第99話 開山式を始めます
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第99話 開山式を始めます
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そんなわけで祭りが始まった。
社は谷間を見下ろすように山の中腹に造られているが、谷間は神域として封鎖している。そこを避けて階段と参道を整備した。
参道では祭囃子が奏でられ、多くの露店が出店している。まあ、露店の運営は毘沙門党がしているけどね。
そもそも毘沙門党は多くの子供がいるので、大きな鍋や鉄板を複数持っている。そしてケルン兄さんに頼んでたこ焼き器やたい焼き器を作ってもらった。
「味噌ちゃんこだよー。美味しいよー」
「お好み焼き~♪ 美味しいよ~♪」
「《《イカ》》は~《《いか》》が~。焼き鳥もあるよ~」
毘沙門党員たちで複数の露店を切り盛りする。皆、配膳や接客に問題はないし、計算もできる。
鍋では味の違うちゃんこを数店で提供し、鉄板ではお好み焼きや焼きそば、さらにイカの姿焼きも焼く。あと、焼き鳥も焼いている。どの露店も盛況で、客が並んでいる。
「美味いよ、美味いよ! たこ焼きはどうだねー!」
中でもたこ焼きは大人気を博している。お好み焼きもそうだが、濃厚なソースのよい匂いは人々の心を掴んだようだ。
「たい焼き甘いよ~♪ ここでしか食べられないたい焼き~♪」
そして、極めつけはたい焼きだ! この世界では砂糖が高価で平民の多くは一生口にすることはない。その砂糖を使った餡がたっぷり入っているたい焼きは、子供やご婦人に大人気である!
「お父様、たい焼きを買ってもいいですか!?」
「うん、いいぞ。自分で買えるかな?」
「はい!」
トルク様一家がやってきた。護衛の騎士が周囲を囲んでいる。こんなところでゾロゾロと護衛を引き連れているのは粋ではないのだが、今やジール州のトップであるトルク様とその家族だからな……。
「ノイス。決まっているじゃないか」
「当然ですよ!」
胸を張った後に、慇懃に挨拶をする。
「ようこそおいでくださいました。トルク様、奥様、ネイルン様、テリーヌ様」
仏法守護社の最高責任者の俺とマルダで、ジール州督司への挨拶だ。
「歓迎いたします。州督司様」
マルダも実務トップだから、しっかり挨拶をする。
「ノイスが改まっていると、気持ち悪いわね」
「それはないよ、シュラーマ姉さん。それにマルダもいるじゃん」
「マルダは大人しい子だから、普通ね」
「えー、俺も大人しいだろ?」
「「「そんなわけない!」」」
ちょっと待とうか。シュラーマ姉さんはともかく、トルク様とマルダがなんで突っ込む?
「そのほうがノイスらしいわ。ウフフフ」
「ノイス兄さん、ヴァイスは!?」
「ヴァイスはあっちでクラリッサたちといるよ」
「ヴァイスと遊んでくるね!」
ネイルンはそう言い放って走っていった。元気でいいね。
「マルダ。トルク様たちを案内してくれ」
「はい。こちらへ」
マルダに先導されて、トルク様一家は貴賓席へと向かった。
「ノイス!」
今度はニュマリン姉さんとクラウド様、そして甥のトマーシュがやってきた。
「クラウド様、奥様、トマーシュ様―――」
「ップ。アハハハハッ。何言ってるのよ、ノイス!?」
いきなり笑われてしまった。シュラーマ姉さんより酷いと思う。
「ニュマリン姉さん、酷くね?」
「あんたが変な口調だからよ。普通にしなさい」
「えぇ……ゴホンッ。クラウド様、こんな姉ですが、見捨てることなく、よろしくお願いします」
「見捨てるって、あんたも酷いわね」
「ニュマリン。お互い様じゃないかな? それと、私はニュマリンを見捨てないから安心しくれていいよ、ノイス殿」
「それを聞いて安心しました。ニュマリン姉さんが戻ってくると、うるさいですから」
「あんた!」
拳骨をひらりと躱す。
「もう、なんで躱すのよ!?」
「それが普通でしょ?」
「この莫迦ノイス!」
「はいはい」
「ニュマリン。少し落ち着こうか。皆が見ているぞ」
「あらやだ。オホホホ」
場を取り繕ったニュマリン姉さんがキッと睨んでくる。覚えてらっしゃい、と言われているようだ。
「マルダーッ、クラウド様一行を案内してー」
「はーい」
物陰から様子を窺っていたマルダを呼ぶ。
この後も騎士たちがやってきて、挨拶をしていく。
貴賓席が粗方埋まったところで、祭りのメインイベントが始まる。
「皆様、仏法守護社の開山式典にお越しくださり、感謝いたします。本山は菩薩様と毘沙門天様を合祀しておりまして―――」
俺としては珍しく五分ほど喋っただろうか? そろそろ皆が飽きてくる頃だ。
「それでは、巫女による剣舞を奉納いたします!」
俺がそう言うと、祭囃子が止まり、鈴や笙、鼓が曲を奏でる。
女性用の正装を身にまとい、金の冠と髪飾りなど宝飾品をつけたスライミン姫とクラリッサが神楽殿に登場した。
「「「わぁぁぁっ!」」」
二人の可憐な少女により剣舞が舞われる。剣の鋭さとは真逆の優雅な舞である。
二人の乙女の舞から美しい魔力の波動が広がっていくのが見える。ああ、これは結界だ。この本山を中心とした周辺を覆う清浄なる結界だ。まさかこんなことが起きるとは……。
「うひょーっ!? これはすごいわ! 聖域化しているっ!?」
目を血走らせ、涎を垂らさんばかりのアキラルタル・クジャラタンは、悪魔祓いの一族だ。彼女はこの結界を感じることができるようだ。さすがと言っておこう。
シャンッと鈴の音がピタリと止まると同時に、二人の舞も終わった。そして、結界の構築も成った。
なんという清浄なる空間だろうか。ここで菩薩様と毘沙門天様に参拝したら、商売繁盛、金運、開運、勝負運、厄除け、健康長寿、心願成就間違いなしだ!




