12.泣くな、ジェーン
「では無事婚約破棄も成立致しましたので、私は失礼させていただきます。皆様、パーティーを楽しんで下さいな」
(これで逮捕&処刑ルートは回避できただろうか?物語の強制力がどれほど働くのか定かではない今、次なる面倒に巻き込まれないよう早々にこの場から立ち去るのがベストだ)
ウィリアムとリアの恨みがましい視線を背後にひしひしと感じながらも、騒然としている会場を後にする。
そして会場から出た途端、ジェーンは一目散に待機させてある公爵家の馬車に向かって走り出した。
(泣くな、泣くな、あんな男のためになんか泣くな、ジェーン・アンテノール)
パーティーの最中は気丈に振る舞っていたものの、初恋に破れた悲しみや婚約者を奪われた悔しさはウィリアムへの愛が消えようとも、そう簡単に失くなる訳ではない。
溢れ出そうになる涙を懸命に堪えながら走っていると、目の前は霞んで仕方がない。
そのせいでジェーンはど派手にこけてしまった。
1人きりの夜道で誰かが助けてくれるはずもなく、転んだ痛みに耐えながら自力で起き上がる。
(追いかけてきてくれるなんて、露ほどにも思っていなかったけど。それでも独りぼっちは寂し過ぎる)
我慢が限界に達したジェーンの麗しい瞳から涙が伝った瞬間、横から手が差し伸べられた。