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第53話 リットはどうしても千射が嫌らしい

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 第53話 リットはどうしても千射が嫌らしい

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 カサワ港のアルタンさんの店で、俺はヘビに睨まれていた。いや、アルタンさんに睨まれているのだ。


「ご結婚したとか。おめでとうございます。フフフ」


 笑みが黒いんですが!?


「ノイス様はクラリッサを妻にしてくださると、私は思っていましたよ。オーイオイオイオーイオイオイ」


 今度は泣きマネですか……。


「あ、あの……アルタンさん。俺はたしかにスライミン姫を妻に迎えましたが、クラリッサも好きです。こんなこと言えた義理ではないことは重々承知していますが、クラリッサを俺の妻にください」


 アルタンさんはガバッと顔を上げた。

 まったく涙を流した跡はない。

 その顔がニヘラと歪む。


「はい、喜んで!」


 これが言いたかったのですね……お義父さん。


「あ、ありがとうございます……」


 クラリッサのいないところで妻に迎えることが決まったのだが、帰ったらちゃんとプロポーズしなければいけない。そう思うんだ。

 スライミン姫のことで膨れられるかもしれないけど、根気よく結婚してもらえるようにお願いしよう。





 船に乗り込んで四日目、海賊が現れた。

 アルタンさんの船より小ぶりの船が三隻だ。


「なんであれが海賊だと分かるんですか?」

「旗を見てください。家紋がこの辺りの海人のものではないのです」


 海人は海銭を徴収するため、必ず自分の家の家紋を掲げるらしい。

 相手が交易船ならお互いに一定の距離を取って行き交うなりするのだが、その行動もとらない。

 基本的にその海域を支配している海人以外が、意識的に近づいてきたらアウト。そういうことらしい。


「海賊は潰すに限りますよね」

「そうですが、基本的に逃げますよ?」

「俺は勝手に弓を射るだけですから、気にしないでください」

「そうですか……?」


 アルタンさんは好きにしていいと言ってくれた。

 船長も特に何も言わないので、OKってことだろう。


「リット。俺の強弓ベータと太矢を持ってきてくれ」

「もう持ってきました」

「気が利くねー」

「そうでしょ。ですから、帰ってからの千射は勘弁してくださいよ」

「分かったよ、九日に短縮するから」

「一日だけ!?」

「え、不満? 不満を言っちゃうわけ?」

「いえいえいえ! わーい、一日も短縮してもらったぞー!」


 リット君や、口は災いの門と言うからね。つつしもうか。


 さて、俺は直径五センチメートルほどの太い矢を手に取った。まあ、先はデカい鏃だが、槍や銛を矢にしようなものだ。

 この太矢を見て、アルタンさんや船長がギョッと目を剥いた。


「ノイス様。その矢を射るのですか?」

「そうだよ、スライミン姫」


 スライミン姫ににっこり微笑む。

 元々の強弓の弦はワイヤーが一本だったが、この強弓ベータの弦は五本のワイヤーを編み込んだものになっている。

 もちろん、弓のほうも強化されているので、より強力な矢を射ることができる。


 彼女にいいところを見せるためにも外せない。

 船は波に合わせ大きく揺れる。

 体幹を意識し、揺れに負けないように甲板に足を固定する。

 強弓ベータに太矢を番えると、ワイヤーの弦を引く。

 強弓ベータの弦のワイヤーは、ケルン兄さんがいてくれるから手に入ったけど、そうじゃなければ簡単には作れないものだ。


 身体強化フルバースト!

 身体強化魔法を最高出力で発動させる。

 さすがに、最大出力じゃないとこの強弓ベータは引けない。


 こちらの船は揺れているし、海賊船も動いている。

 狙いをつけるのがなかなか難しい。

 だが、俺はその一瞬を見切った。シュートッ!


 太矢が大気を貫いて進む! 太矢は強い海風にも負けず真っすぐ飛翔し、海賊船の船体に着弾。

 さすがに爆発はしないが、船体を貫通し大きな穴を開けた。

 その穴から海水が船体に入っていくのを見届けると、次の太矢を番える。

 二射、三射と太矢を射る。他の二隻の船の船体に大きな穴を開けてやる。

 浸水した海賊船は徐々に沈んでいった。


「「「………」」」


 皆が沈みゆく海賊船を見つめている。


「船長。俺が言うのもあれだけど、賊は助けないのだろうか?」

「あ、ああ……海賊なんぞ助けたところで縛り首だからな。放置でいいだろ……。しかし、坊ちゃん」


 坊ちゃん? 今までそんな呼び方されなかったよね?


「あんた本当にヒューマンか? 実はトロルやオーガの血が入っているんじゃないのか?」

「さすがにそれはないと思うけど……うちの母さんが怒ると、オーガより怖いからなー」

「ぷっ。なんだ、それ? アハハハ」


 パイレーツな容姿で隻眼の船長は、お笑いを理解してくれるようだ。


「聞いたよ、ボス。ヘヘヘ」

「なんだよ、リット。そんな厭らしい笑い方をしてどうした?」


 お父さんのアルタンも同じような黒い笑みをしていたぞ?


「オーガより怖いと言っていたと、ノーシュおばさんに言っちゃおうかなー」

「なっ!? リット、お前!」

「千射はなしでいいよね? ね、ね?」

「く……分かった千射はなしでいい」

「やったー!」


 そんなに嬉しいか、リットよ。

 だが、千射はなしと言ったが、千一射がないとは言ってないぞ。フフフ。


 その後、俺たちは順調に進んでソト港へと帰りついた。

 すぐにジャバス城へと向かい、ロベルトの十四位・兵馬少尉任官について報告した。

 ロベルトは大変喜んでいた。



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― 新着の感想 ―
ノイスのパワハラ上司感が高まってきたような
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