表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/108

第21話 大勝の褒美に騎士になったらしい

 +・+・+・+・+・+

 第21話 大勝の褒美に騎士になったらしい

 +・+・+・+・+・+


 木枯らしが吹き荒れ、落ち葉が激しく舞っている。

 もうすぐ冬になると感じる冷たい風だ。


 俺たち毘沙門党はクマとイノシシを一頭ずつ、野鳥を四羽狩って今年の狩り納めとした。


「いいかー、解体が終わって肉を家に持ち帰るまでが狩りだからなー」


 どこかで聞いたようなことを皆に言いながら、解体をする。

 最近の爺さんは椅子に座って口を出すだけで、手は出さなくなった。


「そんなに刃を立てたら、皮が傷むじゃろ」

「はい」


 子供たちは素直に爺さんの指摘を聞く。

 そういった素直さが解体技術の向上に繋がっているのだろう。


 その翌日、さらに強さを増した木枯らしの中、トルクさんと男衆が帰ってきた。


 戦のことはある程度の噂が流れてきている。

 今回はかなり大きな戦で、うちの領主が属するダルバーヌ勢四千と、アシャール勢六千がルテア平野の中部で激突した。


 ルテア平野は南北に長い平野で、かなりの生産力がある土地だ。

 両陣営は豊かなルテア平野を独占したいことから、長く戦ってきた。

 対陣して数日は小競り合い程度だったが、十日が過ぎてダルバーヌ勢が動いた。

 それに呼応するようにアシャール勢も動いた。

 そして正午前に総力戦が始まったのだ。


 当初は数で勝るアシャール勢が優勢に戦いを進めていたのだが、突如ダミアン勢が裏切ってアシャール勢に横槍を入れた。

 これによりアシャール勢は混乱し、総崩れとなった。


 ダミアンといえば、俺たちが捕まえたグラドス・ダミアンの実家だ。

 うちの領主はグラドス・ダミアンの身柄を返還する条件として、アシャール家を裏切らせたらしい。


 グラドス・ダミアンはアシャール家にとってたった一人の男子だったため、どうしても取り戻さないと家の存続が危ぶまれることになる。

 その弱みにつけ込んだ領主のしたたかさが今回の大勝に繋がったようだ。


 そしてこの戦勝に繋がったグラドス・ダミアンを捕縛したトルクさんは、ダルバーヌ家の当主より騎士に取り立てられた。

 これからはこのソルバーン村は、騎士トルク・ソルバーンが治める土地になったのだ。


 今回の戦いはダルバーヌ勢が大きく勢力を伸ばし、いくつもの城地を手に入れた。

 この村の元の領主であるシャイフ家は、ダミアン家を寝返らせた功績もあり、敵から奪った城を一つ与えられた。

 その代わり、この村はトルクさんのものになったわけだ。


 騎士になったトルクさんを祝う大宴会が行われた。

 老若男女に関わらず、村人が総出でキャンプファイアを囲んで踊ったり食べたり飲んだりしている。


 トルクさんは、騎士になったことから「さん」ではなく「様」で呼ばれるようになった。


 主役であるトルク様の横には、息子を抱いたシュラーマ姉さんもおり、村人から挨拶を受けている。

 各肝入りの挨拶が終わると、うちの家族がトルク様に挨拶する番になった。

 村人の間には少なからず血縁があったりするが、うちはトルク様の妻であるシュラーマ姉さんを出しているので、所謂一門衆になる。

 そのため村の中で上位の家になっており、挨拶の順番は早い。


「トルク様、おめでとうございます」

「今回の騎士への叙任は全てノイスのおかげだよ。本来であればノイスが受けるべきものだと思っている」

「いやいや、これはトルク様の日頃の行いと人柄によるもので、ノイスは関係ないですよ。ハハハ」


 俺も今はまだ目立ちたくないので、トルク様が壁になってくれたことに感謝している。


「そこでどうだろうか、ノイスを私の従者にしたいと思うんだ。承知してくれないだろうか」

「それは願ってもない話です。ノイス、トルク様にお礼を言うんだ」


 従者って何をすればいいんだろうか?

 いきなりそんなことを言われても面食らってしまう。


「トルク様、ありがとうございます。精一杯励みますので、よろしくお願いします」

「そうか、よかった。これからもよろしくな、ノイス」


 トルク様に仕える人は従者の俺の他に、兵士長としてゴドラン(三十二歳)、兵士としてパットン(三十歳)、ケッパ(二十七歳)、ジャン(二十五歳)、ライゴウ(二十三歳)がいる。


 この後、俺はクラリッサと踊り、柔らかい手をにぎにぎして、腰に腕を回し、楽しい夜を過ごした。





 翌日、村長の家にいくと、トルク様の部屋に通された。


「ところで、従者って何をするのですか?」

「ハハハ。特に何も決めてないんだ」

「そうなんですか? 名誉職ですかね?」

「名誉職なんて、難しい言葉をよく知っているね。そういえば、ノイスは文字の読み書きはできるのかな?」

「いえ、まったく」

「それなら文字の読み書きを覚えようか。仕事はおいおい決めていけばいい」


 文字の読み書きを教えてくれるのは、シュラーマ姉さんとニュマリン姉さんだった。

 せっかくの機会なので、毘沙門党の皆にも文字の読み書きを覚えさそう。


「俺以外にも文字の読み書きを教えてほしいのだけど、いいかな?」

「構わないわよ。ね、ニュマリン」

「ええ、構わないわ」

「ありがとう! それじゃあ、皆を呼んでくるね!」


 俺は皆を呼び集めた。

 ケルン兄さんは鍛冶仕事があるので、それ以外のメンバーだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ