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第45話 ソルバーン家は身内で固める

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 第45話 ソルバーン家は身内で固める

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 春がやってきた。

 今年は戦などなく、平和な一年であってほしいものだ。


 ニュマリン姉さんがクラウド・ライデムさんのところに嫁いだ。

 騎士の結婚式は身内の前で固めの酒を交わすだけで終わりだ。(極道か!?)

 披露宴はないが、集まった身内には料理が振舞われる。


「クラウドさん、ニュマリン姉さん、おめでとう」

「ノイス殿、祝ってくれて嬉しいよ」

「ありがとう、ノイス」


 クラウドさんはラントール城下に騎士用の屋敷が与えられ、二人で暮らすことになる。

 ライデム家から従者が一人と小者(使用人)が二人ついていく。

 クラウドさんは次男だから、親と同居にならない。


 ソルバーン家の騎士で、領地を持っているのはシュラード家だけだ。

 他の騎士はソルバーン家から俸給が出る。


 ソルバーン家が強くなるには、優秀な人材を多く抱える必要がある。

 シャイフ家が統治していた頃だと、騎士を六人しか抱えられなかった。

 だが、ソルバーン家は抱える騎士の数を増やすことが可能な経済力がついた。

 その主な要因は石鹸の製造販売だ。


 シャイフ家が統治していた頃は、石鹸の生産がなかった。

 それが去年は一年を通じて石鹸作りができたため、税収が跳ね上がったのだ。


 しかも今はソルバーン村の元俺の家が丸々石鹸工房になっているほどに規模も大きくなり、今年の税収はさらに上がるものと見込まれている。


 石鹸の生産については、初年度が三百キログラムを生産し、物納が六十キログラム、納税額は鉄貨三十六万枚だった。

 二年目(昨年)の生産量は初年度の十倍の三千キログラム、物納は六百キログラム、そして納税額は鉄貨四百六十八万枚だ。

 今やソルバーン村は石鹸の生産地となり、村人たちもその恩恵を受けている。


 また、物納した分は領主家で消費するか、贈り物に使っている。

 石鹸のような珍しく高額な品を贈られた人は悪い気はしないようだ。


 話は逸れたが、大人たちは和気藹々で酒を飲み交わしている。

 子供たちは食べる専門で、俺も照り焼きの鳥肉を頬張り麦飯を掻きこんだ。

 この麦飯だが、前世ではもち麦と言われるものを使っている。

 クラリッサの父のアルタンさんが交易で手に入れたものの中にこのもち麦があったのだ。

 正式な名称は中麦なかむぎというらしい。

 もち麦は米の代替品として十分な美味しさがある。

 前世の米の味までとは言わないが、贅沢を言うときりがないからね。




 仲春、俺は十歳になった。

 気温もそこそこ上がってきたため、俺は塩の生産を始めた。

 そんな時、海岸で思わぬ拾い者をしてしまった。


「お前、名前は?」

「………」


 海岸で倒れていた子供がいた。それが、この何も言わず俺を見つめている子だ。


「腹は減ってないか?」

「………」


 コクンと頷く。

 年の頃は十歳くらいか。痩せ細り、口が利けないほど憔悴しているのか。


「これを食っていいぞ」


 パンを差し出すと、ひったくるように取っていった。


「お前!」


 一緒にいるタタニアが名無しの権兵衛に飛びかかろうとするが、それを制す。


「いいんだよ」


 子供がひもじい思いをしているなら、助けてやりたい。

 大人は放っておけばいい。何かしら働けば、食い扶持にありつけることが多いから。だが、子供はそうじゃない。だから助けてやらないといけないんだ。


 この子の名前はなかった。本当に名無しの権兵衛だったのだ。

 だから俺がコンタという名前をつけて、引き取った。


 この子は俺が引取った。食事を与え、文字を教えた。

 そして……。





 俺が導入したのは流下式塩田だ。

 海水を汲み上げるためのポンプが必要になるが、そこは鍛冶師の息子の縁故を最大限に利用したさ。


 父さんとケルン兄さんに手押しポンプを作ってもらった。

 手押しポンプは井戸水を汲み上げるのにも使えるため、作れば作るほど売れるはずだ。


 もっとも、構造はそこまで難しくないので、すぐにコピーが作られると思うけど。

 それまでにいかに儲けるかがカギだと、母さん(父さんじゃないよ)に言っておいた。


 この流下式塩田では最後ににがりが取れるので、わざわざにがりを作らなくて済むのもいい。


「これはすごいな! よくやってくれた、ノイス!」


 流下式塩田を視察したトルク様からお褒めの言葉をいただいた。


 石鹸は俺が一から立ち上げたもので、生産したものは全て俺に権利がある。

 トルク様は生産量の二割を物納することで、その権利が俺にあると認めている。


 この流下式塩田の建設費はすべてソルバーン家が出しているため、ソルバーン家の直営になる。

 俺に三割の権利を与えるとトルク様は言ったが、俺はその権利を他の騎士家に与えるように主張した。

 俺だけが儲けていると、他の騎士家に嫉妬されるかもしれないからね。

 俺としては、石鹸とこれから立ち上がるガラスで十分以上に儲けるつもりだからさ。


 責任者はサムラート・ライデムさんになった。

 サムラートさんは長男で嫡子のブロスさんと共に流下式塩田があるライロン村に居を移し、その管理を行うことになった。


 サムラート家はシュラーマ姉さんとニュマリン姉さんを通じてソルバーン家の縁戚になった。

 クラウドさんがトルク様の義弟になったことで、准一門衆という立場を手に入れたのだ。

 トルク様もサムラート様もお互いにこうなると思っていたわけではないが、結果的に結びつくことになった。


 塩は重要な戦略物資だ。

 塩がなければ人は生きていけない。

 そんな重要な塩の生産を任されたことで、ライデム家はソルバーン家により一層の忠誠を誓うことだろう。


 トルク様は着々と地盤固めを行っている。

 シャイフ家から移籍したシュラード家、ライデム家、ガルド家の三家が全てソルバーン家の縁戚になった。


 ガルド家には元々村長(ソルバーン村の村長)の姉が嫁いでおり、現当主はトルク様の従兄弟になる。

 当然ながら一門衆だ。


 そしてシュラード家には俺が養子に入って一門衆になっている。


 さらに今回ニュマリン姉さんがライデム家に嫁にいき、准一門衆になっている。


 他の騎士であるゴドランさん、タタニア、ホッタンは元々ソルバーン村の出身で、タタニア同様に毘沙門党のメンバーだ。


 最後に剛雷のゲキハだが、あのデカいオッサンはタタニアの指示(頼み)に「イエス」しか言わない。

 ロリコン野郎め。



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