第101話 為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり
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第101話 為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり
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冬がやってきた。冬は自己啓発の時期だ。剣や槍、弓に磨きをかける者、生産の知識や技術を身につけたり伸ばす者など色々だ。
俺もドーガ一式とケルン一式を振り回し、この重い二振りの剣に慣れる。
時にはスライミン姫と、時にはクラリッサと、さらには弟のマルダなどと稽古をする。
マルダは武器を扱う才能は低い。それでも日々の努力によって人並になっている。ただし、魔力の多さは断トツで、俺でも敵わない。
俺はもうすぐ十四歳になる。
魔力量は十四歳になると増えにくくなり、十五歳で増えなくなる。多少の誤差はあるが、皆がその法則(?)によって増えづらくなっていく時期だ。
だが、俺より二歳下のマルダはもっと魔力を増やしていくことだろう。今でさえ俺を凌駕する魔力量を誇っているのに、さらに増えるのだ。兄としては微妙なところだが、弟が兄を越えていく姿は頼もしいと思える。
そのマルダの魔法を有効に使うためにも、吹雪の中で心を鬼にしてマルダを鍛える。
「おらーっ、気合い入れんかぁぁぁぁぁぁっ!?」
「「はいぃぃぃっ!」」
「「歯を食いしばれ! あと二十回だ!」」
「「は、はい!」」
腕立て伏せ三十回、腹筋三十回、スクワット三十回を一セットで、五セットを連続で行う。
「筋肉は嘘つかない!」
「「はい!」」
「努力は裏切らない!」
「「はい!」」
「流した汗だけ、成長する!」
「「はい!」」
マルダとネイルンの筋トレを主導する。この冬からネイルンは毘沙門党に入った。毘沙門党に入ったからには、俺の甥っ子でトルク様の子だからといって特別扱いはしない。むしろ、身内だから余計に厳しくするぜ。
「ノイス式ブートキャンプ! ファイアーッ!」
「「ファイアーッ!」」
子供の頃からあまり筋肉をつけたらいけないというが、この世界ではそうでもないようだ。その証拠が俺である。
背は百七十センチメートルを越えているが、肉体はまだ成長を続けている。と思う。
他にもクママ、ホッタン、グルダ、リット、シュー、ハックをはじめとし、年少の子供たちも参加している。無理矢理やらせるつもりはないが、途中で投げ出すヤツは背中を預けるという面で、信頼ができない。どんなにヘトヘトでも最後までやり抜こうとする子を見極めるのに役立つのが、このノイス式ブートキャンプだ。
ちなみに五セットを行ったら、休憩してから体術の稽古、さらに武器の稽古と続く。体術は柔道を基本とした、無手で敵を無力化させる技術を教えている。どんな状況でも生きて帰るためのものだ。
武器のほうは各自で好みのものを選ぶ。剣ならスライミン姫に、槍と棒術は俺、弓はリットやクママが稽古をつける。騎士になったホッタンも任務がないと、このトレーニングに参加する。よいことだ。
「踏み込みが甘い!」
「おう!」
「柄を上手く使え!」
「おう!」
「力任せでは隙が生まれるぞ!」
「おう!」
槌が俺の棍棒に弾かれ、ホッタンは体勢を崩してしまったので腹を突く。
「ぐべっ!?」
「力を入れすぎているから、弾かれただけで隙が生まれる。力の使い方をもっと考えろ。手首を柔らかく使え!」
「お、おう」
「次! マルダ!」
「はい!」
棍棒で軽くいなすと、マルダの姿勢が前のめりに崩れた。これでは接近戦には出せないな。
「いたた……」
棍棒で背中を叩かれたマルダは立ち上がった。その根性は認めてやろう。
「マルダはやはり剣も槍も才能がないな」
「そんなぁ……」
「だが、体術には見るべきものがある」
「本当に!?」
「これからは体術と魔法を組み合わせた戦い方を確立するべきだな」
「はい!」
マルダは念力魔法の使い手だ。念力魔法は珍しい魔法で、あまり使う人はいない。その効果は離れた場所にあるものを動かすというものだ。
俺も魔力干渉の訓練のおかげで、離れたところのものを魔力で動かせるようになったが、マルダの場合は百メートルでも二百メートルでも、それこそ一キロメートルでも離れた場所のものを動かせる。
この念力魔法は結構便利で、たとえばクソ重いクマを軽々と空中に浮かせて運ぶことができる。また、城攻めの際は、遠く離れた場所から城門を開けることができるし、人物さえ特定できれば、遠くからでも捕縛ができてしまう。
マルダの念力魔法で拘束されると、俺でもフルパワーを出さないと逃れられないくらいだ。
ただ、まだ念力魔法と体術を同時に行使できるほどではないので、体を動かしながらでも念力魔法を使えるように訓練する方針にした。
「そんなわけで、マルダは懸垂しながら念力魔法で水を飲めるようにしろ」
「い、いきなり難しくない?」
「他の人を気にしなくていいんだ、簡単だろ。戦闘では、敵がいるんだぞ? こっちが魔法を使うのを待ってくれるほど甘くないんだ。懸垂しながら水を飲むくらいは序の口だ」
「そ、そうだけど……」
「いいからやれ!」
「はい!」
うむ。それでいい。努力は裏切らないのだ!
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり、だ!」
「それはどういう意味?」
「やろうと決心して努力すれば、どんなことでも必ず成し遂げることができる。逆にやらなければ何も成し遂げられない、ということだ」
「なるほど……いい言葉だね」
「俺もそう思うぞ」
昔の人の受け売りだけどな。