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第43話 魔力を増やす方法は、決して外に漏らすでないぞ

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 第43話 魔力を増やす方法は、決して外に漏らすでないぞ

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 シュラード家には多くの書物がある。

 軍学書や貴族の礼法書、そして地図まであった。


 この国はシュリンダール帝国といい、大きな二つの島からなる所謂島国である。

 シュリンダール帝国には三十の州があり、俺たちが暮らすジール州は、最北の州になる。

 南のほうの州では、雪は滅多に降らないらしい。


 我がシュラード家は、清涼家という家格になる。

 貴族の家格は、上から英麗家えいれいけ清涼家せいりょうけ三衆家さんしゅうけ頼衆家らいしゅうけ名家めいか准名家じゅんめいかがある。

 つまり、シュラード家は上から二番目の家格の貴族なのだ。


 騎士家の多くは貴族に仕える家柄で、貴族が持つ領地の代官をしていた。

 それが徐々に力を持ち、気づけば貴族の領地のほとんどを騎士たちが横領した(パクッた)わけだ。


 一応、シュラード家は英麗三家の一家、ヘッテンジール家の分家になり、六百年以上の歴史を持つ家だ。

 さらにシュラード家から多くの家が派生している。

 過去には宰相を何人も輩出している名門中の名門の家柄なんだとか。

 そんな高貴な家に俺のような庶民の子が養子に入っていいのだろうかと思わないではない。


 養子に入ったからには、養父カインより家の歴史などを教授いただいている。

 六百年もの歴史を持つ家の、その時代の当主がどのようなことをなしたのか。そういった記録が大量にある。

 初代から養父カインに至るまで学ぶのだが、さすがにそらんじられるように覚えるのは無理だ。

 俺にそういう頭はない。


「中央の貴族たちは財政が逼迫しておる。ゆえに時候の挨拶などにかこつけて、名産品などを贈っておる」

「騎士に領地を横領され、貴族の方々が財政的に厳しいことは理解できます。しかし、当家もそれほど財政豊かではなかったと思うのですが、それでも名産品などを贈っておられたのですか?」


 シュラード家はソルバーン領内にあるセブ村の半分を治めている。

 シャイフ家の被官になる代わりに、その税収はシュラード家が得ていたのだ。

 それはソルバーン家になっても変わらずで、今もセブ村の半分を治めている。

 そこからの税収は決して多くない。

 それなのに、本家や分家の貴族などにお金を含め、名産品を贈っていた。

 おかげでこの家の蔵は空っぽだったよ。


「当家も苦しいが、苦しいのは皆同じなのだ。持ちつ持たれつというものよ」


 古い家にはそれだけしがらみがある。

 貧乏なのに他人の面倒を見ているのだから、「苦労をするわけだ」とくたびれた姿の養父を見つめる。


「何、これでも中央に太い縁故があるのだ。おかげでシャイフ家からはそれなりに重用されていたのだぞ。前シャイフ家当主は我が家を通じて兵部小尉ひょうぶしょうじょうという国の役職を得ておった」

「そういえば、養父上は内侍司ないしのつかさでしたね」

「うむ。内侍寮は騎士を統括する役所での、儂はそれを司る役職である。上には内侍卿という役職があり、これは皇族の方が就くことが多いことから、司が実質的な長官であるな」


 だが、その役職は形骸化していて実権はない。

 内侍卿でも内侍司でも騎士を御し得ることができないのは同じだ。


「その顔は実権がないと思っておるのだろうな」

「分かりますか?」

「分かるとも。だがの、実権はなくても権威には繋がる。内侍司は帝城への登城を許された七位職であるからの」


 帝城に登城するには、基本的に十位以上が必要だ。

 これは職位というもので、上は一位から下は三十位まである。


「ノイスにも役職をいただく必要があるのう」


 いや、要らんし。


「そう、嫌そうな顔をするでない」


 顔に出ていたか。

 俺はポーカーフェイスな男だと自分では思っていたが、どうも違っていたようだ。


「我がシュラード家はのぅ、代々内侍司を輩出した家である。そなたもいずれは内侍司となるのだ」

「シュラード家には多くの分家があるのでしょう? だったら、その人たちに内侍司を引き継いでもらえばいいのではないですか?」

「たしかに血はノイスよりはるかに濃い」


 いや、濃いどころか、俺にシュラード家の血は一滴も入ってないと思いますよ。多分。


「だが、その者らはシュラードではない。シュラードを継ぐのは、ノイス、お主である」

「ゴクッ」


 なんだこの重苦しい圧力は……?

 これがシュラード六百年の歴史の重さなのか?


「それに数年もすれば、ノイスがシュラードの当主になるのだ、お主は新しい魔法を覚えてもらう」

「……え?」


 ちょっと待て!

 魔法って生まれ持ったものしか使えないんじゃないのか!?


「フフフ。驚いておるな」

「そ、それはもう。……本当に新しい魔法を覚えることが出来るのですか?」

「出来る。だが、それには、いくつか条件がある」

「条件……ですか? その条件とは?」

「そうくでない」


 急くよ!

 だって、養父がいきなりぽっくりいったら、覚えられないじゃないか!?


「ハハハ。もし、お主に魔法を授けず儂がぽっくり逝ったら、そこの箱を開けるがよい」


 漆塗りの箱が置いてある。

 てか、あんなところに置いておいたら、盗まれないのか!?


「もしその箱が盗まれたりしたら、中央へ赴き本家にいくがいい。さすれば、授けてもらえよう」


 なんだ、一子相伝じゃないのか。


「ですが、二つめの魔法を覚えることができる条件はなんですか?」

「魔力だ。多くの魔力を持つ者は、その魔力量によって魔法を増やすことができる。お主の魔力ならば、問題なく次の魔法を修めることができよう」


 魔力を増やす努力を続けてきた甲斐がありましたよ!


「儂は魔力が少ないゆえ二つめの魔法を覚えることは出来なかった。だが、お主であれば本家も認めよう」

「養父上は俺の魔力がどれほどか、感じることができるのですか?」

「できるぞ。そして、お主の魔力が今も増え続けていることも知っておる」

「え……」

「そんな顔をするでない。魔力量が《《増えることもある》》と貴族では普通に知られておる。もっとも三衆家以上の家の者だけだがな」


 ん? 今なんか引っかかったぞ。


「貴族は魔力を増やせるのですか?」

「魔法を使っていたら増える者がいる。そういうことは知られておるな」


 十五歳までは鍛えれば鍛えただけ魔力が増えるんちゃうのか?


「あ、あの……どれだけ魔法を使ったら増えるのですか?」

「さてのう。儂は増えなんだからのう。むしろ、ノイスのほうがよく知っておるはずだ。子供たちの魔力量が増えているのは、意識的に増やしておるのであろう。それは決して外に漏らしてはならぬぞ。それは家を盛り立てる切り札になるものであるからの」

「は、はい」


 どうやら意識的に魔力を増やした貴族はいないようだ。

 使えば増えると知っているなら、すっからかんになるまで使い続けるくらいのことはしそうなんだがな。



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