第22話 脳筋は脳みそより筋肉を動かす
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第22話 脳筋は脳みそより筋肉を動かす
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冬の間の俺は朝起きて筋トレし、その後は刀と弓の訓練、さらに文字の読み書きの勉強、寝る前には魔力の放出。時計仕掛けのようにサイクルで生活を送った。
刀の素振りは金棒を作ってみた。
重量は百キログラムほどだが、先端にいくほど太くなっているため、素振り時にかかる負荷は百キログラムどころではない。
気を抜くと肩が外れそうだし、筋肉もブチッブチッと切れそうなくらい重く感じる。
毘沙門党の子供たちも訓練をし、勉強をする。
戦闘に得意・不得意があるように、勉強にも得意・不得意がある。
特にタタニアとホッタンは勉強が苦手で、戦闘訓練では活き活きとしている。脳筋の最たるものだな。
「あんた頭はいいと思ってたけど、もう文字の読み書きを覚えたの?」
ニュマリン姉さんが呆れているが、文字自体は五十音順になっているので馴染みやすかった。
単語は日頃から会話をしているので、覚えるというほどではない。
文法も日本語に似ている。
前世の小学校で覚える程度のものだから、莫迦な俺でも苦労はなかった。
「なんで計算がそんなにスラスラできるのよ!?」
「いや、こんなの簡単だし」
ただの二桁の足し算だ。間違えるほうが難しい。
俺は前世の知識があるからこんなものだが、レンドルとリットは文字の読み書き計算に高い能力を見せた。
冬が終わり、また春がやってきた。
もうすぐ俺は八歳になる。
俺は村長の家にあった書物をほとんど読破した。
蔵書の数は少ないが、それでも色々な知識を手に入れることができた。
「さて、ノイスの仕事だが、しばらくは今まで通りだな。子供たちを連れて山に入って狩りをしてくれ」
今までと同じならなんの問題もない。
「それなら、さっそく今年の狩り始めをしましょうか」
「ああ、そうしてくれ」
トルク様に軽く頭を下げて部屋を出ると、皆が集まっている勉強部屋に入った。
「今日から狩りに出るぞ」
「ということは……?」
「……勉強しなくていいのか?」
「その通りだ、タタニア、ホッタン」
二人は顔を見合わせ、一拍置く。
「「やったーっ!」」
次の瞬間、飛び上がった。
「「ボス、早く狩りにいこうぜ!」」
日頃言い合いをしている二人だが、仲がいいじゃないか。
そんな二人が皆を押し出すように部屋から出た。
「おい、押すなよ」
「早くいこうぜ、ボスよぉ」
「分かったって。お前ら、装備を取ってこい。ここで集合だ」
「「「応!」」」
さて、俺も装備を取りにいくかな。
「ノイス、ちょっと待ってくれ」
兵士長のゴドランさんに呼び止められる。低音ボイスのイケオジだ。
「ゴドランさん、どうかしたの?」
「こいつらを連れていってくれ」
ゴドランの後ろには、三人の子供たちがいる。
小さな村なので親しいかどうかは置いておいて子供の顔は全員知っているが、見たことのない顔だ。
「こいつらは他の村の子だ。親を戦で亡くしたりして、口減らしされたのをトルク様が拾われた」
おいおい、なんだよその重い設定は!?
「……他にもこのような子供がいるのですか?」
「あと四人いるが、まだ幼いことから、各肝入りの家で下働きをさせるつもりだ」
「それなら、うちで預かりますよ」
「む? しかし……」
「母さんならきっといいと言います」
うちの母さんを舐めんなよ。
困った子供を捨ておくような薄情な人じゃないぜ。
「うむ……」
「ハハハ。さすがはノイスだ。ノーシュさんには私から頼んでおこう。とりあえず、今日はその三人を狩りに連れていってくれ」
トルク様が出てきた。
母さんへの話は、トルク様がつけるらしい。あとはトルク様に任せましょう。
「俺はノイス。君たちの名前は?」
三人を預かり、まずは自己紹介から。
「俺はシューだ」
シューは今年で八歳で、左頬に傷痕がある。身体強化魔法を使う。
「僕はレンです」
レンは今年七歳で、かなり痩せ細っている。分解魔法を使う。
「あたしはララ」
ララは今年で九歳だが、もう少し幼く見える。意思疎通魔法を使う。
ところで、分解魔法とはなんぞや?
「分解魔法は……」
レンが拾った小石に魔法を施すと、パラパラと砂のようになった。
「ま、マジか……」
これ、すげー魔法じゃね? 人間も砂のように……こえーっ!?
「でも、今くらいの小石一つで気持ちが悪くなるんです」
元々悪かった顔色が、もっと悪くなっている。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「そうか。まずは水を飲んで休もうか」
「いえ、大丈夫です」
「何、どうせ皆の装備が整うまで、待つんだ。それまで休んでおけ」
「はい。すみません」
レンはその場に座り込んだ。ララに水を持ってきてもらい、飲ませる。
魔力の使いすぎで気分が悪くなるのは、生命魔法のような魔法でも回復しない。魔力の回復を待つしかないのだ。
「俺も装備を取ってくるから、三人はここで待っていてくれ」
村長の家の前で三人を待たせ、俺は風のように走った。
倉庫《自室》から胸当と手甲と脛当を装備し、二代目神刀ケルンを佩く。
この胸当と手甲と脛当は、冬の間にケルン兄さんが造ってくれたものだ。
成長途上の俺にはこういった部分的に身を守るもののほうがサイズ調整がしやすくていいのだとか。
あと、毘沙門党のメンバーにも色々作ってくれた。
身内の気遣いって、嬉しいよね。
それに比べて長兄モルダンは……いや、言うのは止めておこう。
矢筒と強弓ジュニアを持ち、狩りの道具が入った袋を腰に携える。
あと、麻袋を背嚢にしたものを三つ用意し、そこに縄などを放り込んでいく。
吊るしてある干し肉を切り取り、袋へと放り込むと家に入っていく。
「水をもらってくねー」
「あいよ。って、狩りにいくのかい?」
「うん。ひと狩りいってくるよ」
某ハンターゲーム風に言ってみたが、さすがのお母様も知らないよな。逆に知っていたら怖いわ。
「気をつけていくんだよ」
「ほーい。あ、そうだ。あとからトルク様が子供を連れてくるから」
「はぁ? どういうことだい?」
「詳しくはトルク様に聞いてよ。俺は急ぐんで」
甕の中の水を水筒(竹筒)に入れ、母さんに掴まる前に家を出た。
母さんがなんか言っているが、すぐに分かるからといい笑顔で手を振っておいた。