13.人生を大きく変えていく存在
「あれ、君どうしたの?大丈夫か?」
突然現れたのは見知らぬ男性だった。
こげ茶色の髪と浅黒い肌をした野生的な美丈夫で、歳は30代半ばぐらいだ。
(誰この人…?どう見ても生徒じゃないし、先生方の中でも見たことない。…誰かの保護者かな?)
先程まで1人が寂しかったはずなのに、いざ人が現れるとジェーンは悲しみよりも警戒心が勝ってしまい、涙もひっ込んでしまった。
「お、お構いなく!」
「いや、でも。あぁ、ほら!顔に砂がついている」
男性は壊れ物を扱うような優しい手つきで、ジェーンの顔についた砂を払ってくれる。
取り終わると、ニカっと人好きのする笑顔を見せた。
「そっか、転んだのか!夜は暗いんだから、足元に注意しねぇと危ないぞ!」
「ありがとうございます…」
ジェーンは出会ったばかりの彼の厚意に戸惑いつつも、おずおずとお礼の言葉を述べた。
「君もパーティーに参加するんだろ?」
「えっと、僕はもう帰るんです…」
「そうか、気を付けて帰れよ。じゃあな!」
男性はそう言うと、そのままパーティー会場の方向へと去っていく。
(こんな僕にでも優しくしてくれる人がいるんだな…)
男性の優しさに触れて、ジェーンの気分は少し晴れていく。
だが、ジェーンはまだ知らない。
彼が自分の人生を大きく変えていく存在になるとは。
そして卒業パーティーの日から2年が過ぎた頃。
ジェーンはアンテノール公爵家にて軟禁状態にあった。