第19話 子供たちを洗脳して毘沙門党を組織する
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第19話 子供たちを洗脳して毘沙門党を組織する
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俺たちが捕虜にしたグラドス・ダミアンとトラバス・シュラーグは、騎士サムラート・ライデム様が連れて帰った。
息子のクラウド様はニュマリン姉さんともう少しお喋りしたかったようだが、お仕事だからね。
その数日後、トルクさんは城へ赴き、褒美をもらった。
褒美はこの村の税率を以前のままにし、追徴しないというものだった。
あと、捕虜は買い取ってくれた。激安らしい。
最初はむしり取ろうとしたようだけど、騎士たちが信賞必罰がなんとかとか言って諫めたらしい。
騎士たちの苦労が伺い知れるケチな領主だ。
そんなわけで、領主は渋々お金を出したらしい。
何はともあれ、この村は税を追加で払うことなく済んだだけでなく、捕虜を売った金が入ってきた。
お金は今回働いた人たちで分けた。大人たちは領主のケチさにブツブツ言いながらも酒を買いにいったよ。
あの後俺も色々考えた。
この世界では、戦いが身近にある。
今まで獣を狩る猟くらいにしか思ってなかったが、俺のそばには確実に人間同士の戦いがあるのだ。
それから目を逸らすことはできない。
いざという時に力がないと、家族も親しい人も守れない。
だったら力をつけるしかない。
力を持てば抑止力にもなる。
そこまで大きな力を持つにはちょっとやそっとの労力と時間では済まないが、やらないとただ搾取され無慈悲に刈り取られるだけの存在でしかないのだ。
「さて、皆の衆」
いつもの子供たちに、クラリッサ、ケルン兄さん、ニュマリン姉さん、ウチカ姉さん、マルダを加えた十四人を前にして、俺は木箱の上に乗った。
「これより皆には、俺の配下になるか、そうでないかを判断してもらう」
「ノイスは何を言っているんだ?」
タタニアはわけの分からないといった顔をして質問をしてきた。
「俺は皆を強くしたい。そのためには、皆が俺に忠誠を誓わなければならない」
「私たちを強くする? なんでだ?」
「ダミアンの兵が俺たちの村を襲おうとした。今回は運よく事前に発見して対処できたが、もし発見が遅れていたらこの村は襲撃されていただろう。そうなれば、俺や皆の家族が殺されていたかもしれない。そうならないためにも、俺たちは強くならないといけないのだ!」
俺の力強い演説に、子供たちが惹きつけられる。
誰でも家族は大切に思っている。
愛情を受けて育った子供なら猶更だろう。
「タタニア。君に力がないために家族が殺されたらどうする!?」
「そ、そんなことさせない!」
「ライダン。弟のクママが無慈悲に殺されたらどうする!?」
「そんなの嫌だ!」
「明日はロッガの両親が殺されるかもしれないぞ!」
「そんな……」
「リット。クラリッサが攫われてもいいのか!?」
「嫌に決まっているよ!」
「皆に力があったら、そういったことが防げるかもしれないのだ! 力がほしいか!?」
「「「俺は力がほしい!」」」
「俺もだ!」
「ノイス、力をくれ!」
「ノイスに忠誠を誓えば、力をくれるのか!?」
皆が真剣な表情で、力を欲している。
誰もが家族を守りたいのだ。
「俺に忠誠を誓えば、皆が強くなれるように指導してやる。強くなるかは皆次第だが、今より必ず強くなる!」
「俺はノイスに忠誠を誓う。だから強くしてくれ」
「私もノイスに忠誠を誓うよ」
「「「俺も」」」
「「「僕も」」」
「「「ノイス! ノイス! ノイス! ノイス! ノイス! ノイス! ノイス! ノイス!」」」
ノイスの大合唱。
俺はそれを両手で制し、皆の表情を観察する。
魔力を見ることができるようになって、気づいたことがある。
それは魔力は感情に反応して色や形が変わるということだ。
たとえば、俺と同じ身体強化魔法を使うタタニアの魔力は無色透明だ。
通常は陽炎のように見えるその魔力が、今は興奮から少し濁って激しく揺らいでいる。
ここに集まった子供たちは、俺に忠誠を誓ってくれると魔力が言っている。俺にはそう見えた。
「だが、もしも俺を裏切れば、命をもらう。それでも俺に忠誠を誓えるか?」
俺に忠誠を誓うことと、魔力を増やす方法は絶対に口外してはいけない。
それを鉄の掟とする。
「私は忠誠を誓うよ! だから強くしてくれ!」
タタニアのその言葉で、全員が俺に忠誠を誓った。『ノイスに忠誠を誓う』と『強くなる秘密を漏らさない』たったこれだけの内容を記した誓子に血判を押していく。
「今から教えることは、親兄弟にも絶対に教えてはならない! 誰にも言わない、教えないと誓えるか!?」
「「「誓う!」」」
俺は懐から木彫りの毘沙門天像を取り出して掲げた。
この日のために、恐ろしい表情をした毘沙門天の像をいくつも作った。
可愛らしいクラリッサ像は何体も彫ったが、まさか毘沙門天像を彫るとは思ってもいなかった。
毘沙門天といえば、戦国時代にその名を馳せた上杉謙信が信仰した神である。
上杉謙信が信仰したことから戦争の神と思われがちだが、勝負や商売の神でもある。
よく考えたら、上杉謙信は直江津を支配下におき、越後上布で有名な麻織物で財をなして戦を行っていた。
俺にぴったりの神様じゃないかと思うわけだ。
「我らに力を与えてくださる毘沙門天様である!」
「「「おおお!」」」
「この毘沙門天様の像を皆に与える。これを肌身離さず持ち歩き、寝る前に皆の魔力を毘沙門天様に捧げるのだ。その際に、気分が悪くなっても決して止めてはいけない。気分が悪くてもこの毘沙門天様に魔力を捧げることで、皆が強くなるのだ」
洗脳に近いことをしているかもしれないが、これも皆のためだ。
後世に悪名を残すかもしれないが、それは甘んじて受け入れるつもりだ。
あと、元々俺が魔力増加法を教えたクラリッサと兄弟たちには、俺の話に乗ってくれと頼んでいる。
サクラというやつだ。
こうして俺は毘沙門党を組織したのであった。
仲春、俺は七歳になった。
最近、体の成長が著しいおかげで、継ぎ接ぎだらけの服は裾や袖が短くなったので、母さんが新しい服を作ってくれた!
真新しい服に身を包み、俺はいつものように森へ入った。
ああ、そうだ。新しいのは服だけじゃない。
強弓ジュニアを今日から使う。
やっと弓を実戦で使えるくらいの実力になったと判断したのだ。
毘沙門党の子供たちは毎日寝る前にちゃんと魔力を使い切っているようだ。
怠けたら魔力は増えないので、やがて他の子供たちと差が出てくる。
そうならないためにも、子供たちを洗脳している。
「毘沙門天様に感謝を」
「「「毘沙門天様に感謝を」」」
山に入る前に、頭を下げこの言葉を言うようにしている。
山の神に恵を感謝するような感じだな。
山に入って魔力の残滓を探す。
最近、魔力の残滓のような、獣や人が動いた跡が見えるようになった。
その魔力の残滓を追いかけると、イノシシがいた。
かなり大きいイノシシだ。
子供たちを待機させ、俺は強弓ジュニアを引き絞った。
ギリギリと力を蓄えた弦を離す。
力を解放した弦が矢を弾き出す。
圧倒的なパワーによって放たれた矢は一直線にイノシシへ向かって飛翔する。
それはまるで流星であった。
矢はイノシシの太い首を貫いて、その後ろの大木に深々と突き刺さった。
イノシシは何が起こったかさえ分からず、血を撒き散らして倒れた。
笛を吹き、タタニアたちを呼び寄せイノシシの処理を頼んで他の魔力残滓を探す。