コウエイを呼ぶ声
やがて廊下の突き当りにたどり着く。
そこにあったのは真新しいガラスの扉。そして。
「コウエイ!」
ガラス1枚隔てた向こう、拘束椅子に座らされたコウエイの姿が見えた。
意識を失っているのか、私の声に反応を示さない。
「コウエイ、コウエイ!」
「くそっ……どうしたら開くんだ……」
名前を呼び続ける私の横で、ロイさんは扉を開けようとしていた。
だが、ボタンらしきものもなく開ける方法が見つからない。
その時、部屋の中からがたがたと揺れる音がした。
「コウエイ……? どうしたの?」
僅かに震えていたコウエイの身体が、大きく揺さぶられるように震えだす。
本人の意識なく、口から泡を吹いていた。
「こんな時に……!」
「そんな、コウエイ!」
私は思いっきりガラスの扉を叩いた。
ぴしり、と言う砕ける美しい音が聞こえて、扉に亀裂が入る。そのガラスは虹色に煌めき、光の粒になって私の中に吸い込まれた。
「……なんだ、今のは……」
ロイさんが目の前に起きた出来事にあっけにとられた。
けれど、私はそんなことは気ならなかった。今はコウエイが先だ。
偶然でもいい道は開かれて、コウエイの元へ駆け出す。
「これは……魔物……か!?」
遅れてやって来たロイさんが言葉を漏らす。
コウエイの皮膚が、すでに虹色の鱗で覆われていた。ほぼ魔物の姿になりかけていて、手の施しようがないように見える。
けど、コウエイに取り憑いていた人は私なら救えると言った……。
だったら、何か手があるはず……!
「もしかしたら……」
いまさっき起きた現象を思い出す。
消えたガラス。もしかしてあれは虹脈だったのでは?と。虹脈は姿も形も変えられる。
液体状、固体ありとあらゆるものに。
なら、ガラスのように変化したって変じゃない。
そしてそれに触れた時、砕け散って私の中に入ってきた。私は、虹脈を吸い取れる。
「やってみる価値はある」
一度自分の両手を見つめる。特に他人とは変わらない手。だけど、この手がコウエイを助ける、特別な力があるのなら。
「シオン?」
「見てて、ください」
そうして、私は苦しむコウエイの手に触れた。
すでに柔らかさはなく、石のように硬くなっている。温もりさえも感じられない手のひらを、ぎゅっと握るとその鱗のようなものが容赦なく刺さった。
「コウエイ、戻ってきて。お願い……!」
血に塗れることに構わず、願った。
お願い、聞こえているなら、力を貸して。
「お母さん……!」




