第28話 人間、向き不向きがあるよな
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第28話 人間、向き不向きがあるよな
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グリゴリーの件が片づき、村は混乱もなく平穏だ。
だが、グリゴリーの父親で前当主は、今回のことにかなり不満を溜めている。
毎日酒を飲んではグリゴリーに暴力を振るっているらしい。
グリゴリーはさらに妻に愛想をつかされ、夫婦仲は最悪の状態らしい。
グリゴリー一家が崩壊するのは時間の問題だろう。
今回グリゴリーから取り上げた畑は、領主の直営畑になった。
農奴も四家族十四人おり、畑を任せるのに十分な数だ。
さて、ソルバーン家の税収入と支出をお金に換金するとこうなる。
<収入>
麦 : 鉄貨四十六万枚
現金 : 鉄貨二十万枚
物納 : 鉄貨二十五万枚
収入合計 : 鉄貨九十一万枚
<支出>
領主屋敷および家臣の家 : 鉄貨五十五万枚/年(返済は十年)
領主家用家具や食器など : 鉄貨十五万枚
家臣の俸給 : 鉄貨二十六万枚/年
支出合計 : 鉄貨九十六万枚
赤字だ。この他にも武具の購入もしなければいけない。さらに突然の出費があるかもしれない。こんなギリギリな税収では、いずれ首が回らなくなるだろう。
だが、ここに救世主が現れた!
「ノイス。石鹸が飛ぶように売れた。これは税として納める売り上げの三割だ」
俺は金貨三枚と銀貨十二枚(鉄貨三十六万枚分)を受け取った。
「アルタンさん、ありがとうございます!」
「感謝するのは、こちらだよ。石鹸のおかげでうちはボロ儲けさ。ハハハ」
生産者の俺もアルタンさんのところに卸して現金を得ているし、領主家は税として鉄貨三十六万枚も手に入れた。
今年は時間があまりなくてこれだけになるが、来年はこの数倍の売上ができるはずだから、もっと税が増えるはずだ。
これでソルバーン家の財政に余裕ができる!
もうすぐ冬という頃、村に神官がやってきた。
毎年一回神官がきてくれて、子供たちの魔法と魔力量を確認してくれるのだ。
昨年までは町長宅で行っていたが、今年から領主屋敷で行う。
今回は俺も立ち会うことができる。
「神官殿、よくおいでくださった」
「トルク様は騎士に叙された由、おめでとうございます」
「たまたまですが、この村を任されました。子供たちのこと、よろしくお願いいたします」
「はい。では、さっそく確認いたしましょう」
今年確認する赤子は四人だ。
どの子も特別珍しい魔法は持っておらず、魔力量も庶民のそれ(少ない)であった。
「ささやかですが、宴を催します」
「これは忝い」
今までは村で歓待だけしていたが、今年は領主のトルク様からお布施を払っている。
これは定額なので、見てもらった子供の数だけお布施の額も上がっていく。
この村を誰が支配しているか。
それを領主が誇示する目的もあるので、子供の親がお布施を払うことはない。
「おお、そうだ。なんでもシュバルクアッド家の領内で魔獣が出たとのこと。ここからは離れていますが、お気をつけください」
「魔獣ですと……それはいつのことですか?」
「たしか初秋のころだとか。村が一つ壊滅したようです。残念でなりません」
四足の獣もそうだが鳥でも虫でも魔獣と言われ、総じて魔法を使う。
人間だけが魔法を使えるのではなく、獣も使えるということだ。
魔法は誰かに習わなくても使える。
どういった使い方ができるのか、教えられなくても分かっている。それに詠唱も必要ない。
人間以外の動物が魔法を使ってもおかしくはないのだ。
とはいえ、魔獣は少ない。
どうやって魔獣が生まれるかも知られていない。
「その魔獣は討伐されたのでしょうか?」
「シュバルクアッド家の騎士たちが追い払ったそうですが、討伐されたとは聞いておりません」
シュバルクアッド家の領地はこの村からはかなり南にあり、魔獣がこの領地にやってくる可能性は決して高くない。
楽観視はできないが、極めて重要な情報ではないと判断した。
冬がやってきた。
雪がぱらつき始め、今年も厳しい雪の季節がやってきたのだ。
俺の家は複数の建物がある。本宅、作業場、倉庫だ。
本宅は皆で共同生活しているため、そこそこ大きい。
作業場は二階建てになっていて、一階は訓練場兼解体場で冬でも稽古ができるようになっている。
作業場の二階は俺の研究スペースになっている。これでもクロスボウなどを作ったり改造したりしているので忙しいのだ。
倉庫は中二階があり、一階は石鹸の加工場になっている。倉庫の二階は石鹸用の材料などの保管場所だね。
今、俺は作業場の二階で新しい弓を作っている。
冬の間は領主屋敷へ出仕《出勤》する必要はない。
用があれば、呼ばれる。
この弓は俺のじゃなく、ララのものだ。
ララはクロスボウの名手だが、クロスボウは連射ができない。
だから弓の稽古をしているのだが、彼女は非力なので弓を引くのが難しく弓の腕前は上がっていない。
ヴァイスが俺の足にじゃれつくのを適度にあやしながら、作っている弓は機械式である。
上手くできるか分からないが、弦を引く力が極力少なくていいように設計している。
機械式といっても滑車をつけた弓で、電気で動くわけではない。
前世のオリンピックのアーチェーリーを思い出して絵を描く。
紙なんてものは高価なので、木の板に炭で描いている。
「ワフ~」
ヴァイスが俺の右足の親指を甘噛みしてくる。
水虫じゃないから好きにさせている。
「ハッハッハッ」
転がったり、腹を見せたり、甘噛みしたりと忙しいヤツだ。
腹を見せている時に、足で腹を撫でてやると気持ちよさそうにしている。
なかなか良いものが描けないので、こういった気晴らしがあると助かる。
「うん。ダメだ。俺では作れそうにない」
諦めは肝心だ。人間、向き不向きがある。
そこで思いついたのが、器用なヤツに作ってもらったらいいんじゃね、ということだ。
俺はアイディアを出して、あとは器用なヤツに頼む。うん、これがいい。
「おーい、レンドルゥゥゥ」
一階で訓練しているレンドルを呼ぶ。
彼は大工の息子だし、俺よりよっぽど器用だ。
「呼んだか、ボス?」
「ちょっと頼みがあるんだ」
階段から顔だけ出したレンドルに、手をクイクイさせて上がらせる。
この研究スペースは土足厳禁だ。
「ララが使える弓を作りたいんだ。そこで滑車を弓の先にこうやってつける感じで、弓を作ってくれないか」
「上手く作れるか分からないぞ」
「ダメでもいい。やってダメなら諦めるから、冬の間はこれに集中してくれないか」
「分かった。やってみる」




