表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/104

第4話 長男なんて増長してなんぼじゃ

 +・+・+・+・+・+

 第4話 長男なんて増長してなんぼじゃ

 +・+・+・+・+・+


 最近朝晩が過ごしやすくなった。そろそろ夏も終わりだ。

 俺はいつものように薪拾いを行って家に帰った。


「あら、ノイス。お帰り」

「シュラーマ姉さん!? 出戻り?」

「あんたそんな言葉をどこで覚えたのよ!?」

「痛っ」


 拳骨を落とされた。ちょっとした冗談じゃないか。


「ノイス。莫迦言ってないで、薪を置いたらテーブルの上にテテミスがあるから、お食べ」

「はーい」


 俺が採ってきたテテミスだけどね。

 俺が椅子に座ると、マルダが横にきた。餌付けされたコイのようにパクパクしている。

 どうやらテテミスが狙いのようだ。可愛いヤツめ。

 テテミスは井戸水で冷やしてあったのか、かなり冷たい。


 皮を剥いてマルダに食べさせてやる。

 母と姉は料理をしながら何やら話し込んでいる。

 会話を何気なく聞いていたら、村長夫婦はいい人たちで嫁虐めもなく楽しく暮らしているらしい。

 おかげで夫婦仲もとてもよく、仲睦まじいとお惚気を語っていた。

 そして、どうやらシュラーマ姉さんは妊娠したらしい。めでたいことだ。


「痛い!?」


 マルダがテテミスを持った俺の指に噛みついていた。


「あんた何してるのよ?」

「マルダにテテミスをあげていたら噛まれた」

「なにそれ、お莫迦ねぇ」


 俺の指を噛んだマルダは、何かあった? といった感じで俺を見上げていた。

 まだ三歳の子供のことだから怒れないんだよな……。


「いいか、俺の指は食べ物じゃないから噛んだらダメだぞ」

「?」


 不思議そうな顔をするな!





 季節は実りの秋になり、農家は麦の刈り入れに大忙しだ。

 うちにも小さいながら畑があり、麦を育てている。

 畑の世話は女性陣の仕事だが、この日ばかりは鍛冶師を休業して男たちも刈り入れに精を出す。

 俺も刈り取った麦を束ねたり、運んだりして手伝いをする。

 俺としては米が食べたいが、麦でも腹いっぱい食べさせてもらえるだけありがたいと思わないといけないだろう。

 この世界では、満足に食事を摂れない人も多い。

 恵まれた環境で生活していると思っておかないと罰が当たる。


 麦の刈り入れをした翌日、俺は森へと分け入った。

 秋の実りは、何も麦だけではない。森の中にも多くの恵みがあるのだ。

 身体強化魔法で嗅覚を強化し、スンスンと鼻をならし匂いを嗅ぎ分ける。


「あっちだな!」


 斜面を駆けあがると、目的のものがあった。


「ウヒヒヒ。いい匂いだ」


 土から出るか出ないかの膨らみ。その土をそっと掻き分ける。


「出てきました、マツタケ様!」


 テンションが上がる!

 この森はマツタケの宝庫なのである。

 ただし、この世界のマツタケは前世の日本のように高級品ではない。

 マツタケ狩りをして持ち帰っても、誰も見向きもしない。おかげで食べ放題だ!

 鼻歌を奏でながら、マツタケを採取していく。いい匂いがするので、簡単にありかが分かる。


「この香りのよさが分からないなんて、人生を無駄にしているぜ」


 そのおかげでマツタケ食い放題なんだけどね。

 家に帰り、七輪でマツタケを焼く。

 いい匂いが俺の鼻孔を刺激して、腹がグーッと鳴った。


「何食べてるの?」


 三女のウチカ(七歳)が顔を出した。


「マツタケ」

「なんだ、クズタケじゃない」


 そう、この世界ではマツタケ様をクズタケと呼んでいるのだ。

 罰当たりなこと言うんじゃないの!


 ウチカ姉さんは興味をなくしてどこかへいってしまった。

 この美味しさが分からないなんて、悲しいねぇ。


「よし、焼けたぞ」


 少し水分が出てきたところで、俺はマツタケを口に放り込んだ。


「はふっはふっはふっあっつ! でも美味い!」





 一人マツタケ祭りをした翌日、俺はせっせと木を削っている。

 これで何をするかというと、クロスボウを作ろうと思っているのだ。

 なんでクロスボウなんてと思う人もいるかもしれないけど、肉がないんだよ! 肉が!?

 肉が出てくる日は数日に一回、しかも雀の涙程度しか食えないんだ。

 だから自分で肉を調達するしかない! そう思ったわけ。


「おい、ノイス。これでいいのか?」

「ありがとう、ケルン兄さん」

「そんなもので何を作るんだ?」

「へへへ。出来てからのお楽しみだよ」

「まあいいが、変なものを作るとまた父さんに怒鳴られるぞ」

「ほーい」


 鍛冶師見習のケルン兄さんに、クロスボウのリム(弓)の部分を鉄で作ってもらった。

 俺は胴体を作る。簡単な構造にしているので、作るのはそれほど難しくない。


「出来た!」


 狙いを定める照準器はついているが、それが正しいとは限らない。

 まあ、撃ちながら改良を加えるさ。


 クロスボウは弦を引くのが大変だけど、俺には身体強化魔法がある。

 弦を引く一瞬だけ腕力を強化することで弦を引くことができる。


 矢をセットし、木に向けて構える。

 銃床にあたる本体のお尻を、右の胸の上に当てつつしっかり固定し、狙いを定める。

 トリガーを引くと、矢が飛んでいく。


「……最初はこんなものだよな」


 矢は狙った場所からかなり外れたところに当たった。

 クロスボウが悪のか、矢が悪いのか。

 矢は二十本作ったが、同じように狙って射てもバラバラのところに飛んでいく。


「まずは矢のバラツキを少なくしないといけないようだ」


 矢をよく見ると、所々曲がっている。

 目立つ曲がりではないが、こういったところがダメなようだ。

 俺は出来るだけ真っすぐになるように矢を削り出した。

 それでも完全な真っすぐにはならない。

 だが、最初よりは曲がりを抑えたものになっていると思う。


 それと俺が用意した矢には、石の鏃がついている。

 ケルン兄さんに頼んだけど、鏃は作ってくれなかった。というか、まだ作れないらしい。

 そこで長兄のモルダン兄さんに頼んだけど、けんもほろろに追い払われてしまった。


 モルダン兄さんは俺たち弟を兄弟とは思ってないようで、そういった言動が頻繁に見受けられる。

 家を継ぐ長男は大事に育てられ、俺たち次男以降の男の兄弟はぞんざいに扱われる。

 どこの家もこんなものでで、長男が調子に乗るのも仕方がないのだ。


 そんなわけで石の鏃を自分で作った。

 これも矢の命中精度を落としている要因だと思われる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
へぇ削って調整するんだ。 てっきり熱を加えながら曲げて調整するもんだと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ