第23話 解体は慣れるまで我慢だ
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第23話 解体は慣れるまで我慢だ
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村長宅の前に戻ると皆はもう集まっていた。
あの三人もその中にいるが、さすがに少し壁があるようだ。
「ほら、これを食べな」
持ってきた干し肉を三人に渡す。
「い、いいのか?」
「そんな状態では、山に入っても役に立たないだろ。いいから食え」
「「「ありがとう!」」」
三人は干し肉を夢中で食べた。
「食べながらでいい。俺の質問に答えてくれ。お前たちは山歩きはできるか? 出来るなら頷け。出来ないなら首を横に振れ」
三人とも頷いた。
この辺りは山が多いから、山歩きを経験した子は多いはずだ。
それに農作業をしていても足腰は鍛えられる。
「獣を解体したことはあるか?」
さすがに三人ともないか。
そこでシューが干し肉を食べ終わった。
次いでララ、そしてレンが最後に食べ終わる。
レンはどうもいいところのお坊ちゃんのように思えてならない。
口調も丁寧だし、所作も洗練されている気がするんだよな。
三人に麻袋の背嚢を背負わせ、さあ、いこう。
「この三人は俺の部隊で預かる。エグルの部隊は北の山に入ってくれ」
皆の戦闘力はメキメキと上がっており、この春から毘沙門党の部隊を三つに分けることにした。
第二部隊の指揮官はタタニア(十四歳・身体強化魔法・槍)。構成員はロッガ(十二歳・鳥魔法・槍)、グルダ(十二歳・光魔法・刀)、バルナン(十歳・生命魔法・槍)、リット(九歳・風魔法・弓)。
第三部隊の指揮官はエグル(十三歳・闇魔法・双短剣)。構成員はホッタン(十歳・身体強化魔法・槌)、ライダン(十二歳・植物魔法・槍)、クママ(九歳・身体強化魔法・弓)、レンドル(九歳・地魔法・槍)。
第一部隊は俺とクラリッサ。以上。
なんだよ? 文句あるの? いいじゃないか、党首としての特権だよ。
そんなわけで、新人三人は俺が預かって、以前のように処理と運搬要員として使うことにした。
「私は構わないけど、その三人はボスについていけるのかい?」
タタニアの心配はもっともだな。
「無理なら無理で早めに下山するさ」
「ボスがそれでいいって言うなら、いいじゃねぇか。早くいこうぜ」
ホッタンは早く狩りがしたくてウズウズしているようだ。
「タタニアの部隊は北東の山だ。俺も北東の山に入る。皆、無理はするなよ」
「「「はい!」」」
俺はクラリッサと第二部隊と三人を連れて北東の山へ向かった。
「お前たちの出身はどこなんだ?」
「俺はヘルグラット城下だ」
「僕はアセム城のそばです」
「あたしもアセム城のそばの村」
「レンとララは同じ村なのか?」
「違います。彼女とはここで初めて会いました」
「うん」
三人のことを聞きながら歩いていると、山の麓に到着した。
「タタニア。無茶をするなよ」
「任せなって」
「ロッガ頼むぞ。お前だけが頼りだ」
俺の言葉に第二部隊のメンバーが激しく何度も頷く。
「善処するよ」
ロッガは苦笑して答えた。
タタニアを止めるために、ロッガを同じ第二部隊にしている。
俺以外でタタニアが唯一話を聞くのがロッガなのだ。
若者同士の会話に俺が入るなんて無粋なことはしないさ。ハハハ。
てか、「善処」なんて難しい言葉、よく知っていたな。
これも勉強会の成果だな。
第二部隊が山に入ってくるのを見送り、俺はクラリッサと三人と向き合った。
「山歩きはそれだけでキツい。疲れたら早めに言ってくれ。動けないようになってから言うんじゃないぞ」
「ああ、分かった」
「分かりました」
「うん」
「俺の後ろをクラリッサとついてきてくれ。俺が手を上げたら、止まって静かにして待つ。出来るな?」
「ああ、出来る」
「はい。出来ます」
「うん」
「クラリッサ、この三人の面倒を見てやってくれ」
「うん、分かったわ」
第二部隊とは違うルートで山に入っていく。
しばらくして獲物を発見した。
俺は手を上げ、四人に合図を送る。
四人の気配が止まったのを確認し、ジャンプして太い枝に飛びつき、鉄棒の逆上がりのように枝の上に乗る。
枝から枝へ飛び移り、カモシカに近づく。
枝から飛び降り、二代目神刀ケルンを抜刀し、カモシカの首を斬り落とす。
「よし、腕は鈍ってないようだ」
むしろ向上していると思われる。
笛を吹き、四人を呼び寄せる。
「でけー……」
「うっぷ……」
「………」
シューはカモシカの大きさに圧倒され、レンは先ほど食べた干し肉を戻し、ララは無表情でカモシカの首を見つめている。
レンは獣の解体を見たことがないようだ。こればかりは慣れだな。
クラリッサがカモシカの後ろ足に縄を括りつける。
俺がその縄を枝に通し、引き上げた。
「おい、シュー。いつまで呆けているんだ」
「あ、ああ……」
「今からクラリッサが解体するから、見て覚えろ」
「分かったぜ」
解体といっても、血抜きが終わったところで内臓を廃棄するだけだ。
本格的な解体はいつものように帰ってから行う。
「ララは大丈夫か?」
「うん」
「なら、ララもクラリッサのやることを見て覚えるんだ」
「うん」
「レンはそのうち慣れるはずだ。とにかく見ておけ」
レンは口を押えながら頷いた。
「さて、今日はこんなものか」
そこで、小さな気配を感じた。
小動物などが放つものとは違う、弱弱しいものだ。
気になった俺はそこに向かった。
「こいつは……」
一頭のオオカミが倒れていた。
胴体に深い爪痕が残っていることから、クマとの戦闘があったようだ。
ただ、ここら辺には戦闘した跡はないことから、どこかで戦ったあとでここまで逃げてきて息絶えたようだ。
オオカミのそばには寄り添うように子オオカミが倒れている。
俺が感じた気配はこの子オオカミのものだ。今にも死にそうだと分かる。
「見てしまったからな……」
俺は子オオカミを抱き上げ、体を擦ってやる。
弱弱しく目を開けた子オオカミが掠れた鳴き声を出す。
「このくらいの子オオカミは肉を食うのかな?」
死んでいる成体のオオカミはメスだから、この子の母親なんだろう。