第62話 騎士がいなければ軍は烏合の衆だ
+・+・+・+・+・+
第62話 騎士がいなければ軍は烏合の衆だ
+・+・+・+・+・+
わたくしはスライミン・シュラード。
今、わたくしたちはアルカ城下の町にやってきています。
このアルカ城はシュバルクアッド家の本城です。
今は主力部隊が我がシュラード家討伐のために出払っています。
わたくしたちはそのアルカ城に忍び込んで工作を行います。
四十人以上いると、工作がすぐにすみます。
皆、この日のために訓練を積んできました。よい、動きです。
「師範。準備が完了しました」
「クラリッサさんありがとう。では、火を点けましょうか」
クラリッサさんが旗を振り、皆に合図をします。
それを機にアルカ城の各地で火の手が上がりました。
ソルバーン領ではカーナの木から油を取っています。
ノイス様が始めた石鹸作りに使われることが主ですが、油単体でも売れております。
その油を今回は大量に持ってきました。
ノイス様は「善意には善意を、悪意には悪意をもって報いる」と仰いました。
我がシュラード家を滅ぼそうとする者に容赦は無用です。
シュバルクアッド家とそれに味方した者らには、その報いを受けていただきます。
アルカ城焼き討ちは、その一環です。
今頃、シュバルクアッド軍はノイス様たちの襲撃を受けていることでしょう。
わたくしもあの気球に乗ってみたかったのですが、今回はこちらの指揮を執るため諦めました。
「師範。全員無事に脱出しました」
「では、撤退しましょう」
油を大量に撒きましたので、よく燃えております。
わたくしは知りませんでしたが、ノイス様は油の火を消す時に水をかけてはいけないと仰いました。
なんでも余計に火が広がるのだとか。
アルカ城の方々も水で火を消そうとしているのでしょうか。
無駄なあがきですね。
わたくしは城下町も焼かないのかと聞きましたが、ノイス様は庶民に罪はないと仰いました。
なんてお優しい方なのでしょうか。
わたくしたちは夜陰に紛れて山林へと入りました。
そこでララさんから情報共有が行われました。
ノイス様のほうは予定通り夜襲を敢行し、被害なく数百人の敵を討ったそうです。
フフフ。我が夫はなんと面白い方なのでしょうか。
帝都でわたくしを拾ってくださった方。
わたくしを面白き世に引き上げてくださった方。
わたくしはノイス様に感謝しております。
だから、ノイス様に仇なす者をわたくしは決して赦しはしません。
なんということだ、儂は何を見ているのだ。
目の前には五十以上の騎士の躯がある。その中にはアラム家当主ヘンドリック・アラムまで……。
アラム勢の騎士はほぼ全滅だ。
残った騎士だけでは軍の体を維持することはできん。指揮官のいない軍など、烏合の衆にすぎぬのだ。
「それは当家も同じか……」
我がシュバルクアッド家の騎士も八割が死んだ。
これでは軍を維持することはできぬ。
何を間違った?
シュラードとはいったいなんなのだ……?
「撤退する」
平民と違って騎士の補充は簡単ではない。
いや、平民も湧いて出るわけではないが、騎士とは根本的に違うのだ。
シュラードは分かっているのだ。
騎士がいなければ、軍を維持できないことを。
我が軍は騎士の大半を失った。
しばらくは出征どころか防衛さえ危ぶまれる。
アラム軍は当主とほとんどの騎士以外にも、大きな被害が出ている。
八百の兵のうち三百を失った。
たった二人によってだ。
三割以上の損害を出すということは、大敗と同義だ。
わが軍の兵にも、二百五十もの被害が出ている。
五千のうちの二百五十の被害は大したことない。
だが、騎士がいない。
騎士がいなくては、軍は成り立たん。
「ギース殿。我らは撤退する」
「そ、そんなこと! まだ七千の軍がいるではないですか!」
必死だな。
同じダルバーヌ家に属する味方を討つと軍を動かした以上、ただでは済まぬのだろう。
シュラードに攻められる。
それが目に見えている。
一晩にして七千の兵を擁する我が軍を追い返すシュラードが攻めてくるのだ、恐怖しかないだろう。
「済まぬな。これ以上は進めぬ。騎士がいないのでは戦どころではない。それはギース殿も分かっておろう」
「うっ……」
「ダルバーヌ家には儂からとりなしの書状を送っておく」
それで済むとは思わぬがな。
軍を引き返している最中だった。
早馬が我が元にやってきた。
「申しあげまする!」
「許す」
「アルカ城が焼き討ちされましてございます!」
「なっ!?」
儂は思わず軍配を落としてしまった。
シュラードが我が拠点を攻めるとは思いもしなかったからだ。
「被害は!?」
「は、はい……城は全焼……」
「なんだ、はっきり言うのだ!?」
「はい! 奥方様はじめ、アルカ城内にいた方々は逃げることもできず、皆様……お亡くなりになりました」
儂はその場にへたり込んだ。
シュラードはそこまでするのか!?
いや、こちらがシュラードを滅ぼそうとしたのだ、向こうだってやり返すことだろう……。
だが! だが、それでも儂を殺すならともかく、なぜ女たちまでも……。
「くっ……シュラードは悪魔か」
儂はこれ以上ないほどの後悔をした。
大公の命に従ったのは、欲からだ。
あの御教書があれば、このジール州を統一できると思ったのだ。
だが、蓋を開ければ、このざまだ。
儂は信の置ける者を数多く失ったばかりか、家族まで失った。
儂には子はおらなんだゆえ、儂の従兄弟のガーナンかその子を次の当主にするつもりだった。
そのガーナンも行方不明だ。
死体はなかったが、あやつはいったいどこにいったことか。
幸いなことにガーナンの子は生きているようだ。
それが不幸中の幸いか。




