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第12話 俺の部屋で何してんねん

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 第12話 俺の部屋で何してんねん

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「セット! ……構え! ……放て!」


 トルクさんの声が響き渡る。

 朝一の農作業を終えた男たちが集まって、クロスボウの訓練をしているのだ。


 真夏は朝早くと夕方に農作業をするのが多い。

 真昼間は暑くて農作業をするのは厳しいのだ。


 で、なぜか俺の倉庫《自室》から外に向かって矢を放っている。

 たしかに日陰になるから、直射日光は浴びなくて済むけどさー、危ないので止めてほしい。


 俺はというと、そんな大人たちの子供たちを連れて山に入る。

 俺が狩った獲物を運ぶ係たちだ。

 俺は危ないからと断ったんだけど、どうしてもと村長が言うのだ。


 どうも昨年の税にイノシシとシカの干し肉を納品したら、今年はもっと納品しろと領主に命じられたらしい。


 この辺りは山が豊かで獣は滅多に人里に下りてこない。

 そのため害獣駆除をする必要がなかった。おかげで肉の納品はなかったのだ。

 それなのに、俺が肉を食いたいからと狩りを初めたことで肉の納品があった。

 領主はそれに味をしめてしまったようだ。


 このままでは俺の将来は、猟師だな。

 狩りは嫌いじゃないが、獲れる獲れないは運に左右されるからなぁ。

 それに鍛冶は嫌いじゃない。

 俺も刀を鍛えてみたいと思っているのだ。


 獣の魔力を感じた。おそらく野ウサギだ。

 最近は魔力でそれがどんな獣か分かるようになってきた。


 俺は左腕を上げる。

 これは子供たちにここで待てという合図だ。

 声を出すと獲物が逃げるし、子供たちを引き連れて近づいても逃げられる。

 だから、ある程度離れた場所に待機してもらう。


 領主が肉を要求してくるまで野ウサギは狩らなかった。

 狩るなら一頭で量が取れるイノシシやシカのほうがいいからだ。

 だが、イノシシやシカばかり狩っていると、資源の枯渇が気になる。

 そこで繁殖力の強い野ウサギも対象にすることにした。


 二十メートルほど先に草をんでいる野ウサギを発見。

 クロスボウを構え、息を吸って止める。

 タンッと軽やかな音がし、矢が野ウサギに刺さる。


 俺のクロスボウの腕は村一番だ。

 俺の倉庫《自室》で訓練している大人たちより、かなりいい。

 三十メートルなら野ウサギのような小さな的でも外さないぜ。


 笛を吹いて子供たちに合図を送る。

 あとは子供たちが血抜きと内蔵を取り除いてくれる。

 俺もそうだが、田舎の子供は獣の解体をあまり嫌がらない。

 そういった子供たちが集められているのだけどね。


「二人はここで解体して帰ってくれるかな」

「了解だ」


 山の中で何かあったらいけないので、どんな時でも複数で行動させている。


 そこで木の上を飛ぶ鳥が見えた。

 俺は無意識にクロスボウで鳥を撃った。

 矢は見事に飛ぶ鳥に当たり、一羽が落ちてくる。


「今の鳥もお願いね」

「お、おう……」


 野ウサギと鳥だから、二人で十分だ。

 俺は他の六人を連れて山の中を進んだ。


 もうすぐ昼という頃、大物を発見した。

 この反応はクマで間違いない。

 クマは危険だ。できるだけ後ろに下がるように、子供たちへ合図を送る。


 風下から近づき、木陰からクマの姿を窺う。デカい。

 前世のヒグマに似た茶色の毛をしたクマだ。


 クロスボウを撃つ。

 矢はしっかりと左の脇腹に刺さった。だが、クマはその程度で死なない。


 怒りの目を俺に向け突進してくるクマに二の矢を放つ。

 これも右の肩に刺さるが止まらない。


 俺はクロスボウを地面に置き、神刀ケルンを抜いた。


「うおぉぉぉっ!」


 突進するクマの動きを冷静に見つつ、神刀ケルンを振り被る。


「ヴォォォォォッ!」

「きえぇぇぇぇっ!」


 踏み込んで気合いを乗せた神刀ケルンを振り下ろす。

 手応えはあったが、それでもクマは生きている。さすがの生命力だ。


 後ろ足立ちになったクマだが、それは悪手だ。

 俺は身体強化魔法フルパワーでジャンプしてクマの喉に神刀ケルンを突き刺した。

 さらに腕に力を入れ、クマの首を引き斬る。

 プシューッ。噴水のように血が噴き出し、クマは大の字に倒れた。


「ふー……」


 神刀ケルンの血糊を振り払い、布で拭いてから鞘に納刀する。

 笛を吹いて子供たちを呼ぶが、死んでいるクマでも怖いようで青い顔をしている。


「大人を呼んできてくれるかな。五人くらいお願い」

「お、俺がいってくる」


 ロッガが駆けだす。彼と組んでいる少年もついていかせた。

 山では二人一組が基本だ。


 俺についてきている子供は皆が俺より年上だ。

 だけど、俺がこんなに大きなクマさえも倒してしまうので、誰も俺を侮ることなく従ってくれる。


「それじゃあ、俺たちはこいつを木に吊るそうか」


 子供たちが持っている縄で、クマを大木の枝に吊るす。

 さすがに重いので、滑車を使った。

 この滑車も子供たちに持たせているものだ。

 滑車を使うと軽く五百キログラムを超えてそうなクマでも吊るすことができる。

 ただし、枝が折れないか心配だ。


 クマの内臓を掻き出していると、大人たちがやってきた。

 トルクさん率いる俺の倉庫《自室》でクロスボウの訓練をしていた人たちだ。


「これは大物だな!?」


 トルクさんが嬉しそうに近づいてきた。

 クマの肝は薬になると聞いたことがあるけど、持って帰ったほうがいいのだろうか? トルクさんに聞いてみる。


「え、そうなの?」


 この人、当てにならんな。

 とりあえず持ち帰って薬師のナイネンさんに聞いてみればいい。


 さすがに大物だ。山から下ろすのも一苦労した。

 だが、持ち帰った肝はナイネンさんが買ってくれた。しかも銅貨十枚(十万円相当)だった。



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― 新着の感想 ―
これ、さらにエスカレートしそう……
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