第13話 姉御肌のタタニアがいると助かるよ
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第13話 姉御肌のタタニアがいると助かるよ
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今年も収穫の秋がやってきました。
村長の家の蔵に麦袋が積み上げられていく。
今年は騎士はこないようだ。
「騎士様がくると、気を遣うからのー」
村長は騎士がこないほうがいいようだ。
どの道、領主の城へ麦を運ぶのは村長の役目だから、騎士とは顔を合わせることになるんだけどね。
「ノイスー」
クラリッサが手を振りながら駆け寄ってきた。
最近は赤茶色の髪を伸ばしているようで、風に靡いている。
「やあ、クラリッサ。今日も可愛いね」
「えへへへ。私可愛いかなー?」
「うん、可愛いよ」
光源氏計画発動中。
「その黄色のワンピースも似合っているね」
「お母さんが作ってくれたんだよ」
「へー、いい感じだね」
俺はオオカミにボロボロにされ、ニュマリン姉さんに継ぎ接ぎしてもらった服を今も着ている。
村人は普通に継ぎ接ぎした服を着ているけど、ここまで継ぎ接ぎされた服は俺だけだ。
俺の場合、新しい服を作ってもらっても、またボロボロになるからと母さんが言うので、今でもこの服を着ている。
ここまで継ぎ接ぎだらけなので、新しいデザインとして言い切っていこう。真面目に。
二人で村の中を歩いてデートする。
出会う村人の多くが声をかけてくるが、毎回「デートか?」はないと思う。
そんなセクハラを華麗にスルーして川岸へ辿りつく。
「寝る前に魔法を使い切るのはどう?」
「うん。最初は大変だったけど、今はちょっと気持ち悪くなるだけになったよ。それに魔法も何度も使えるようになったの!」
あれから半年、効果が劇的に表れてくるころだ。
クラリッサは目をキラキラさせて話をしてくれた。
「それはよかった。でも、誰かに言ってはいけないからね」
「うん。分かってる」
これで魔力量上昇が、転生者の俺だけの特異体質でないと証明された。
これまでこの方法が一般的にならなかったのは、魔力が減るとかなり気分が悪くなるからだろう。
最初は動けなくなるほどの倦怠感と気分の悪さを感じるから、誰もこれ以上魔力を使おうとは思わなかったのだと思う。
生まれながらにして魔力が高い人は、貴族や騎士が多い。
競馬のサラブレッドのように、魔力量が多い血筋同士で婚姻をしているからだと思われる。
もしかしたら貴族の先駆けになった人たちは、気絶しながら魔力量を上げていたのかもしれない。
それは魔力量を上げる目的でなく、魔法を使い続けないといけない状況だったかもしれない。
何はともあれ、魔力量を上げる方法は現在では一般的でない。隠しておくに限る。
夕方まで子供らしくクラリッサと遊んだ俺は家に帰った。
夕食を摂り、少し休憩したら腕立て伏せ三十回、腹筋三十回、スクワット三十回、懸垂三十回を三セット行い、汗を拭いて藁ベッドに飛び込む。
そこで寝るわけではなく、ここから魔力を全力解放だ。
最近は六百秒以上全開でいけるようになった。
加速度的に増えていく魔力量にニマニマしてしまう。
そのおかげで数えるのが大変だが、これくらいなんでもない。
もうすぐ冬になるという時期、俺は今年最後の狩りに出かけた。
最近同行する子供が十人に増えた。
そのメンバーは農家の次男のロッガ(十歳)、農家の三男のエグル(十一歳)、農家の三男ホッタン(八歳)、農家の三女のタタニア(十二歳)、農家の六男でタタニアの弟のグルダ(十歳)、農家の次男のライダン(十歳)、農家の三男のバルナン(八歳)、農家の三男でライダンの弟のクママ(七歳)、大工のロジャーさんの四男のレンドル(七歳)、商人のアルタンさんの四男でクラリッサの兄のリット(七歳)、合計十人だ。
「今日は北東の山に入る。あそこは大物が多い分、クマも多い。もしクマに遭遇しても騒がず、目を見ながら後ずさるように。いいかな?」
「「「はい!」」」
この村は森と山に囲まれており、自然豊かな場所だ。
山が違うと獣のテリトリーも変わる。
今回入る北東の山は大物が多いが、危険なクマやオオカミが多い場所でもある。
この子供たちは年下の俺の言うことを素直に聞いてくれる。
俺がオオカミやクマを一人で狩れるから、リスペクトしてくれているのかな。
北東の山の緩やかな坂を上り、三十分ほどで魔力感知に獣の反応があった。
俺はここで待てと、子供たちに合図をする。
最近メンバーになった唯一の女の子のタタニアが、声を出さずに皆を止める。
彼女は女の子にしては体が大きく、俺と同じ身体強化の魔法を使う。
元々村の子供たちを率いていたガキ大将のような子なので、しっかり統率している。
最初からメンバーになってなかったのは、女の子ということで親が止めていたらしい。
それでも狩りのメンバーになりたいとしつこく言っていたら、根負けした親からOKが出た。諦めらしいけどね。
発見したのはカモシカだ。
シカより一回り大きく、毛皮が防寒具として優秀な獣である。
肉が美味いのは野ウサギ、野鳥、イノシシ、クマ。
毛皮が売れるのはカモシカ、イノシシ、シカ、クマ、野ウサギ。
他にも野鳥の羽根は矢羽根になるし、クマの手や肝は薬になる。
あと、野生のウマやヤギもいるけど、これらは狩らずに生け捕りにして家畜にする。
うちにはヤギが三頭いる。
ヤギは乳を出してくれ、食卓を豊かにしてくれるのだ。
木陰からクロスボウの狙いをつける。
トリガーを引くとタンッと軽やかな音がし、弦に弾かれた矢が瞬時にカモシカに突き刺さる。
「ちっ、急所を外したか」
矢が刺さる直前、カモシカが動いたことで矢が急所の首をやや逸れて肩に刺さった。
苦痛を長く与えるのは俺の趣味ではない。
神刀ケルンを抜いて一気に間合いを詰め、その首を斬り飛ばす。
笛を吹いて子供たちを呼び寄せる。
「タタニア、あとはお願い」
「あいよ」
先ほども言ったが、カモシカの毛皮は防寒具として優秀でいい値で売れる。
傷が少ない毛皮なら猶更だ。
姉御肌のタタニアはそのことをしっかり分かっているので、ちゃんと子供たちに指示を出してくれる。
俺がいちいち言わなくてもやってくれるので、とても助かっている。