第30話 内戦が起こりそうなので、どうするか話し合う
+・+・+・+・+・+
第30話 内戦が起こりそうなので、どうするか話し合う
+・+・+・+・+・+
雪も解けてそろそろ領主屋敷に一度顔を出そうかと思っていたら、トルク様から呼び出しがあった。
「ダルバーヌ家よりの使者がきたんだ」
「そうですか」
雪解けと同時に使者がやってきたらしい。
何かきな臭いものを感じるのは俺だけかな。
「何を言ってきたと思う?」
「さぁ、なんでしょうか?」
「そこは当ててほしいところなんだけど」
メンドクセェー……。
「先の戦いで討死したご当主様の跡を巡って家督争いが起きているってところですかね?」
「なんで当てるかな……」
本当に家督争いしてんのかい!?
「嫡子も討死しているから、次男と三男が争っているらしいよ」
普通なら順番的に次男が跡を継ぐのだが、次男は側室の子で三男は正室の子だ。
一応、このくらいの情報は持っていたから、言ってみたら当たってしまった。
「で、どちらの陣営からの使者でしたか?」
「どっちだと思う?」
だから、そういうのいいから。
「次男のほうですかね?」
「……なんで分かるのさ!?」
そりゃー、正室の親は家臣筆頭だ。
バックが重臣中の重臣ってことで、多くの家臣が三男につくのは想像に難くない。
つまり、うちのような弱小勢力を取り込まなくても問題ないのだ。
それに対して次男の母は側室で、その出自は商人の娘だ。
俺が次男なら、大人しく身を引くよ。
どこか田舎に城をもらえないかとお願いしてみるね。駄目なら、村の一つでもと泣きついてやるんだ。
「ノイスはなんでも分かってしまうんだね」
「そんなことはないですよ」
「それじゃあ、使者の口上を一緒に聞いてくれるかな」
「お供します」
広間へと入る。同席するのは、兵士長ゴドランさん、村長、村長の次男でトルク様の弟のシュラーデンさん。
使者が広間に入ってくる。
使者は騎士だが、小柄で細面で騎士っぽくない容姿だ。
文官系の騎士もいると聞いていたが、そっち系の人なのかもしれないな。
「某、グラス・ラインと申す。ソルバーン殿の騎士叙任以来ですな」
「お久しぶりです。ライン殿」
頭が良さそうな顔をしている。
それでいて神経質な感じは受けない。
前当主の懐刀だったかもしれない。
「残念ながらご当主様はお亡くなりになるのが早すぎた」
嫡子まで一緒に死んでいるから、なおさらだな。
「包み隠さず申す。某はご次男のロベルト様こそが当主に相応しいと考えている」
「されど、三男のヒンドル様を推す方々が多いようですが?」
「このようなことを言うのは憚られるが、ヒンドル様は素行が悪く差別意識が非常に強い。今のダルバーヌ家を率いるに相応しくないと考えている」
話を聞いていくと、次男の母親を娼婦と公言し、次男ロベルトを兄として敬うことはないらしい。この話を聞く限りでは、城どころか村もくれそうにない。
ヒンドルは他の側室やその子らにも同じ態度をとっているのだとか。
だからダルバーヌ一族は反ヒンドルでまとまり、次男ロベルトを推しているらしい。
だが、ヒンドルの後ろ盾は家臣筆頭であり、家内で最大の勢力を誇るガーバルド家だ。
「七割がた、ヒンドル様を推している。ヒンドル様が当主の座に就いたら、元平民の貴殿とて蔑ろにされることは目に見えている」
差別主義者のヒンドルが当主になれば、トルク様への風当たりは強くなるわけか。
上手いこと言うな、この人。
そういえば、以前ヒンドルの傲慢な振舞いについてトルク様が腹を立てていたのを思い出した。本当に嫌なヤツらしい。
「今すぐ判断してもらいたい。我らには時間がないのだ」
「家臣たちと相談したく存じます。一刻(二時間)だけ時間をいただきたい」
「……承知した」
俺はライン様を控室に案内した。
「ライン様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「君は?」
「失礼しました。私はトルク様の従者をしております、ノイスといいます。以後、お見知りおきください」
「ふむ。で、聞きたいこととは何かな?」
「シャイフ家はどちらにお味方していますでしょうか?」
「……シャイフ家はヒンドル様の陣営だ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げて控室を出た。
トルク様の執務室に入り、ソファーの末席に座る。
先ほどのメンバーがすでに集まっている。
「皆が集まったところで、忌憚のない意見を聞かせてほしい」
「儂はヒンドル様の陣営に属すのがいいと思うのじゃ」
トルク様の父親として重きをなしている村長が口火を切った。
「某もヒンドル様の陣営に属すことがよいと考えます。戦になったら、ロベルト様の陣営が勝てるとは思えません」
兵士長ゴドランさんも圧倒的に有利なヒンドル様の陣営か。
「私はロベルト様につくべきだと思う。仮にヒンドル様の陣営に属しても、待遇が悪くなるなら属す意味はない。それなら千載一遇の勝利であっても、それに懸けてソルバーン家を大きくすることを考えるべきだ」
トルク様が騎士になったことで、次期村長の座に繰り上がった弟のシュラーデンさんは、待遇の悪くなるであろうヒンドル陣営に属す意味はないと考えているようだ。
有利なヒンドル陣営に属して多少待遇が悪くなってもソルバーン家の存続を考えるのは当然のことだ。
だが、戦国の世の騎士なのだから、飛躍を考えるシュラーデンさんの意見も理解できる。
俺が腕を組んで考えていたら、皆の視線が俺に集まっていた。
何? まさか子供の俺の意見も聞きたいの?
「ノイスはどう考えるんだ?」
トルク様が聞いてきたよ。
「そうですね。俺はどちらの陣営にも属さない、ですかね」
「中立ということかね?」
「いえ、この際なので独立すればいいんじゃないですか」
「「「なっ!?」」」
そんなに驚かなくてもいいでしょ。
「そもそもヒンドルが勝つと、明らかに当家の待遇は悪くなると思われます。この村しか治めてない当家の財政は、あまり余裕がないのです。これ以上待遇が悪くなると、当家は首が回らなくなります」
「そんなに財政は悪いのか?」
ゴドランさんはまったく財政に関わってない。
むしろ財務から遠ざかるように動いている。
金勘定や管理は面倒だから、訓練で体を動かしているほうが楽でいいという脳筋さんだ。
「ゴドランさんたちがただ働きでいいなら、少しはなんとかなります」
「………」
返事に困っているけど、石鹸の税収がなければ、本当にそうなるんだよ。
「だったらロベルト様の陣営でもいいのではないか」
シュラーデンさんが不思議そうに質問してきた。
「ライン様は味方になれと言いますが、勝った後の報酬の話をしませんでした。それはうちが活躍してもしなくても、ただ働きをさせると言っているように聞こえます」
「た、たしかにそうかもしれないが……」
「報酬が明確になってない依頼を引き受けても、ということか。だったら、ライン殿に報酬の約束をしてもらえばいいのではないか?」
ヒンドル陣営推しの村長が、踏み込んできた。
「城は切り取り次第、とロベルト様直筆の約定をいただけるなら構いません」
「城を切り取り次第は無理だと思うんだが? うちが用意できる兵数は百にも満たないからね」
トルク様の言うことはもっともだ。
うちの戦力は極めて少ないから、城を複数落としても守ることが難しい。
「それならシャイフ家のラントール城を要求すればいいのではないか?」
「それが無難じゃな」
「確かに無難ですな」
シュラーデンさんの提案に、村長とゴドランさんが無難だと同意する。
あんたたち、ヒンドル陣営推しじゃなかったのか? とは言わない。こうなるように話を進めたのは俺だからね。思う方向に進んでよかったよ。