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第17話 ウチカ姉さんとリットには、敵を動けなくしてもらうよ

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 第17話 ウチカ姉さんとリットには、敵を動けなくしてもらうよ

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 不穏な会合のあと、村の男衆は領主の城を改修するための人足として働きに出た。

 うちからもモルダン兄さんを出している。

 モルダン兄さんはかなり嫌がったが、父さんを出すわけにはいかないので、モルダン兄さんしかいないのだ。


 モルダン兄さんはケルン兄さんを出せばいいと言っていたが、まだ十五歳になってない子供を出したら領主に何を言われることか。

 それが分からないモルダン兄さんには困ったものだ。


 このような工事に労働力を提供することを普請というのだが、給料は出ないそうだ。

 税として労働力を納める、そういったものらしい。

 権力者というものは、いつの世でも勝手なことばかりする。





 男衆が城普請に出かけ、そろそろ三十日が経過する。

 俺は領主に言われた量の肉を確保しないといけないので、今日は北東の山に入っている。

 この山は大物が多い分、危険も多い。

 気を緩めず、周囲の気配に気をくばっていこうと思う。


 そうそう、俺の魔力量がかなり増えたことは先に触れているが、その副産物として対象の魔力が見えるようになった。

 どうも魔力感知とか今回の魔力視は俺だけのものらしい。

 クラリッサは五メートルくらいなら他人の魔力をなんとなく感じられるが、それ以上離れるとまったく感じられないらしい。

 俺のように百メートル、二百メートル離れている魔力を感じることはできないのだ。

 クラリッサが特別できないのかもしれないので、ケルン兄さんたちがもう少し魔力量を増やした時に聞いてみようと思う。


 今日は獲物が少ない。北東の山の頂上まできたが、野鳥が三羽だけだ。

 まったく獲物がいない。こういう日もあるが、狩り過ぎることで獲物になる獣が危機感を感じていなくなることもあるだろう。

 これでいなくなったら、クソ領主のせいだと言ってやろう。


「なあ、ノイス。あれはなんだ?」

「ん?」


 手伝いの子供たちを率いているタタニアが、何かを見つけたようだ。

 彼女が指差すほうを見ると、何かが動いているのが分かる。

 視力を強化して見てみる。

 どうやら人間のようだ。しかも数が多い。百人はいるぞ。む……武装している? 兵士か。

 そこで兵士の一人が背負っている旗指物に目がいった。


「あれは……ダミアンの兵だ」

「ダミアンの!?」


 平雲日昇ひらくもにっしょうの家紋は、エイネン城のダミアン家のものだ。

 ダミアン家といえば、最近敵側に寝返った家である。

 敵に寝返ったダミアン家の兵が、身を隠すように山間を進んでいる。

 姿を隠して領主の城を奇襲しようとしているには、ルートがかなり外れている。

 こんなルートでは、奇襲なんてできない。


「あいつら、うちの村を襲う気だな」


 この先にはうちの村がある。

 ここから導き出す答えなど、ただ一つだ。


 城攻めをするよりも、村を襲って嫌がらせをする気なんだろう。

 幸いこのルートなら、ダミアン兵が村に到着するのは速くても明日の朝だ。

 対応の時間はある。


 さて、俺はどうすればいい。

 あいつらが村へいくのをこのまま見逃すのか? そんなのはあり得ないだろ。

 邪魔をするにしてもどうすればいい……そうだ!


「ロッガ。スキュラダケを集めてくれるか」

「スキュラダケを? あんな毒キノコをどうするんだ?」

「ヤツらにプレゼントするのさ」

「おい、マジかよ……」

「ああ、マジだ」

「ヘヘヘ。面白そうじゃないか」


 悪戯大好きの子供たちの目が輝く。


「スキュラダケを採る時は、口と鼻を布で覆ってするんだぞ」

「分かってるって!」

「リットとクママは残ってくれ。あとの子はロッガとスキュラダケを採ってきてくれ」

「「「分かった!」」」


 スキュラダケはロッガが言っていたように毒キノコだ。

 麻痺の効果があり、酷いと心臓が止まることもある危険な毒キノコである。

 うちの村の子供は山に入る時にスキュラダケの恐ろしさを言い聞かされているので、普通は近づかない。

 それを今回は使おうと思う。


「タタニアは今すぐ村に戻ってダミアンの兵がくると村長たちに伝えてくれ。数は百だ。それとうちのウチカ姉さんを呼んできてくれ」

「わ、分かった」


 タタニアとコンビを組んでいる弟グルダが山を駆け下りていく。

 二人とも慣れたもので、軽やかに坂を下っていく。

 あの速度なら一時間もかからず山を下りられるだろう。


「リット。今回の作戦は君の働き次第で、村が焼かれるのを防げる」

「え、僕?」


 クラリッサの兄であるリットは、風を操る風魔法の使い手だ。

 集めたスキュラダケの胞子を、リットの風魔法でダミアン兵に送る。

 全員でなくても、半数が動けなくなればいい。

 それをリットに説明する。


「僕にできるかな……」

「うちのウチカ姉さんもいるから、大丈夫だ」


 ウチカ姉さんも風魔法の使い手だ。

 最近は魔力が増えているので、きっと活躍してくれることだろう。




 スキュラダケ集めは、そんなに時間はかからなかった。麻袋三つが膨れている。十分な数だ。

 他のキノコは秋によく育つが、スキュラダケは春によく生えているのだ。


 そして、タタニアがトルクさんとウチカ姉さんを連れて戻ってきた。


「間違いない。ダミアン家の兵だ」


 トルクさんは苦々しい顔をした。


「今、うちの村でクロスボウを使えるのは何人いますか?」

「十人くらいだ」


 領主の城を改修するのに、八十人も人を出している。

 おかげで戦力不足は否めない。

 だが、ここで文句を言っても始まらない。


「十分です」

「そんな数で何をしようと言うのだい?」

「もちろん、迎え討ちます」

「向こうは百人はいるんだぞ?」

「なんとかしてみせます」

「……分かった。ノイスに従おう」


 従ってくれるのはありがたいが、こんな子供に従うのかと不安になるよ。


「ダミアン兵が村を襲うなら、今夜はキキ谷で野営するはずです。そこで攻撃をしかけます。クロスボウを使える人を、キキ谷の東の山に隠しますので、すぐに手配をお願いします」

「分かった。キキ谷の東の山だな!?」


 トルクさんは山を下りていく。

 タタニアたちのような軽やかさはないが、仕方ないだろう。


「ノイス。私は何をするの?」

「姉さんとリットには、敵を動けなくしてもらうよ」


 リットにした説明を、ウチカ姉さんにもする。


「分かったわ」


 それからタタニアたちを、ダミアン兵の動向を見張るように配置して、俺もキキ谷へ向かった。



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