第42話 裏切り者は地の果てまで追いかけるから
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第42話 裏切り者は地の果てまで追いかけるから
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シュラード家の屋敷はかなり広い。
住人は養父カイン、従者ロッシュ、屋敷の管理をするタームとケルンの老夫婦の四人だ。
そこに俺と主な毘沙門党のメンバー、グルダ、バルナン、リット、エグル、クママ、レンドル、シュー、ララが引っ越した。もちろん、クラリッサもね。
ホッタンとライダンはソルバーン村に残した。
タタニアとロッガ、レンは海のそばのライロン村に移り住んでもらうことになった。
これによって部隊を再編した。
毘沙門党ソルバーン支部を設立し、代表者をホッタンにする。
メンバーはライダンのみだ。
同じく毘沙門党ライロン支部を設立し、代表者をタタニアにする。
メンバーはロッガとレンだな。
第三部隊長はそのままエグルで、メンバーをグルダ、リット、クママ、シューとした。
第二部隊はメンバーが増えた時に再編する。
第一部隊は俺が隊長で、メンバーはクラリッサとララになる。
ハーレムじゃないからな!
ライロンに移り住んだレンは、生産メインの仕事になる。
石鹸、塩、ガラス生産の責任者だ。
そして俺はしばらく領内を養父カインと歩き回った。
目的は領内の地形把握、戸籍作成、人材確保である。
地形把握は山林を含めたできるだけ詳細なものを確認する。
養父カインはキツい山歩きをものともせず、俺についてきた。さすがは騎士だと思う。
そんな養父の魔力は結構多い。
元中央の貴族だった家柄なだけあると言うべきか、剛雷のゲキハより多いのだ。
おそらく、詭道のグラードンを含めてもダルバーヌ家随一だと思われる。(毘沙門党員を除く)
ソルバーン家の領内には、大小七つの村がある。
ソルバーン村に関しては俺が戸籍を作った。
生まれ育った村だから、戸籍を作るのは簡単だった。
しかし、他の六つの村には、各村長に作成を頼んだ。
俺ではなく養父が指示したことで、各村長は了承してくれた。
そして各村の子供で女の子や二男、三男のような家を継げない子供を集めた。下はある程度自立した子、上は十三歳までだ。
十四歳でもいいのだが、誕生日がすぐにくると魔力があまり上がらないからな。
これまでの統計で十五歳になると、一気に魔力が上らなくなる。多少は上がる場合もあるが、基本は十四歳から上がりにくくなっていき、十五歳で完全に止まってしまうといった感じだな。
親のほうは、騎士家の者が言うと嫌でも従うことが多い。
だから本人にしっかり意志確認を行い、俺のところにきたいと言うことが前提だ。
その際には、家に帰るのは自由だが、知り得た情報を他言した場合のペナルティーをしっかり念を押した。
「裏切り者には死を与える。情報を漏らした先と思われる者も皆処分することになる。場合によっては君たちの親兄弟を皆殺すことになる。軽い気持ちでついてくるのは止めたほうがいい」
俺たちを危険に曝す者には容赦しない。それが誰であってもだ。
子供だから許すなんてこともしないし、情報を得た者も合わせて(殺)処分をする。親を含めて本人にもしっかり説明した。
情報が漏れたことで、仲間が危険になるかもしれないのだ。可能性の問題だが、俺はそういうところは極めてドライに対応するつもりだ。
それでも俺のところに多くの子供が集まった。
食事はしっかり与えるし、将来子供が騎士に取り立てられるかもしれない。
実際の例であるタタニアとホッタンのことを説明すると、厳しい掟があっても立身出世を志した子供たちがやってきたのだ。
以前、山の洞窟で灰重石を発見したが、タングステンは極めて熱に強い物質で融点は軽く三千度を超える。
これは鉄の倍以上の温度で溶けるということだ。
普通の炉では溶かせないだけでなく、それだけの高温を発生させるのが大変である。
うちの父さんの魔力量が多ければ、タングステンも溶かせるだけの温度が出せるかもしれないが、残念ながら父さんの魔力量は年齢的に増やすことができない。
そこでまず最初にレンに鉱石を分解してもらい、高純度のタングステンにしてもらう。
今回の灰重石には、鉄も混ざっていた。
おかげで鉄とタングステンが手に入った。
今は無理だが、いずれ鉱山開発をしたいな。
次はケルン兄さんの金属魔法でタングステンを加工してもらう。
「おい、これすっげー魔力を食われるんだけど」
「がんば!」
「それだけかよ」
タングステンはそれ単体では硬いけど、硬さに対してやや脆いところがある金属だ。そこに炭素や鉄などを混ぜて合金にすると脆さを補ってくれる。前世では、掘削用ドリルなんかに使われる素材である。
そして先に触れたように高温に耐える金属だから、高温になる炉の材料に使えるわけなのだ。
父さんが炉の温度を高熱にすると、炉が壊れやすいと言っていた。
その補強材としてタングステンを使うつもりだ。
俺はこれでガラス炉を作りたいと思っている。
養父カインに教えてもらったが、この国ではガラスは貴重で輸入されるものしかない。
つまり自前でガラスを作る技術を持ってない。
金儲けの臭いがするよ。フフフ。
そんなわけで、俺は海へ向かった。
海岸の砂には珪砂が混ざっていると思われる。
そして海水からは水酸化ナトリウムが作れる。
さらに塩も、豆腐作りに必要なにがりも手に入る。
海といったら波と追いかけっこをする少女と犬である。
というわけで、クラリッサとヴァイスを連れてきた。
「わー、広いねー!」
「ワフ!」
クラリッサは初めて見る海に、目を輝かせてヴァイスと戯れた。
これから秋が深まり、風が冷たくなる。
さらに海からの風は極めて冷たくなる。
その前にクラリッサとヴァイスを連れてこられてよかった。
来年の夏は海で泳げるといいなと、思う。
「スクール水着を開発せねば!」
「ノイス、なんか言った?」
「いや、なんでもないぞ」
ライロン村の毘沙門党ライロン支部の屋敷に入る。
ここは元々騎士の一家が住んでいたが、内戦で当主の騎士が討死して幼い子供が跡を継いだそうだ。
その一家はシャイフ家に従いヘルグラット城下に移り住んだ。
「よう、レン。元気にやっているか」
「あ、ボス。お久しぶりです」
相変わらずレンは礼儀正しい。
本人は言わないが、おそらく騎士の子供なんだと思う。
この屋敷の主はタタニアだが、その倉庫を石鹸工房にしている。
現在、ガラス工房と豆腐工房を建てているところだ。
早く豆腐を食べたいものだ。
ソルバーン村の俺の屋敷は、大規模な石鹸工房にしている。
怪我をして農家ができなくなった人や、未亡人を集め石鹸を大々的に作っている。
ここでレンが水酸化ナトリウムを作り、ソルバーン村に送っている。
仮に誰かが石鹸作りの情報を流しても水酸化ナトリウムを入手できない限り石鹸を作ることができないのだ。
その石鹸だけど、レンががんばってくれたおかげで、今年の生産量はかなり多い。
アルダンさんは使用人をかなり増やし、販売をがんばっているようだ。
それと船を購入し、この国の中央へ石鹸を持ち込んでいるらしい。商魂逞しい人だね。