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第3話 これは売り物ではありません!

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 第3話 これは売り物ではありません!

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 俺は麦わら帽子を十個持って歩いている。

 もちろん、頭には麦わら帽子を被っている。

 十個も麦わら帽子を持っている理由は、クラリッサが被って帰った麦わら帽子を見たアルタンさん―――クラリッサの父親がこれは売れると思ったようで、俺に麦わら帽子を十個作ってほしいと依頼があったのだ。


「こんにちはー。麦わら帽子を持ってきましたー」

「はーい」


 奥からクラリッサが駆けてくる。

 そんなに俺に会いたかったのかい? フフフ。


「やあ、クラリッサ」

「もう十個できたのね、ノイス!」

「うん」


 クラリッサに麦わら帽子を渡していると、アルタンさんも出てきた。


「やあ、ノイス。もうできたんだね。どれ……うん、いい出来だ。これはお駄賃だよ」

「ありがとうございます」


 アルタンさんから鉄貨を二十枚もらった。

 麦わら帽子は、一個で鉄貨二枚だ。

 鉄貨はこの辺りで使われているお金でもっとも価値の低いものになる。

 他には銅貨、銀貨、金貨がある。鉄貨百枚で銅貨一枚、銅貨五十枚で銀貨一枚、銀貨二十枚で金貨一枚と等価になる。ちょっとややこしい。


 俺たち庶民は鉄貨くらいしか使わず、たまに銅貨を使うくらいかな。

 銀貨や金貨なんて見たこともないから、問題ない。


 俺がお駄賃でもらった鉄貨は、一枚で百円くらいの価値だと思ってもらえばいいかな。

 だから、俺は五歳にして二千円を稼いだことになる。

 ちなみに、薬草を薬師のナイネンさんのところに持っていくと、鉄貨四枚で引き取ってもらえる。


「ノイス。遊ぼ!」

「俺はいいけど、店番は?」

父様とうさま、遊んできていいよね!?」

「危ないことをするんじゃないぞ」

「はーい」


 クラリッサが俺の手を取って歩き出す。ムニムニの柔らかい手だ。


「どこへいく?」

「森でテテミスの実を集めようか」

「テテミス好き!」


 テテミスというのは、ビワのような形をした果物だ。

 野生のテテミスが森には自生しており、その実はモモのように甘く美味しい。

 丁度今頃―――夏の最盛期から実をつけ初秋まで楽しめる果物だ。


「それじゃあ、テテミスをたくさん採ろうか」

「うん!」


 森は広いが、幼い時から家族と共に森や山に入っている俺にとっては庭のようなものだ。

 テテミスがどの辺りにあるかは、見当がついている。


「あっ、あそこ!」

「テテミスだね」


 俺の予想通りテテミスがあった。

 テテミスは蔓状の植物で、木に巻きついて上のほうまで蔓を伸ばしている。

 低い場所にテテミスの実はなく、高い木の上のほうにあることが多い。

 おそらく、低い場所では十分に光合成ができないので、高い木を利用して光合成を行っているのだと思う。


「俺が登って採るから、クラリッサは下で受け取ってくれ」

「うん」


 前世で木登りなんてしたことないが、木の凹凸に手足をかける。そこで身体強化魔法を発動させる。

 魔力を毎日消費しているおかげで、身体強化魔法の発動時間は長くなっている。

 地味な身体強化魔法とはいえ、魔法を使えることに心が躍っている。

 一気に魔力を使い切らないようにして、両手足の指先だけ部分的に体を強化する。

 こうすることで魔力の消費がかなり抑えられ、長時間身体強化をし続けることができるのだ。


 サルのようにスルスル登っていく。意外と上手くできた。

 こんなに上手く部分強化ができるなんて思っていなかった。

 毎日魔力が枯渇するまで放出している副産物かな。

 枝の高さはかなりのものだ。落ちたら痛いだけでは済みそうにない。


「クラリッサ。落とすぞー」

「うん」


 クラリッサはワンピースのスカートを広げて受け取った。パンツが見える。

 何度も言うが、俺はロリコンではない。

 クラリッサのパンツが見えたからといって、興奮などしないのだ!

 クラリッサはスカートで受け取ったテテミスを、麦わら帽子に入れる。なかなか賢いじゃないか。


 木から木へと飛び移る。

 五歳の体は体重が軽く、枝が折れるようなことはない。

 それに身体強化魔法のおかげで、しっかりと木を掴むことができる。

 まさにサルだな。


「落とすぞー」

「はーい」


 テテミスをもいでは落としてクラリッサへ渡す。

 身体強化魔法のおかげで二つの麦わら帽子が満タンになるのに時間はかからなかった。


「たくさん採れたね!」

「ああ、たくさんだな!」


 俺とクラリッサはほくほく顔で村へ帰った。


「それじゃあ、またね! バイバーイ」


 クラリッサの家(店)の前で手を振って別れ、俺は家へと向かう。


「お、テテミスか。一個くれ」


 村人が俺の麦わら帽子に入ったテテミスを見ると、鉄貨を一枚とテテミスを交換していく。

 これは売り物ではない。そう言う前にお金が麦わら帽子に入れられてしまった。

 まあ、一個くらいはいいか。


「テテミスか。俺も一個もらうぜ」

「あたしももらおうかね」

「おう、俺もだ」


 俺の麦わら帽子は鉄貨が二十枚ほどになり、テテミスは一個もなくなった……。

 こんなことなら一個食べておけばよかった。


 家に帰って、鉄貨を壺に入れる。この壺が俺の貯金箱だ。

 将来、俺はこの家を出ることになる。

 その時のためにお金は貯めておかないといけないと思うんだ。

 三男なんてそういうものさ。


 その夜も、藁のベッドに横になり、魔力を放出させ使い切って寝る。

 最近魔力を使い切るまで三十秒くらいかかるようになった。

 魔力量が増えているのが実感できるのは嬉しい。この調子で魔力量を増やすぞ!



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