第100話 消極的同盟の締結
+・+・+・+・+・+
第100話 消極的同盟の締結
+・+・+・+・+・+
まさか結界が張られるとは思ってもいなかったが、祭りは大盛況のうちに終わった。
あの後、アキラルタル・クジャラタンは仏法守護社の一角に引きこもった。何をしているかは知らない。泥団子でも作っているのだろうか?
「さて、レン」
俺は某人類補完計画推進組織の長のように口の前で手を組んだ。
「な、なんでしょうか?」
「お前にやってもらいたいことがある」
ゴクリッとレンの喉が鳴るのが聞こえた。
「そう緊張する必要はない。何、レンなら簡単なことだ」
俺が書きなぐった資料を見せる。
「それを作ってくれ」
「これを……?」
レンが行っていた生産は、全て他の人ができるようにしている。水酸化ナトリウムの生産も全てマニュアル化した。今はレンに頼らなくても石鹸やガラスの生産が可能だ。
石鹸は複数の村で生産を始めた。その材料の生産も多くの村で行っている。
出荷先は国内ではなく、大陸がほとんどだ。国内だけでは大量生産した石鹸が流通すると、値崩れを起こす。だが、人口の多い大陸ならどれほど石鹸を持ち込んでも値崩れは起こさない。と思う。
「レンよ、いくのだ! ソルバーン村へ!」
俺はビシッと指を差した。
「は、はぁ……」
レンは俺の密命を受け、ソルバーン村へと旅立った。レンならきっと大丈夫だ。そう信じて、任せよう。
レンが旅立って、少しした晩秋の頃。もうすぐ冬がくると思わせる北西からの強く冷たい風が吹いている。そんな中、デルゲン家から使者がやってきて、皆が集められた。
デルゲン家はアポルト州の南部とクトリア州の北部を治めている家だ。アポルト州はジール州の東側、クトリア州は南東側にある州になる。
(※近況ノートの地図のC24、25、27、30、D1、2、3、4の城を支配下に置いている)
シュバルクアッド家と領境が接しており、その仲は悪くなく、協力はせずとも互いにフジカム家に対していたという感じの家になる。
「ジール州督司へのご就任、まことにめでたく、お祝い申しあげます」
「遠路はるばるよくきてくれました」
こんな挨拶から始まった会談は、本題に入っていく。
「当家は長年フジカム家と対峙してきました。貴家もフジカム家の侵攻を受けた経験がおありのはずです。ここは一致団結し、フジカム家に対しませんか?」
フジカム家は総兵力一万の家だ。それに対してデルゲン家は四千といったところで、ガチンコでやり合ったら分が悪い。そこでうちを巻き込んでフジカム家を牽制したいのだろう。
今まではデルゲン家とシュバルクアッド家が協力していたので、その延長線上のソルバーン家と結ぼうというのだろう。
デルゲン家はこれまで通りの方針で進めようと考えたのだな。うちがシュバルクアッド家を取り込んでから時間が空いたのは、ソルバーン家かシュラード家を見極めていたんだろう。
ソルバーン家はジール州のほとんどを治め、比較的安定している。今のところ、ダルバーヌ家のような内戦の兆候はない。だったら、対フジカムで協力してもいいか、といったところだろう。
トルク様は皆と相談するということで、使者を別室に待たせることにした。
「さて、デルゲン家の申し入れを、皆はどう思うか?」
主要な騎士たちが意見を述べていく。概ね同盟に賛成の意見だ。
「ノイスはどうかな?」
目下の敵は同じジール州の勢力であるアシャール家とレイジーグ州のフジカム家だ。
デルゲン家に引っ張られて戦をするのは避けたいところであるが、共に防衛の際に協力するというくらいの同盟であれば問題ない。そう意見を言うと、トルク様はしばらく考え込んだ。
「今回はノイスの案を採用する。共に防衛において協力する。これ以外では、軍の派遣はしない。向こうがこれでよければ同盟を結ぶ」
「悪くないかと」
詭道のグラードンが頷き、皆からも否定の意見は出てこない。
謂うならば、消極的同盟か。お互いに攻める際は勝手にすればいい。勝てばよし、負けても自己責任だ。
使者にそう提案すると、唸った。あれやこれやと交渉したが、最後にはそれでよいと同盟を成立させて帰っていった。
彼としてみれば、防衛戦で同盟ができただけでも前進だ。これをとっかかりに、今後関係を深めていくつもりなんだろう。
もっとも、フジカム家が他家に目を向けることができるかというと、できないだろう。
当主ルームの三男ヘルグは正妻の子ではないが、それでも有力家臣の娘の子だ。そのヘルグを見捨てたことで、その家と当主ルームの仲が険悪になっている。それだけじゃない。他の七人の騎士も見捨てたため、それらの家とも仲が微妙なものになっている。
他の騎士家もいざという時に見捨てられると思うと、ルームに従っていいか迷っているようだ。
今のフジカム家の中はガタガタになっている。たった一回の戦の結果、ここまで家内の状態が悪化するとは、当主ルームも考えていなかったことだろう。
おかげでこちらの調略が進んで仕方がない。事が起これば、こちらに寝返る約束をした騎士は一人や二人ではない。
フジカム家は白アリに食い荒らされた建物のように、傾いていっている。
悪さをするとそういう目に遭うのだよ、ルーム君。フフフ。




