第60話 三カ月もあれば色々な準備ができるものだ
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第60話 三カ月もあれば色々な準備ができるものだ
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毘沙門党のメンバーを集めた。
農閑期になる夏にシュバルクアッド家プラス数家が攻めてくる公算が大きいことで、皆にこれからのことを説明するためだ。
「謂れのない討伐令が発せられた。敵は八千を超える大軍を擁し、このラントール城を目指してくる。だが、ヤツらをソルバーン領に一歩たりとも入れるつもりはない。敵の親玉をはじめ、敵に与したヤツらに俺たちの恐ろしさを思い知らせてやろうじゃないか!」
「「「応!」」」
毘沙門党は総勢八十人になる。
そのうち、十歳未満と非戦闘員が二十人だから、六十人が今回の戦力だ。
あと、どうしても剛雷のゲキハがついてくると言うので、プラスワンだ。
てか、よくも八十人も集めたな、俺。
周辺から集めただけでこれだ。この国全体でどれほどの子供が捨てられたり売られたりしていることか……。考えるだけで鬱になりそうだ。
そういうことがもっと少なくなってほしいと思うし、俺も手の届く範囲で子供たちを助けてやりたいと思う。
「腕が鳴るぜ!」
俺が考え込んでいたら、タタニアが青龍偃月刀を振り回す。おい、危ないから止めろよ。
「ヘヘヘ。タタニア、どっちが多く大将首を取るか競争だぜ!」
「負けて泣くんじゃないぞ、ホッタン!」
ホッタンも槌を振り回すな。
今は初春。
シュバルクアッド軍が攻めてくるのは夏以降、まだ三カ月ある。
それだけあれば、色々備えることができる。グフフフ。
春の間、俺たちはきたるべき戦いに備えた。
大量に肉を焼き、パンを焼き、スープを作った。
それらを俺の無限収納魔法に収納すれば、現地で煮炊きの必要なく暖かい食事ができる。
その他の用意したものもいい感じだ。
ラントール城の修改築も始まっている。
石鹸と塩で得たお金があるため領内から人を集めた。報酬を出す工事だから、多くの人が集まってくれた。
彼らは防壁と土塁を築き、櫓を建て、堀を掘っている。
工事はテアス・ガルドさんが担当し、そこでもニュマリン姉さんが活躍した。
石魔法を使うニュマリン姉さんは、頑丈で高い防壁を築いている。
魔力量が多いので、結構な勢いで防壁が築かれていった。
地魔法を使うレンドルも大活躍だ。
深くて広い堀を掘りまくっていた。
そろそろ畑がひと段落する。
大量の物資を収納した俺は、ラントール城下を出た。
敵に気取られないために、三人から六人のグループで、別々に出ていった。
剛雷のゲキハは夜中に城下を出てもらった。
あんな大男が動くと目立つからな。
俺はスライミン姫とクラリッサ、それから弟のマルダを連れて出た。
仮に敵の斥候がいたとしても、子供が村を出たところで気にはしない。
再び六十一人が集まったのは、ある山の中だ。
たった六十一人とはいえ、集団で動くと痕跡が残る。
だから、動く時は数人で動いた。これなら痕跡が残ってもそこまで警戒されることはない。
「ロッガ。敵の動きはどうだ?」
「数は八千もいないんじゃないか? 精々七千といったところだと思うぞ。ルテア街道を北上してくるぞ」
「各家からの援軍が少なかったんだろうな」
シュラードとソルバーンを倒しても、ラントール城が手に入るだけだ。石鹸などの生産をしているが、領地としては小さい。
全力の軍を出して、何も得られなかったら目も当てられないから、数を少なくして出費を抑えているのだろう。
ルテア街道はルテア平野から南に延びる街道で、シュバルクアッド領を通ってジール州の南のレイジーグ州まで伸びている街道だ。
大軍を動かすには、使いやすいというかここしかないという道だな。俺の感覚では獣道に毛が生えたものだけどね。
「敵は大軍だから、進路が分かってもいいと思っているようだな」
「舐められたものだぜ。すぐにぶっ潰してやるからな!」
だから青龍偃月刀を振り回すなって、危ないだろ!
「ハハハ! お嬢、早く暴れたいものですな!」
てか、剛雷のゲキハまで斧を振り回すんじゃない! お前、いい大人だろ!
「ヤツらが野営する場所は分かるか」
「この辺りだな」
ロッガが地図の上を指差す。
春の間に、ロッガに作ってもらった。
俺たちが住むジール州だけじゃなく、東のアポルト州、北のレイジーグ州とクトリア州に至る広大な土地の地図だ。
鳥の目を通して上空から俯瞰しながら地図を描けるロッガは本当に貴重な人材だよ。
鳥魔法は孤児だったリッカも使える。
あの子も地図作りに一役買ってくれた。
ただし、まだ七歳なので、今回は連れてきていない。
そこで作戦の再確認を行い、俺たちは二手に分かれた。
俺が率いる十数人とスライミン率いる四十数人だ。
作戦決行の夜、俺たちは動いた。
今回、シュバルクアッド家に味方するのは、シャイフ家、アラム家。
驚いたのは、参戦を早くから決めていたアシャール家が動いていないことだ。噂では当主が病にかかったとか。本当かは分からない。
また、トルク様が属すダルバーヌ家は様子見だ。
ダルバーヌ家に属しているのに、シャイフ家はシュバルクアッド家に味方した。
ラントール城を取り上げられたことを未だに根に持っているんだろう。しつこいヤツだ。
「皆! 愚かな大将軍に踊らされたシュバルクアッドたちに目にものを見せてやるぞ!」
「「「応!」」」
俺はそれぞれに指示を出す。
「エグルの第三部隊は東から侵攻」
「了解!」
エルグの第三部隊のメンバーは、少しだけ変更がある。
バルナン、リット、クママ、レンドルと少なくなっている。
エルグは闇魔法の使い手で、部隊を闇に隠して移動ができる。
敵が気づいた時には、目の前にはエルグの双短剣があることだろう。
「タタニアの第一独立部隊は南から侵攻」
「あいよ!」
タタニアの第一独立部隊は、タタニアと剛雷のゲキハの二人だけの部隊だ。
ここは完全な脳筋部隊だな。
囮部隊として派手に暴れてくれればいい。
「ホッタンの第二独立部隊は西から侵攻」
「応!」
ホッタンの第二独立部隊はグルダとシューがメンバーになる。
ここはホッタンとシューという脳筋二人を、グルダが上手いこと操ってくれることに期待する!
俺は籠に乗り込む。
その籠には高熱魔法の使い手であるハックと意思疎通魔法のララ、そして姉のウチカが乗り込んだ。
ハックの高熱魔法は父さんと同じ魔法だ。このハックもこの三年で魔力量を大きく伸ばしているため、父さんでは相手にならない。(合掌)
「ハック。やってくれ」
「はい」
ハックが空気を熱すると、籠は徐々に浮き上がっていく。そう、これは気球だ。
春の間に用意した航空戦力で、機械をまったく使ってないから作るのは簡単だった。
百メートル、二百メートル、三百メートルと夜空に浮かぶ気球。
およそ五百メートルまで浮かび上がった。
「姉さん、頼んだよ」
「分かったわ」
ウチカ姉さんの魔法を覚えている人はいるだろうか? キキ谷と言えば思い出すかな? そう、ウチカ姉さんの魔法は風だ。
気球に風を当て、目標の場所へと向かう。
この微妙な風加減が大事なんだよ。あまり強いと、気球が壊れて落下となりかねないからさ。
「ララ。ロッガはなんと言っている?」
「もう少し左」
「姉さん、よろしく」
「ほーい」
ロッガが鳥の目を通し道案内をする。
ララは意思疎通魔法でロッガと俺たちを繋ぎを取る。
高度が下がればハックが気球の中の空気を温める。
気球が流されたらウチカ姉さんが風で方向を調整する。
そうやって俺たちは空から敵の真上へと進んだ。




