第11話 枝豆はざるいっぱいに盛るのがいい
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第11話 枝豆はざるいっぱいに盛るのがいい
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夏がきた。この村の夏は日本に比べると暑くないが、それでも温度は三十度近くまで上がる。もちろん、温度計などないから、体感だ。
畑で育てられている大豆を、青いうちに収穫する。
さやつきで茹でて塩をふる。うん、美味い。
「何を食っているんだ?」
「枝豆。ケルン兄さんも食べる?」
「おう、もらうぜ……美味いな、これ!」
兄さんも気に入ったようだ。
これでビールが飲めれば最高なんだが、まだ六歳なんだよな。
「お、なんだそれは?」
「これ美味いよ。父さんも食べてみなよ」
「おう……美味いな! 酒が飲みたくなるぜ」
父さんは晩酌を始めてしまった。
「あんた、こんな時間から何飲んでるんだい!?」
あ、母さんに見つかった。
「げっ、ノーシュ!?」
「『げっ』とは失礼だね?」
「う……」
「まあまあ、母さんも食べてみて」
「これは……大豆かい?」
さすがは畑を管理しているお母様である。
若くても大豆だとすぐに気づいたよ。
「うん。大豆の若いヤツ。枝豆っていうんだ」
「どれ……あら、美味しいじゃないの」
採りたての枝豆を茹でたから最高に美味しい。
「だろ? こんな美味いものを食べると、酒が欲しくなるんだよ」
「その気持ちは分からないでもないけど、ほどほどにしておきなよ」
「おう」
母さんが落ちた。
そこに爺さんと婆さんもやってきて、宴会が始まった。
俺とケルン兄さんは酒なしで枝豆をパクパク。美味しい。
「にーに、ぼくも」
「おう、マルダも食べるか」
あーんしてあげる。
「おいしい」
うんうん、可愛いヤツめ。
結局、家にいる家族全員が集まって枝豆を食べた。
新潟人のようにたくさん茹で、ざるに山盛りだった枝豆が全部なくなったよ。
ある日、俺が木刀で素振りをしていると、肝入りさんがやってきた。
肝入りというのは、村長の下でこの村を運営する人のことだ。
肝入りは四人いて、三人は農家で一人はそれ以外の職という枠になっている。
農家の肝いりは世襲で、もう一つの枠は持ち回りになっている。
うちの爺さんも以前肝入りをしていたが、今は大工のロジャーさんが肝入りをしている。
「おう、ノイス。精が出るな」
「こんにちは、ロジャーさん。また飲み会?」
「俺がきたら飲み会って言うの、止めてくれ」
「だって、いつも飲んだくれてるじゃん」
「うっ……反論できねぇのが悔しいな」
「あまり父さんを飲みに誘うから、母さんが怒っていたよ」
「マジか……ノーシュ怖ぇんだよ」
我が母上様は村の男たちに恐れられているようだ、さすがだね。
「おい、こそっとドーガを呼んできてくれよ」
「いいけど、後ろ」
俺はロジャーさんの後ろを指差す。
「ん? ……げっ!?」
「ロジャー、あんたまたうちの人を酒に誘いにきたね」
「ち、違うんだ、ノーシュ!」
父さんとロジャーさん、そして母さんは幼馴染らしい。
昔から母さんが二人を率いて遊んでいたと、以前父さんに聞いた。
その話をしている父さんの後ろに、母さんがいるとは知らず……。あとは察してほしい。
散々言いわけをしたロジャーさんは、なんとか公務だと分かってもらったようだ。
本当に公務かは知らないが、父さんはその夜寄合に出てベロンベロンになって帰ってきた。
母さんは激怒したのは言うまでもないことだろう。
最近、村の人が俺のところにやってくる。
そのことが父さんを連れ出したロジャーさんの理由に繋がる。
あの寄合はただ酒を飲んだだけではなく、村人にクロスボウを覚えさせようという話が出たらしい。
村人に限らず誰もが知っていることなんだけど、弓というのは扱うのが難しい。
それなのに、俺のような子供が弓を扱っているのだ。
あのクロスボウは扱いが簡単なのではないか、村の大人たちはそう考えたようだ。
実際に俺の使っているクロスボウを大人たちが使ってみると、実に簡単に矢を飛ばすことができた。
弓のような連射はできないが、扱いに慣れれば矢のセットにそれほど時間はかからない。
そんなわけで、十歳の子供から四十歳の大人まで毎日俺のクロスボウで矢を射る訓練をしている。
あと、クロスボウを量産すると村長が言い出したので、父さんと大工のロジャーさんがクロスボウの部品を作っている状況だ。
村人にクロスボウを教えるために、俺はクロスボウの性能を確認した。
曲射で届く距離は百メートル、鎧を貫通させる距離は三十メートルになる。
獣相手なら石の鏃でいいのだけど、鎧を貫通させるには石の鏃では無理だ。だから、鉄の鏃も作ってもらっている。
鏃は爺さんが気合入れて作っている。
それをモルダン兄さんとケルン兄さんも手伝っており、数を揃えるようだ。
そして、なんと村長は三十挺のクロスボウと、千本にもなる矢を作らせた。
俺自身、冬の間に三百本の矢を作ったが、見習とはいえ家具職人や大工といった木を扱う人たちが作る矢は性能がいい。さすがだね。
あと、鏃は質の悪いものが混ざっていた。
どうやら長兄モルダンの作らしい。
ケルン兄さんの鏃は爺さんほどでないにしてもよい出来なのに、こまった長兄である。