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第15話 モルダンは嫌がらせをするということだけは信用できる

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 第15話 モルダンは嫌がらせをするということだけは信用できる

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 複合弓を引き、矢を射る。

 狙ったところに矢は刺さらない。

 クロスボウの時も同じだったが、扱いに慣れるまで時間がかかる。


「ま、冬は時間だけはあるからな」


 ん、弓を引けたって? 当然じゃん。

 引けない弓は弓ではない。湾曲した棒ですから。

 などと威張ってはみたものの、この弓はあの強弓ではなく、別のものだ。

 あの後、ケルン兄さんに頼んで鉄板の厚みを薄くしてもらったのだ。

 はずかしながら、引けませんでしたよ、あれ。

 言うなれば、今使った弓は強弓ジュニアですね。


 雪が激しく舞い落ちる中、俺は倉庫《自室》の中で火鉢に当たりながら弓の訓練をする。

 火鉢に当たりながら訓練して上達するのかって? いや、寒いんだもん!

 上達するとかしない前に、凍え死ぬ。


 矢を射る云々より、弦を引いてプルプルしないようにする必要がある。

 この弓はジュニアだけど、かなり強弓だ。

 とにかく弦を引くのが大変なのだ。




 雨垂れ石を穿つ。

 毎日コツコツ努力をしてきた俺は、やっと矢を的に当てることができるようになってきた。

 まだ安定しないが、いずれは百発百中にしてみせる。




 今日は雪が降っていない。さらに明るい太陽も見える。

 もうすぐ冬も終わる時期ならともかく、ここまで明るい空は真冬では珍しい。

 俺はというと、毎日素振りと弓の訓練をしている。


 そんな日に限って、何かあったようだ。

 村人が父ドーガを呼びにきた。

 父は何か焦った表情でその村人と出ていった。


 三時間ほどして父は帰ってきた。表情は暗い。

 いいことではないようだ。


「あんた、何があったんだい?」

「エイネン城のダミアン家が、アシャール家に降った」


 おっと……。これは重大事だ。

 俺たちが住む村は、シャイフ家が治めている。

 そのシャイフ家はダルバーヌ家に属しているのだが、そのダルバーヌ家と敵対している勢力がアシャール家だ。


 さて、今回アシャール家に降伏したダミアン家だが、今までダルバーヌ家に属していた。

 つまり、今まで味方だったダミアン家が敵になったわけだ。


 しかもダミアン家はこの村の南約十キロメートルの位置にあるエイネン城を治めているのだが、そこが対アシャール勢の最前線だった。

 それが敵になったということは、シャイフ家のラントール城が最前線になるということだ。


 幸い、ラントール城はこの村の南二キロメートルほどにあるため、エイネン城からこの村へはラントール城を越えないとこられない。


 だが、今まで比較的安全だったこの村も、これからはそうとは限らないということになる。


「こんな真冬に攻め落とされたのかい?」

「いや、調略らしい。エイネン城は堅城で、なかなか落とせなかった。それを調略で味方に引き入れたようだ」


 あまりいい情報ではない。困ったことになった。

 否応なしに戦に巻き込まれる可能性が高まっている。


 その夜、俺はケルン兄さんと弟マルダに魔力を使い果たすように促した。

 この村が戦場になる可能性がある以上、魔力量は多いほうがいい。

 神殿とか禁忌とかどうでもいい。目先の安全や利益が優先だ。


「本当にこんなことで魔力量が増えるのか」

「兄さんは年齢がいっているから分からない。でも、マルダは増えるはずだよ」


 すでに十一歳のケルン兄さんがやっても魔力が増えない可能性はある。

 魔力量を増やすのは、幼いうちのほうがいい可能性は否定できない。

 だが、まだ間に合う可能性もあるのだ。


「にーに、気持ち悪い」

「そこからもっと魔法を使うんだ」

「うぅぅぅ」

「俺も気持ち悪いぞ……」

「そこからが勝負ですよ、兄さん」

「おう……てか、このことは母さんには伝えておけよ」

「うん、俺もそう思っていたよ」


 長兄のモルダンは信用できないから伝えるつもりはないけど、俺も母さんには伝えようと思っていた。


「オヤジは酒が入ると口が軽くなるから、言わなくていいや。それと兄貴にも伝えなくていいかな」

「やっぱモルダン兄さんは伝えないほうがいいよね」

「ああ、兄貴は俺たちの邪魔をすると思うから、言わなくていい」

「モルダン兄さんは俺たちの邪魔をするという点では信頼できるほど正直な人だからね」


 困ったことにね。


「そういうことだ」


 俺たちの兄なんだからもっとしっかりしてほしいのだが、怠け者で人の言葉を聞かない困った性格に育っている。


 翌日、母さんに魔力量を増やす方法について話をした。


「そんなことができるのかい? 神官は何も言ってなかったけど、あんたが言うなら間違いないようだね。それなら家族で魔力量を増やそうじゃないか」

「それなんだけど、父さんとモルダン兄さんには言わないでほしいんだ」

「モルダンは邪魔をしそうだからね。だけど、父ちゃんもかい?」

「父さんは酒が入るとね」

「あー、……そうだね。それじゃ、二人以外には話をしよう。あんたが説明しておくれ」


 母さんは酒と聞いて納得したようだ。

 それにしてもモルダンが俺たちに嫌がらせをすると分かっているんだね。

 親としてなんとかしてくれるとありがたいんだけど、モルダンの性格を今から矯正は難しいだろうな。


 長女のシュラーマ姉さんは育児中なので、話すのは控えた。

 祖父母には話したけど、もう年だから試すのは止めておくと言われた。

 そんなわけで、母ノーシュ(三十九歳)、次女ニュマリン(十三歳)、三女ウチカ(八歳)が魔力量上昇に加わった。



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― 新着の感想 ―
親からも育児放棄判断される長男……先は見えたな
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