49.100匹の猫 ~ルイーゼ~
ひゃっ
翌朝、ルイーゼは目を覚ましてまず、隣で眠る柔らかな茶髪の青年にびっくりして声をあげそうになった。
前の結婚での元夫は、行為の後、ひと眠りするとルイーゼの部屋を出ていっていたので、朝、誰かが同じベッドにいるのは初めてのことだ。
そうだったわ、昨日は初夜だったんだわ。
新しい夫をまじまじと見る。
ライアンはうつ伏せで枕を抱き締めて、顔だけこちらに向けて眠っていた。
寝顔は無防備で満足そうだ。
子供みたいな寝方だな、と笑みが零れる。
でも、そう思ったそばから、昨夜の全然子供みたいではなかったいろいろを思い出して赤面しているとライアンが、ううん、と唸って身動ぎをした。
枕に押し付けられていた瞳が眠たげに開き、ルイーゼを認めるとうっとりと細められる。
ひゃっ
いろいろを思い出していた所だったので、ルイーゼは思わず掛布の中に顔を隠した。
「ん、ルイーゼ?」
寝起きの掠れた声でライアンが呼ぶ。
「なぜ隠れるんですか?朝から可愛すぎて辛いんですけど」
ごそごそとライアンが身を起こしてルイーゼの方へ向いたのが分かった。
「ルイーゼ?」
「…………」
「私の陛下、顔を見せてください」
乙女じゃあるまいし隠れていても仕方ないので、ルイーゼはそろりと目だけ外に出す。
「おはようございます、ルイーゼ」
「おはようございます、ライアン。その、昨夜は先に寝てしまい、すみません。それに、その」
ルイーゼの顔が羞恥で赤く染まる。
「その、思い返せば、かなり、はしたなかったかと……ごめんなさい」
ライアンに甘く縋りついてしまった事を思い出してルイーゼは涙目になった。あんな事は前の結婚ではした事がなかったのに。
ライアンは、ぱちくりと目を瞬き、大きく息を吐く。
それから、ぎゅううううとルイーゼを抱き締めた。
「はあ、昨夜から何なんですか?嬉しい誤算が多すぎる。閨も後朝も、もっと淡々とされているのだと思っていました」
「すみません」
「え?謝らないで、嬉しい誤算と言いましたよ。聞いてました?」
「そういうのが、素ですか?」
「ええ、こっちが素ですよ。あなたには絶対に絶対に嫌われたくないので、普段は100匹くらい猫をかぶってるんです」
「100匹も?重たいですね」
ルイーゼはくすくす笑う。
「はい。絶対に絶対に嫌われたくないので、重たいくらい平気です」
ちゅっ、ちゅっ、と額にキスが落とされた。
「それにしても、あれくらいではしたないなんて、はああぁー、意地悪したくなるので止めてください」
「意地悪って?」
「それ、煽ってますか?」
「煽る?」
「煽ってないんだろうな、こういう質の悪さもあるんだなあ」
ライアンはもう一度、ぎゅうとルイーゼを抱き締めると、ふう、と息を吐いて、いつもの穏やかな笑顔になった。
「ルイーゼ、朝ごはんにしましょうか。今日だけは1日休みですし、こちらでゆっくり食べましょう」
そう言ってライアンが侍女を呼び、2人は簡単に身支度をすると用意された朝食を一緒に摂った。
「朝食と夕食は出来るだけ一緒に食べたいですし、夜は基本的には一緒に寝たいのですが、いいですか?」
食べながらライアンが聞いてくる。
「ええ、そうしましょう」
ルイーゼはそう答えてから、「私もそうしたいです」と付け足した。
おそらく自分の恋愛の表現は淡々としていると思うので、こういう意思表示は大切だと思う。
ライアンは思った通り、嬉しそうになる。
狙い通りでよかった。
明日からは女王としての公務が始まる。
女王、の肩書きは今はまだ重たいが、やる事は今までと変わらない。
それに、傍にはライアンがいてくれる。
何とかなるだろう。
ルイーゼは、晴れ晴れとした気持ちで朝食を食べた。
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こちらでルイーゼ編も一区切りです。
もっとさらっと書くつもりが、ルイーゼが面白くて筆が進みました。女王らしく書けたかは不安ですが、楽しくは書けました。
作品自体は、もう少し番外編書けるかな?と思ってますので、連載中で置いておくつもりです。だらっと書くかもしれないし、その内完結にするかもです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。