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第8話 冬は自分を見つめ直すいい時期だ

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 第8話 冬は自分を見つめ直すいい時期だ

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 雪がぱらつく季節になった。

 しばらく狩りはできない。

 肉のストックは……大丈夫だ、なんとかなる。


 それからトルクさんが帰ってきた。

 男衆は一人も欠けることなく、帰ってきた。

 軽い怪我はあるが、大怪我を負った人はいない。本当によかったよ。


 戦といっても、多くは小競り合いをするだけのものらしい。

 なんという無駄な時間と労力だ。

 そんなことのために人を集めるのは止めてほしいよ。

 戦いたいなら、代表者同士で殺し合えばいいんだ。

 俺たち庶民を巻き込むなよ。





 本格的な冬がやってきた。

 昨夜から横殴りの雪が吹き荒れ、今朝は一面の銀世界だ。

 雪の日は外には出ない。家の中で大人しくしているに限る。

 自己を見つめ直すために使ういい時間だ。


 朝一で筋トレをし、その後に木刀の素振りを始めた。

 前世の同級生で、全国の常連の剣道部のヤツから聞いたことがある。

 ぶっ倒れるまで素振りをするんだとか。ぶっ倒れる直前の打ち込みが、最もいいものだと言っていたっけ。

 その究極の打ち込みを本番で出せると絶対勝てると言っていた。


 倉庫《自室》はそれなりに広く、木刀を振り回しても問題ない。

 やや重めの木刀を素早く振り下ろし、ピタリと止めるように心がけて素振りを繰り返す。

 これが意外と難しい。特に止めが。


 さらにでクロスボウ用の矢を作る。

 できるだけ矢は回収するようにしているけど、使っているうちに折れたり、傷がつく。

 それによい矢は十本作って一本あるかどうかだ。

 それをせめて五本に一本にしたい。

 そのためには作って作って作りまくるしかない。


 それからクロスボウの改造もしたい。

 実はよく故障するのだ。それを改善するために、素材になる木の種類を変えて造ってみる。

 これで故障しやすさを検証する。


 倉庫の中の作業はかなり寒い。

 手がかじかみ、体温が奪われる。だが、今の俺にはこれがある。

 火鉢である!


 うちは自前で炭焼きをしているのだが、鍛冶で使わないカスの炭が残る。

 それらを集めて粉状にし、それを樹脂で固めたものを燃料にすることができる。

 普通の炭よりは長持ちしないのだが、温度はこちらのほうが高くなるのだ。

 そのことを知った祖父と父は、鍛冶にこの樹脂炭を使い出した。

 代わりに俺が炭を使っているというわけである。

 火鉢を横に置き、さらに俺が狩ったイノシシの毛皮を羽織ればかなり温かい。


 木の種類を変えて組み立て、壊れるまで試射を繰り返す。

 そうするとクロスボウに合った素材が分かった。


 サルンの木はまるで鉄のように硬い。

 これはクロスボウの本体に適している。


 ユゲの木は程よい弾力があり、リム(弓)の部分の鉄と合わせて使うのに丁度いい素材だ。


 あと、矢も木によって真っすぐ飛びやすいものと、そうでないものがある。

 矢のほうはアルドの木という硬い木が合うようだ。


 そんなことをやっていたら、いつの間にか雪解けの時期になっていた。





 雪が降り積もる厳冬の頃、俺の甥が生まれた。

 長女シュラーマと次期村長のトルクさんの長男が生まれたのだ。

 出産時は母ノーシュも村長の家に手伝いにいった。

 初めての子だから、心配していたが、母子共に無事だ。


 子供の名前はネイルンになった。

 なんでも今は亡き前村長の名前だそうだ。

 村長の家は先祖の名前を踏襲することが多く、トルクさんも先祖の名前をもらっている。





 雪も融け、やっと狩りに出られると、家の前で背伸びする。

 まだ朝晩は寒いが、イノシシの毛皮は暖かいぜ。


「ノイス。これを持っていけ」


 ケルン兄さんが放ってきたものを慌てて受け取る。

 いきなり投げるとか、落としたらどうするのさ。


「これは……」

「俺が初めて鍛えた刀だ」

「え……斬れるの、これ?」

「要らないなら返せ!」

「いえいえ、要りますとも! お兄様に感謝感激雨あられです!」

「意味が分からんことを言うな!」


 もうお兄様ったらツンデレですか?

 刀をプレゼントをするなんて、俺のことが大好きなんだね!


「でも、なんか短くない?」

「お前はまだ小さいから、短めにしておいた。大人用の長さじゃ刀に振り回されるぞ」

「それもそうか。兄さん、ありがとうね。で、この刀の銘は?」

「そんなものあるわけないだろ。見習の俺が造った刀だぞ」

「いいじゃないですか~。この際、神刀ケルンなんてどう?」

「アホか、お前は。銘はなしだ。分かったな」

「ほーい」


 鞘から抜き、何度か振ってみる。いい感じだ。

 剣道はやったことないけど、この刀があれば俺は戦える!


「兄さん、ありがとー。いってくるね」

「おう」


 俺は神刀ケルンを腰に佩き、改良型クロスボウを担いで家を出た。

 この刀を神刀ケルンと呼ぶことは兄さんには秘密だ。フフフ。


 山に入って獲物の気配《魔力》を探る。

 最近は全力の魔力放出が百秒を超えてきた。

 その副産物の魔力感知は、集中することで四百メートルくらいを探ることができる。

 ただ、これはかなり集中するので、普通は二百メートル程度だ。


 俺の周囲には多くの魔力反応がある。

 野ネズミ、野ウサギ、リス、鳥などの小型の動物のものがほとんどだ。

 中・大型の獣の気配は……三カ所あるようだ。

 一つは北西に百五十メートル、二つめは北に二百メートル、三つめは東に百八十メートルだ。


「さて、どっちへいくかな……」


 イノシシっぽいのは、北西だな。

 坂を駆けあがり、木の上に登り、枝から枝へ飛び移る。

 いた! やっぱりイノシシだ。こいつも大きいな。まだ気づかれてないので、先手必勝!


 クロスボウに矢をセットし、狙いをつける。

 トリガーを引くと、矢は高速で飛翔しイノシシの首に刺さった。


「ブ……モ……」


 ドサリッ。


 改良したことで威力が上ったクロスボウの攻撃は、大きなイノシシを一撃で倒してしまった。


 前世ではイノシシ肉は癖があると聞いていたが、こっちの世界では甘くて美味しい。

 やはり世界が違うと、同じように見えても違うものなんだな。

 もっともイノシシの姿も微妙に違うけどね、大きさも。


 イノシシの後ろ足に縄を繋ぎ、木の枝に吊る。

 さすがに俺の数倍の重量のイノシシを吊るのは身体強化魔法を発動させないと難しい。


「ふんにーっ!」


 気を許すと一気に持っていかれそうだ。

 両足でしっかりと地面を掴む。

 なんとかイノシシを持ち上げ、その首を小刀で切り裂く。血が抜けていく。


「ちょっと休憩っと」


 木に持たれかかる。

 何があるか分からないから、腰は下ろさない。


 冬の間のことだ、安静にしていると魔力の回復量が多いことに気づいた。

 寝るのが一番だが、こうやって安静にしているだけでも魔力は回復していく。


 血が抜けたところで、腹を裂いて内臓をかき出す。

 近くにあるアシュネの葉を切って、拾ったところで―――。


「ちっ」



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