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第10話 ニュマリン姉さん、俺に恨みでもあるの?

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 第10話 ニュマリン姉さん、俺に恨みでもあるの?

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 本格的に春がやってきて、俺は晴れて六歳になった。

 この世界にはちゃんとこよみがあるのだが、暦を使うのはお偉い様たちだけだ。

 俺たちのような庶民は春、夏、秋、冬の四季で一年を表現する。

 俺の誕生日(誕生季節)は初春―――まだ寒さが少し残る春の始め頃である。

 初春を過ぎて仲春ちゅうしゅんになると、年齢が一つ増えることになる。


 今日は春の山菜採りに出かけることにした。

 もちろん、幼馴染のクラリッサを連れていく。

 二人っきりでお出かけしたかったが、弟のマルダも一緒だ。

 なんでマルダがクラリッサと手を繋いでいるのかな……?


 俺は周囲の気配を探りながら二人を見守る。

 楽しそうに山菜を摘むクラリッサの足元にヘビがいた。

 俺は小石を親指で弾き、ヘビの頭を潰す。

 クラリッサは気づかず山菜採りに夢中だ。

 二人に気づかれないようにヘビを拾い上げ、麻袋に入れる。

 ヘビも立派な食料になる。意外と美味いんだよ。


「ねえ、ノイス。これは食べられるかな?」

「うん、大丈夫。食べられるよ」


 ゼンマイのような山菜を摘むクラリッサの横顔が愛らしい。


「にーに、これは?」

「それは食べられないぞ、マルダ」

「ぶー」

「アハハハ。そこに食べられるのがあるから」

「わーい!」


 山菜を摘むと、蕎麦が食べたくなるのは俺だけだろうか。

 残念ながら蕎麦はないし、そもそも醤油がない。

 この世界は俺に厳しいぜ。


 麻袋いっぱに山菜を採った俺たちは、森を歩いていた。


「そういえば、クラリッサの魔法って氷を作るものだっけ?」

「うん。氷を作るよ」

「水がないところだと、寒くなる感じかな?」

「そうだよ。でもね、一回使うと疲れちゃうの」


 彼女も気分が悪くなっても魔力を使い続けることで、魔力量は上がるはずだ。

 もしかしたら転生者の俺だけの特異体質みたいなものかもしれないが、彼女も魔力が増えたら弟のマルダも増やせるかもしれない。


「ねえ、俺のお願いを聞いてくれるかな?」

「お願い? 何?」

「これ、俺とクラリッサの二人だけの秘密だ。守れる?」

「ノイスと私の二人の秘密? うん。守れるよ!」


 俺はクラリッサの耳元で声を抑えて魔力増強法のことを話した。


「それで本当に魔法が何回も使えるようになるの?」

「俺はそれで魔法を長く使えるようになったけど、クラリッサもそうなのか試してほしいんだ」

「うん。分かった! やってみるね!」

「ああ、頼んだぞ。でも、誰にも言ったらダメだからな」


 もし魔力を増やす方法が神殿とかで禁忌になっており禁止されていたら、マズいことになる。

 俺が殺されるだけならまだいいが、クラリッサがそうなったら申しわけなさすぎるからな。





 今日の俺は山に入る。

 腰には神刀ケルン、背中にはクロスボウと矢筒を携える。

 着ている服は継ぎ接ぎがいくつもあり、ちょっと前には新品だったとは誰も思わないだろう。


 これもあのオオカミのせいだ。

 あの後、母ノーシュが直しを放棄したので、次姉のニュマリンに継ぎ接ぎをしてもらった。

 おかげで、ところどころスースーするんだよ。

 ニュマリンお姉ちゃん、村長のところに行儀見習いにいってもう一年以上が過ぎているよね……。


 俺が自分で縫おうと思ったんだけど、ニュマリン姉さんが縫ってあげるというので任せたら、こうなった。

 俺に恨みでもあるのだろうか?


「よし、シカだ」


 メスのシカは狩らずに残すが、オスのシカは狩ることにする。

 そうすることで数を減らさず長く狩りができると先日村にきていた騎士が言っていた。

 あの騎士は秋にもきていたカイン・シュラードさんで、その愛馬ゴルゴーの世話が俺に回ってきたのだ。

 いきなり姉が呼びにきたので、何かと思っていったらゴルゴーの世話をさせられたわけだ。


 騎士カイン・シュラードさんは、無駄に年をとっていない。

 狩りのこともよく知っていた。

 そこで獣の習性などを教えてもらった。

 年長者の経験談はためになるぜ。


 立派な角がない。

 そういえば、春になると角が生え変わるんだった。

 山の中でよく角が落ちているのを見るのはそのためだ。


 角が生え始めたオスの首筋に矢が刺さる。

 急所への攻撃は、余計な痛みを与えない配慮だ。

 獣でも多くの痛みを与えるのは、さすがに憚られる。


 シカもイノシシ同様、その場で血抜きと内臓を捨てる。

 今回は邪魔者は現れず、すんなり山を出ることができた。


 今日も解体は祖父ベナスの指揮で行われる。

 説教を受けてない俺も参加する。


「そうだ、いい感じだ」


 皮を剥ぐのをやらせてもらったが、褒められた。

 次男ケルン、三女ウチカ、四男マルダも手伝っているが、長男モルダンは椅子に座って見ているだけだ。


 鍛冶工房では鉄を鍛えている槌の音がするので、父ドーガは働いている。

 それなのに長男はダラダラして働きもしない。まったく困ったものだ。


 その日の夜はシカ肉のステーキが出た。

 赤身のほとんど脂がない肉だが、野性味があって悪くない味だ。


 父ドーガは村長に呼ばれているため、食卓にいない。

 先日騎士のカイン・シュラードさんがきていたので、何かあったのかもしれない。

 もっとも、たまに親睦会とかいいながら飲み会を開いているからそれかもしれないけど。



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