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第37話 内通者がいると思っていたけど、本当にいると萎える

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 第37話 内通者がいると思っていたけど、本当にいると萎える

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 鎖でぐるぐる巻きにされた剛雷のゲキハ。

 その前に居並ぶロベルト陣営の面々。

 剛雷のゲキハは床に座らされており、目で人が殺せるのではと思うほど睨んでいる。

 タタニアに半分以上斬られた腕は、バルナンの生命魔法によって元通りに治っており、鎖がなければ暴れられる状態だ。


 ここにはロベルト陣営の二十人もの人がいるのだが、その多くは剛雷のゲキハが放つ殺気に声さえ出せずにいた。


「よもやゲキハ殿を捕縛できるとはな」

「捕縛したのは少女だそうな」

「なんとも豪気な少女もいたものだな」

「ソルバーン殿の手の者だとか」

「ほう、ソルバーン殿の」


 そんな会話をしているのはクスリム・アッジとドルド・ヘインである。

 二人は武将として高い能力があるものの、ヒンドル陣営の者らから嫌われている。

 それは歯に衣着せぬ物言いをするためなのだが、そのことを二人とも改める気はない。


 二人が青い顔をしているトルクに視線を向けるが、トルクはゲキハの威圧に意識を保っているだけで精一杯でそんな会話など耳に入っていなかった。


 これでは話にならぬと、二人は剛雷のゲキハにその殺気を控えるように《《頼んだ》》。

 そしてやっと話せるようになった人たちと話し合いがもたれたのである。


「ゲキハがいなくなった今、敵の士気は下がっておりましょう! ここは一気呵成に攻め立てるべきと存じます!」


 さっきまで青い顔をしていた騎士が気炎を立ち上らせる。

 皆が彼と同じように顔を青くしていたのだから、指摘はしない。

 だが、あの直後でよくもここまで変われるなぁ、とある意味感心する者は多かった。


「あいや、待たれよ。ゲキハ殿がいないとはいえ、敵の戦力はまだ三千五百以上だ。こちらの三倍の戦力を相手に野戦をするのは、さすがに無謀であろう」


 この城の主であるラドン・バーダンが否定的な意見を述べる。

 三倍の戦力なのだから、勝てる見込みは少ない。それは間違いではない。


 打って出るべきという意見と、守りを固めるべきという意見が真っ二つに割れた。


「ソルバーン殿はどう考えているのだ?」


 ロベルトがトルクに意見を求めた。


「まともに攻めれば数の差があり、仮に勝てたとして味方の被害も甚大なものになるでしょう」

「そうだ!」


 ラドン・バーダンが自慢げに相槌を打った。


「しかし、守っているだけでは勝てません」

「だから攻めようと言っている!」


 先程から声高に攻めようと言うルディオ・アインスもすかさず攻撃を主張する。


「そこで夜襲をかけてはいかがでしょうか。夜襲は何もヒンドル陣営だけのものではないでしょう」

「なるほど、夜襲をかけて敵に出血を強いるわけですな」

「されど、敵は自分たちが夜襲をした以上、警戒しているのではないか?」

「たしかにそうであるな」


 また何も決まらないのかと、トルクが内心でため息を吐いた時だった、ロベルトが口を開いた。


「夜襲をしかけることにする」

「「「おおお!」」」

「「「なんと!?」」」

「ロベルト様。夜襲の陣容はいかに?」

「待たれよ! 夜襲は危険であります!」

「バーダン殿。ロベルト様は夜襲とお決めになられた。それに従わぬと言うのか?」


 アインスの言葉に、バーダンは顔を真っ赤にさせた。


「黙れ、この奸臣が!」

「なんだと、誰が奸臣だ、この老害が!」

「貴様!?」

「なんだ、老害!?」


 二人が今にも刀を抜きそうな険悪な事態に陥る。


「止めないか。今は味方同士で争っている場合ではない」


 ロベルトが止めるが、二人は睨み合いを止めようとしない。

 まるで牙を剥いて威嚇し合う犬のようだ。


「とにかく、夜襲は決定事項だ。クスリム殿、夜襲の作戦を考えてくれるか」

「承知いたしました」


 良将と定評があるクスリム・アッジが、作戦を説明する。

 今回は少数精鋭を送り込み、敵の兵糧を焼き払う作戦になった。


「で、誰に指揮させるべきか?」

「さればでございます。ヘイン殿が適任かと。ヘイン殿は剛雷のゲキハ殿に勝るとも劣らない勇将にございます。今回の作戦を任せるのはヘイン殿以外におりますまい」

「うむ。ドルド殿、頼めるか?」

「お任せくだされ! 敵の食料を焼き払ってご覧に入れましょう!」


 軍議が終わると、各騎士はそれぞれの持ち場に帰る。

 その際、トルクはクスリム・アッジとドルド・ヘインに呼び止められた。


「ゲキハ殿を捕縛した者をお借りしたいのだが、どうだろうか」


 トルクは考え込んだが、頷いた。

 その際に、トルク陣営から数人を出すという提案をした。

 ドルド・ヘインはこれを受け入れた。


 そんな三人とは別の場所、一部の者しか入ることができない場所では……。


「今夜夜襲をしかける。目標は兵糧だ。ヒンドル殿にそう伝えよ」

「はっ」


 城主ラドン・バーダンが、部下のゲール・ジャインを伝令に走らせる。

 この城には秘密の抜け道があり、ゲール・ジャインはそこから城外に出ていった。


 だが、その部下の動きを監視していた者がいた。ノイスだ。

 ノイスはロベルト陣営の消極的な動きに違和感を感じていた。そこで余裕がある時に魔力感知を広範囲で行っていたのである。


 ロベルト陣営は少数だ。

 つまり勝たなければならない。

 仮に和議が結ばれたら、勢力が大きいほうが有利な条件になる可能性が高い。それではソルバーン家の立場が悪くなる。

 さらに、和議の後からジワジワと勢力を削られていくのが目に見えている。

 だから勝たなければいけないのに、動きが極めて消極的だった。

 それに違和感を感じたノイスは城内から外に出ていく魔力を監視していたのだ。

 城内には千二百もの兵がいるため、監視は困難を極めた。

 それに魔力感知ができるのがノイスしかいないため、二十四時間の監視はできない。どうしても漏れがある。


 だが、軍議の後なら、敵は動くかもしれない。

 あくまで内通者がいればの話だったが、本当に城を出ていく魔力があったのには驚いた。

 この魔力が内通者かどうかは分からない。忍者のような情報を扱う人がいてもおかしくはないからだ。

 だが、ノイスが知らない通路があることだけは分かった。誰にも見咎められず、城外に出る通路だ。

 その通路を通って出ていった者が、敵が布陣する場所へ入っていくのも確認ができた。


「さて、どっちかな~? 敵か味方か……当たってほしくない予想が当たると萎えるんだよなぁ~」

「どうかしましたか、ボス?」

「いや、なんでもないよ。リット」


 そこにトルクが帰ってきた。

 夜襲が決定し、タタニアを貸してほしいと提案があったこと、そこで数人を出すことを提案したことが語られた。


「分かりました。タタニアだけでは不安なので、グルダも参加させます」

「ノイスはいかないのか」

「俺は別行動します」

「ほう、別行動か。何をする気だ?」

「それは後から分かりますよ」

「まあいい。だけど、無事に帰ってきてくれよ」

「死ぬ気はありません」



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― 新着の感想 ―
こんな楽しい戦記物は年に一度でも出会えるかどうか。 戦国時代の大河ドラマを思い起こさせる物語はワクワクしかない。
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