第51話 野盗たちの末路は……
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第51話 野盗たちの末路は……
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スライミン姫との縁談はあっという間にまとまった。
彼女は俺を見てから決めると言っていた。
俺は彼女のお眼鏡にかなったのかな?
「え、スライミン姫も俺たちと一緒にソルバーン領にいくのですか?」
「うむ。婚儀を済ませたら、共に発つことになる」
「もう婚儀を!?」
「何を驚いているのか。ノイスはすでに初陣を済ませた立派な男である」
「ですが、まだ十歳ですよ」
「早婚は珍しくもない。これまでに三歳で嫁を迎えた貴族もいるぞ」
「いや、それは早すぎでしょ!」
「ハハハ。貴族の結婚とは家と家の結びつきの面が大きい。年齢はそこまで重要ではないのだ」
ぶっちゃけたな、養父上!
その五日後には、スライミン姫と俺の婚儀が行われた。
質素な婚儀だが、今の貴族の婚儀はこんなものらしい。
神殿とかまったく関係なく、宿泊しているアフィス家の一角を借りて行った。
アフィス家には世話になりっぱなしだから、色々お渡ししている。
帰ってからも何か贈り物をしよう。
「さて……君とこうして結婚したわけだが、俺にはソルバーン領に妻にしたいと思う子がいる」
いきなりこんなこと言われたら引くことだろう。
だが、クラリッサのことを黙っているわけにはいかない。
「その方のことがお好きなのですか?」
「うん」
「わたくしのことはどう思っておいででしょうか?」
「スライミン姫も好きだ。まだ少ししか話はできてないが、尊敬できる人だと思っている」
「わたくしもその方も等しく可愛がってくださいますか?」
「もちろんだ! 二人を等しく愛すると誓うよ!」
まだクラリッサを妻にすると決まっていない。
だが、俺の心の中において、クラリッサはすでに俺の妻である。
婚儀の翌日、俺は朝早くから木刀を握った。
昨夜? 何? 何を言わせたいわけ? してないよ? するわけないじゃん。 相手は十一歳の子供だよ?
しかも俺自身精通してないガキの体なわけ。しねーよ!
リットを相手に、体が鈍ってないか確認をしていく。
「ここ最近は忙しくて稽古どころじゃなかったが、体はなんとか動くか」
「はぁはぁ、ちょっと休憩を……」
「だらしないぞ、リット」
「ボスを相手にして稽古なんて、僕には荷が重いよ」
地面に座り込んだリットが肩で息している。
仕方がない。素振りをするか。
「ノイス様。わたくしがお相手しましょう」
「ん、スライミン姫? 君は刀を使えるのかい?」
「少しは使えますよ」
「なら、相手をお願いするよ」
スライミン姫と向かい合い、呼吸を合わせる。
「はっ!」
「っ!?」
鋭い踏み込みからの突きを受け流す。
スライミン姫の突きの鋭さに、俺は目を見張った。
すごいな、この姫様。突きだけじゃなく、どの攻撃も鋭い。
俺より一歳上の少女なのに、すごい腕前だ。
「お上品な姫様と思っていたが、達人だったか」
「フェース家の家職はフェース刀術ですよ。お忘れですか?」
「あ、そうだった!」
見合いの場でフェース家のことを聞いたことがある。
その際に家職が刀術だと聞いたっけ。
「これでもわたくし、刀の腕には自信があります。ですが、ノイス様はそのわたくしの刀を軽々と受け流してしまいますわ」
身体強化なしでは、受け流すだけで精一杯だけどね。
「スライミン姫。俺にもそのフェース刀術を教えてくれないか」
「ええ、構いませんわ」
その日から俺はスライミン姫にフェース刀術を習い始めた。
が、その翌日には帝都を発つことになっているので、本格的な稽古はソルバーン領に帰ってからだ。
帝都を発った翌日の朝、俺たちの前に五十人ほどの集団が立ちはだかった。
このみすぼらしい風貌の男たちは、野盗の類か?
「何者だ!?」
当家の従者であるサルダーンが誰何しても、男たちは不適な笑みを浮かべている。
「ヘヘヘ。女と金を出しな」
その言葉で野盗だと俺たちは判断した。
「リット分かっているな」
「うん。大丈夫」
殺さなければ殺される。
俺とリットは瞬時に矢を番え、射た。
俺の矢は二人の男を貫通して、三人目に刺さった。
リットの矢も軽く一人を射貫いた。
速射。俺は十秒にも満たない間に五射した。
リットも二射すると、あっという間に十数人の野盗を減らした。
「な、なんだあの餓鬼は!?」
こんなことで驚いているんじゃ、ロクな死に方はしないぞ。
俺はさらに矢を射まくった。
「こ、降参だ! もう止めてくれ!」
誰かがそう叫んだが、俺は射るのを止めない。
なぜならそいつは武器を捨ててないからだ。
降参するならまずは武器を捨てるべきだ。
それをしないヤツの言葉など誰が信じるか。
野盗たちの悲鳴が響き渡る。
ヤツらは攻撃を仕掛けてくることなく、逃げ出した。構わずその背中に射かける。
「サルダーン。生きているか確認を」
「はっ!」
サルダーンと兵士たちが生存者の確認をする。
「養父上。時間が惜しいので、近くに住む民に処分を任せてよろしいでしょうか」
「うむ。構わん」
生存者の確認が終わったサルダーンにその手配をさせる。
さすがにこれだけの死体は放置できない。
埋めるか焼くかしないと疫病の元になるからな。
「これは少ないが取っておいてくれ」
ポケットマネーで、処分費を渡す。
彼らとしては死体から金目のものを剥ぎ取れるので、二重でお得だ。
「スライミン姫。あまり見ないほうがいい」
「ご配慮ありがとうございます」
普通の少女なら真っ青になっていてもいい場面だが、スライミン姫はしっかりと死体の山を見ていた。強い子だ。
「リット。二射外しただろ」
「うっ……。まだこの弓に慣れてないんだ」
リットはレンドルからもらった機械弓のせいにした。
「まあ、道具の扱いに慣れるのも大事だからな」
弘法も筆の誤り(ここで使うような意味ではない)と言うし、慣れてないなら仕方がない。
「そ、そうなんだよ」
「よし、ソルバーン領に帰ったら、一日千射を十日間な」
「えーっ!?」
「慣れてないんだ、慣れるまで射るしかないだろ」
努力は裏切らない。がんばれ、リット。
俺たちは旅を再開した。
俺は馬に乗り先ほど使った矢の傷み具合を確認する。
強弓で射た矢はほとんどが駄目になる。威力が強すぎるのだ。
俺が射た矢は全て駄目になっていた。やっぱり普通の矢では強弓のパワーを完全に引き出せないな。
強弓の時は、槍のような太い矢を使うのだが、今回は荷物になるからアルタンさんの店においてきたんだよ。
その日のうちにカサワ港に到着し、アルタンさんの店の世話になる。