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第14話 なんじゃこりゃ!? こんな弓引けませんよ?

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 第14話 なんじゃこりゃ!? こんな弓引けませんよ?

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 今年最後の狩りを終えて、山を下りた。

 獲物はカモシカ一頭、野ウサギ三羽、シカ一頭、イノシシ一頭だ。

 最後に相応しい手応えのあった狩りだった。


 うちの爺さんが音頭をとっているのは変らないが、最近は村の大人衆が解体に加わることが多い。

 解体に参加すると、肉を少し分ける約束をしているからだ。

 とはいっても、村中からこられても困るので、順番できてもらっている。


「おお、今日は大猟だな」


 大猟を見た爺さんが、あと二人大人を呼んでくるようにウチカ姉さんに指示した。


 俺は今日使った矢がまた使えるかチェックし、神刀ケルンのメンテナンスをする。

 矢は何本かダメになった。

 それの鉄鏃てつぞくを取り外し、研ぎ直して再利用する。

 もし再利用できなくても、潰して鉄にすれば刀や鉄鏃に生まれ変わる。

 資源は大事にしないとね。


 神刀ケルンも春からずっと使い続けてきた。

 大物のクマをはじめ多くの獣を斬ってきたので、そろそろしっかりメンテナンスをしないといけないようだ。


「ケルン兄さん。これをメンテナンスしてくれないかな」

「どれ、見せてみろ」


 神刀ケルンをケルン兄さんに渡すと、角度を変えて刀の状態を確認する。


「小さな刃こぼれが数カ所あるが、かなり歪んでいるな。これは新しいのを造ったほうがいいぞ」

「えー……」

「任せておけ。俺がまた造ってやる」

「本当に!?」

「ああ、これを造った時より腕は上がっているはずだから、もっといい刀を用意してやるぞ」

「やったー! ありがとう。よろしくね!」


 やっぱり神刀ケルンの製作者だ。頼りになるよ!


「ノイスー!」

「クラリッサ? どうしたの?」

「リット兄さんを迎えにきたの」

「そうか。今解体しているから、もうすぐで終わると思うよ」

「それまでノイスのところにいていい?」

「もちろんだ。こっちにおいで」


 俺は倉庫《自室》にクラリッサを連れ込んだ。

 いかがわしいことをするつもりはないからな。


 倉庫の中二階は俺とケルン兄さん、そして今は弟のマルダの三人の寝床がある。

 一階は農機具も置いてあるが、最近は俺の作業場になっている。

 作業台と椅子、のみなどの道具、色々な種類の木やクロスボウの試作品などが所狭しと置いてある。


「ねえ、これなあに?」

「ん、それは人形を彫っているんだ」


 趣味で木彫りをしている。

 今は可愛いクラリッサを彫っているけど、いいものができるまでにはまだ時間がかかる。

 前世ではフィギュアを作っていたが、その延長だな。

 可愛い女の子の人形は心に癒しを与えてくれるのさ。


「そうなんだー。ノイスは色々やっているのね」

「上手く彫れたら、クラリッサにプレゼントするよ」

「本当に!?」

「ああ、本当だ」


 彫りかけの木を手にとり、削っていく。

 お喋りしながら、木を彫っていく。

 クラリッサは人形を彫っている俺を楽し気に見つめている。

 やがて解体が終わり、子供たちも分けてもらった肉を抱えている。


「それじゃーねー」

「またねー」


 クラリッサは兄のリットと帰っていった。

 リットはまだ七歳で体は小さいけど、目端が利く子だ。

 将来は商人として大成すると思うが、四男なのでアルタンさんの店は継げないだろう。


 あと、今日の狩りでは思わぬものを発見してしまった。

 洞窟があったので入ってみた。

 残念ながらクマなどはいなかったが、鉱石を持ち帰ることができた。


 この鉱石は、前世で灰重石シーライトというものだと思われる。

 前世では金属加工メーカーに勤めていた関係上、たまに金属の勉強会があった。

 その際にこれに似たものを見た記憶がある。

 これが本当に灰重石だったら、タングステンが含まれているはずだ。確認してみていいと思う。





 今年は戦もなく平穏にすぎ、冬を迎えることができた。

 見上げる空は灰色で、雪が降り出してきた。

 吐く息は白く、厳しい冬の到来を告げているようだ。


 カモシカの毛皮を羽織った俺は、倉庫《自室》の一階でユゲの木を削る。

 このユゲの木はクロスボウのリム(弓)の部分に使っているもので、弾力がある木だ。

 厚さ二ミリメートルほどの細長い板を三本作る。


 さらにサルンの木も同じように削る。

 これは二枚を作った。


 樹脂を素材にした接着剤をつけ、ユゲ、サルン、ユゲ、サルン、ユゲと五枚を接着させて圧をかける。

 ようは合板にしているわけだ。


 しばらく放置して接着剤がしっかり乾いたら、今度は火鉢の火を大きくして合板を炙っていく。

 燃えたらアウトなので、見極めが大事だ。


「よし、ここだ」


 合板がある程度熱せられたら曲げる。

 曲げた合板をケルン兄さんに造ってもらった湾曲した長細い鉄の板に合わせて固定する。


「くー、硬い!」


 これは弓だ。

 鉄と合板の複合弓を作っている。


「ううううっ!」


 弦を張るのが一苦労だ。

 身体強化魔法を全開で複合弓をしならせようとするが、これは硬い……。


「マジか」


 今の俺の身体強化魔法を全開にすれば、二百キログラムのクマを持ち上げることができるんだぞ。

 それなのに、ほとんど曲がらないよ。

 強弓すぎるだろ、これ。


 仕方ないので、弓を曲げる器具を作ることにした。

 ネジがあれば、万力を作ることもできるが、それはかなり難しい。

 だから、ここでも滑車を使って負荷をかける。

 滑車って偉大だよな。


 なんとか弦を張るが、当然ながら弦を引くことができない。


「この弓を引くことができたら、俺は最強の弓士になれるかもしれない」


 などと恰好いいことを言ったものの、これは難題だ。

 これは基本の体作りだけでなく、身体強化の強化率を上げる必要がありそうだ。

 今でも六歳の俺が二百キログラムを持ち上げられるほどの強化をしてくれるが、その効果をさらに向上させるべきだろう。


 とはいえ、どうしたら身体強化魔法の効果を上げることができるのだろうか。

 部分強化であれば、一時的に全体的な強化よりもパワーを出せるかもしれない。

 だが、弓は体中を使うので、腕などの部分的強化では対応できそうにない。困った。



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― 新着の感想 ―
こんにちは。 >引けない弓 昔の漫画『花○慶次』の琉球編で出てきた、鉄弓の弦を慶次があっさり引くシーンまでの流れをふと思い出してしまいましたww
WWⅡ中の英国兵器なPIATを思い出すような硬さですな(あっちは90kgの力が必要……銃弾飛び交う戦場で)
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