第41話 おいおい、外堀が埋まっているんですけど!?
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第41話 おいおい、外堀が埋まっているんですけど!?
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ラントール城の制圧はすぐに終わった。
意外と城兵の死人はおらず、デルダン・シュイフも生け捕りにした。
もっとも、デルダン・シュイフは両腕を失っているが……。まあ、生きているからオッケーだ。
その後はダルバーヌ家の居城のジャバス城に使者を送り、シャイフ家の行状を訴えた。
この際にシャイフ家の騎士であるカイン・シュラードとサムラート・ライデムがこちらの訴えが正当なものであると添え状を出してくれた。
訴えを重く受け取ったかは知らないが、ロベルト・ダルバーヌはギース・シャイフを呼び出して事情聴取を行った。
ギース・シャイフは知らぬ存ぜぬを通したらしい。つまりデルダン・シュイフが勝手にやったことだと。
ギース・シャイフがロベルト・ダルバーヌに降った際に、ラントール城召し上げることを了承したのだから、私が指示しましたとは言えないよな。そんなことを言えば、謀反人として討伐されるのは目に見えている。
一応、その主張は受け入れられたが、実際に戦闘になっていることから、ギース・シャイフは配下の管理不行き届きということで、領地を減らされ、さらにうちに賠償金として金貨十枚の支払いを命じられた。
これを受け入れ、ギース・シャイフはうちに金貨十枚を支払った。
これ以上ごねたら潰されると思ったようだ。
ラントール城を失い、四十人の兵士を失い、金貨十枚を支払ったのは痛いが、一番痛いのは領地を減らされたことだろう。
面積としては四分の一程度だが、一番生産力のある平地を削られたため、収入は四割近く減ったようだ。
元々はうちの領主だった家だが、莫迦だ。ごねたら済むとでも思ったのかね? こんな莫迦な家に顎で使われていたなんて、思いたくないよ。
この件で一番儲けたのは、ロベルト・ダルバーヌのようだ。上手いことやりやがったよ。
でも、うちもそれなりに儲けた。
本来なら引越しをして、すっからかんになっているラントール城の中には物資が置いたままだったのだ。もちろん、しっかりいただきましたよ。これは戦利品ですからね。
あと、デルダン・シュイフに従っていた四十人は捕虜になっていたが、ギース・シャイフはこれを引き取らなかった。身代金を払わなかったのだ。
一般的に騎士でもない兵士に、領主は身代金を払うことはない。四十人はトルク様の所有として農奴として働いてもらうことにした。彼らには開墾や治水などの労働をしてもらうことになるが、戦争が起きれば兵士として連れていくことになる。
うちは金貨十枚プラス物資プラス人手が手に入ったわけで、意外とありがたかったりした。
まあ、正門はホッタンが派手に壊したからその分はマイナスだが、父さんを拝み倒して安く作ってもらおうと思う。
デルダン・シュイフはギースが引き取ることになった。今後どうするかはギース次第だが、普通は殺して後腐れがないようにしておく。殺してないと、トルク様がいちゃもんをつける口実になりかねないからね。
お金をもらっても、金貨十枚くらいで「はいお終い」とはならないのが、この戦国の世である。
正式な謝罪があったわけではないので、遺恨はどうしても残る。
ロベルト・ダルバーヌも無理矢理謝罪させても余計に拗れると思ったのか、そこまでは命じていないのだ。
あと、ギースは今回の領地減を理由に、カイン・シュラードとサムラート・ライデム、テアス・ガルドといった騎士を放逐した。
この三人はありがたくうちで再雇用させていただきました。
おそらく前者の二人は添え状を書いたことへの意趣返しだろう。
ソルバーン村の村長の姉が、ガルド家の前当主に嫁いでいる。
つまりテアス・ガルドとトルク様は従兄弟になる。
こちらの放逐はそれが原因なのだろう。
まあ、うちは騎士が不足していたので、ありがたかったよ。
騎士不足といえば、ホッタンも騎士になった。
こちらはトルク様が騎士に叙してくださった。
タタニアといい、ホッタンといい、毘沙門党の脳筋筆頭の二人が騎士とはな……。
まあ、俺の配下が出世するのはいいことだ。
ただ、タタニアは十五歳で成人しているが、ホッタンはまだ十一歳なので、十五歳になってから正式に騎士になる予定だ。
今は騎士(仮)といったところだな。騎士(笑)よりはいいだろう。
「できればノイスには城下に住んでほしいんだけど」
俺はソルバーン村で今まで通り過ごしたかったのだが、そういうわけにはいかないようだ。
俺の下には騎士が二人(一人は騎士(仮))がいる。
しかもタタニアの下には剛雷のゲキハまでいる。
それを全員ソルバーン村に置いておくわけにもいかないのだ。
「分かりました。それではラントール城下に引っ越します。ですが、ホッタンはソルバーン村に居住させますね」
「うん、それでいいよ。悪いけど、よろしくね」
そんなわけで引っ越しすることになった。
「あと、塩の増産についてノイスに任せたいんだけど、いいかな?」
「任せてください。あ、それから領内の子供で将来有望な子がいたら俺が引き取りたいと思っているんですが、いいですか?」
「もちろんだ、ノイスは私の一門衆で家臣筆頭だから、好きにしていいよ」
一門衆は理解できるが、家臣筆頭て聞いてないんですけど?
しかも騎士を差し置いてとかあり得ないでしょ。
「えーっと、家臣筆頭ってなんですか?」
「え?」
なんで疑問の声を出すのかな?
「皆、そう思っていたんだけど?」
「はい?」
「あれれ、ノイスは知らなかった?」
「全く知りませんよ?」
「君は幼いながらも狩りを始め、大物を仕留めた。タタニアたちを率いるようになってからは、誰もがノイスに一目置いていたんだよ。だから私が騎士になった時に君を従者にしたんだ。その頃から、皆の認識はノイスが私の最側近で家臣筆頭だと思っているんだけど?」
なんじゃそりゃ!?
知らぬは本人(俺)ばかりか!?
「なるほど(とは思ってないけど)……ソルバーン村の出身者はそれで納得するかもしれませんが、新しくトルク様の家臣になった騎士たちが不満に思うことでしょう」
「そんなことないよ。シュラード殿もライデム殿もガルド殿もノイスが家臣筆頭でいいと言ってくれたし」
「え?」
「皆いいと言ってくれたよ」
「……えーっと、ニュマリン姉さんが嫁入りするライデム家はともかく、なんでシュラード様とギルバス様まで?」
「そりゃー、あの剛雷のゲキハを従えたタタニアを顎で使うノイスに誰も文句言えないでしょ」
「おおぉ……」
顎で使っていたっけ……いたな……自業自得か……俺のせいか!?
「あと、シュラード殿は子供がないから、ノイスを養子にしたいそうだ」
「はい?」
「シュラード家は元々中央の貴族の家柄だから、家柄としてはダルバーヌ家よりも上だよ。よかったね」
何がいいんだ、何が!?
そんなに家柄がよいと、逆にダルバーヌ家に睨まれるかもしれないじゃないか。
「トルク様、なんか楽しんでません?」
「そんなことないよ。義理の弟がいい家を継げるのだから、喜んでいるだけだよ」
「そう……ですか……」
てか、あのくたびれた騎士が高貴な血筋なのかよ。
むしろ田舎騎士もいいところの風貌なんですが!
「そんなわけで、引っ越しはシュラード家の屋敷にね」
「え~、同居ですか?」
「シュラード殿は奥方を早くに亡くし、今は三人の郎党(従者と小物の老夫婦)が身の回りの世話をしているだけだし、屋敷はかなり大きいから毘沙門党の皆も住めると思うよ」
「両親に話を通さないと―――」
「ああ、義父殿と義母殿にはすでに了承を得ているから」
外堀が埋まっていた!?
「ついでに言うと、ニュマリンもシュラード殿の養女にし、クラウド・ライデムに嫁入りするように話がついているから」
お、おぅ……。やることが早いですね。マジで。
日頃頼りないように見えるトルク様だけど、頼りになる人だと言っていたのは誰だったかな……。
たしかにちゃんと決断する人ではあるな。
そんなわけで俺はカイン・シュラードの養子になった。
「坊主。これからは父と呼んでくれ」
「……よろしくお願いいたします。養父上」
「うむ。よろしくな。ハハハ!」
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ここまでが一章です
キャラクター紹介を挟んで二章に続きます
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