を任せていた。だが、すでにヘルグは鉱山送りにしてこちらからは交渉を打ち切っているので、ここからは俺が出ることにした。
こんなガキの俺が出てきて使者は不満げのようだけどね。
「某はフジカム家のライドー・アレルフェーンだ」
「これはご丁寧に。私はノイス・シュラードと申します」
「の、ノイ……ス殿」
俺が出てくると思ってなかった?
「ええ、ノイスです。以後、お見知りおきください」
打ち解けるために、ライドー・アレルフェーンと世間話をする。
「へー、そうなんですかー。あの辺りの海は貝が美味しいんですね。食べてみたいです」
「サワビという貝がお薦めだ。焼いたものをつまみに酒を飲むのがなんともいえぬ幸福感よ」
「おー! 考えただけで涎が出てきますね」
美味しい食材があるなら食ってみたくなるのが、人の性ですな~。
さて、本題に入りますか。
「アレルフェーン殿。本日の訪問の目的をお聞かせ願いますか」
「おお、そうであった! ノイス殿、当家はヘルグ様を返還いただきたく、こうしてやってきた次第にて」
「ヘルグ殿ですか」
「はい」
「うーん……」
「何か問題でも?」
「いえ、すでに交渉は決裂したと聞いておりましたので、ヘルグ殿は奴隷として売ってしまったのです」
「なっ!? それはいかなることか!?」
「いかなるも、前回の交渉は物別れに終わったと、そういう話ではなかったですか? その交渉が最後だと当方は明言していましたよね?」
「あ……」
「最後の交渉で纏まらなかったのですから、捕虜をどう扱うのかはこちらの自由だと思うのですが?」
「一方的ではないか!?」
「一方的もなにも、こちらは何度も交渉の場を設けましたが、フジカム家が拒絶したのでしょ? そもそも当家は一方的に攻められ、それを撃退した。勝者が手を差し伸べている間に、その手を取らなかったのはそちらの勝手。そして捕虜返還について合意がなされなかったのですから、捕虜をどう扱おうとこちらの勝手ではないでしょうか? それをおかしいと言うのは、そもそもお門違いと思うのです」
「ぐっ!?」
奥歯が割れそうなくらい噛んでいるのが分かる。
「な、ならばどこに売ったのか、お聞かせくだされ!」
「うーん……そうですね。特別にお教えしましょう」
ペラペラと資料をめくるふりをする。
「バルドーム州の商人ですね」
「は? バルドーム州? え? え?」
「バルドーム州です」
「……某の記憶が確かなら、バルドーム州は南の果ての州だと?」
このジール州が北の果てなら、バルドーム州は南の果てという場所になる。
「ええ、とっても南の州ですね。たまたまガラス製品の仕入れにきていた商人だったようです」
「ガラス……」
「はい。当家のガラス製品は皇室御用達にもなっている一品です。遠路はるばる仕入れにきてくれたようですね」
北国と南国だ。対極にあると言っても過言ではない場所だ。つまり、遠い。めっちゃ遠い。クソ遠し。
そんな場所にヘルグは連れていかれた。
もちろん、これは嘘だ。
だけど、ちゃんとヘルグが売られた実績はある。ヘルグという名前の捕虜ね。容姿も似ていたので、丁度よかった。
ヘルグ・フジカムは当家の隠し鉱山でしっかりこき使っているよ。
ころっと騙されたライドー・アレルフェーンは意気消沈して帰っていった。
その背中を見送った俺はにんまりしていたことだろう。自分でも性格が悪いと思うよ。
「エグル。フジカム家の領内に、ヘルグが売られていったと噂を流してくれるか。あと騎士たちもな」
「了解だ」
喧嘩を売られたのだから、しっかり返り討ちにしなければな。フジカム家は頭を下げるどころか謝罪の一言もないのだから、徹底的にやってやろうじゃないかと思うわけだ。
もちろん、物理的な戦争をしかける気は、今のところない。弱らせてから美味しく食べるかもしれないけど、それはその時になってからトルク様たちの判断次第だ。
ヘルグと一緒に捕縛して捕虜にした七人の騎士も返還されずに見捨てられた。それを知った騎士の家の人たちはどう思うだろうか。内戦なら危険分子を刈り取ればいいが、うちや他の家に内応して敵を呼び寄せたりしたらどうするかな?
自分たちが蒔いた種がどんな植物か、蒔く時にしっかり確認しないといけないぞ。フフフ。




