長い長い廊下の先
背後から迫る気配を感じながら、ロイさんに手を引かれて逃げていた。
逃げながら、私はあの光景が頭から離れずにいる。
「ロイさん! 私、コウエイを助けに行かなきゃ……!」
「はっ…はっ、ど、どうして!? なんでコウエイ!?」
息を切らしながら、前だけを見ていたロイさんが振り返る。
私も息を切らしながら、乾く喉で叫ぶ。
「詳しいことは後で……!! 今は、コウエイを探さなきゃ……!」
「……ッ、分かった! でも宛はあるの!?」
「あり、ます! こっち!」
前を走っているロイさんを追い越し、私が前へと躍り出る。
向かうべき場所は分かっていた。
――こっちだよ。
そう呼ぶ声が、頭の中でずっと木霊していた。
時たま誰かが呼ぶ声がしていたその声は、コウエイに取り憑いた虹脈の声と同じだった。
そして、私と繋がりが深いとも言う。
その声がはっきりと、鮮明に聞こえるのはその証明だ。その証拠に、その声が何処から発せられているのかも、分かる。
私は行かなくてはいけない。その声のする方へ。
鬼に呼ばれるように、私はその手の鳴る方へ引き寄せられていく。
細い路地を抜け、いつの間にか背後に迫る気配は失せる。
私達の目の前には、地下へ続く狭い階段。下から吐き出される生温い空気が、何処か生き物の吐息を思わせる。まるで、巨大な獣の口の前にいる気分だ。
さながら、獣の口に飛び込む獲物かもしれない。
それでも、私は意を決して階段を降り始めた。
後ろをロイさんが静かについてくる。時々背後を気にして振り返る。
背中はロイさんに任せよう。私は前だけ見て、明かりのない階段をゆっくりと下っていく。
視界が悪いので、右手を壁につき慎重に降りていく。
暗闇に段々目が慣れてくると、一つの錆びた扉が目に入る。ドアノブを回すと鍵が掛かっていないのか、わずかに扉が開いた。ギィと言う嫌な音を立てながら、静かに体を滑り込ませると長い廊下に出た。
剥き出しの小さな豆電球に照らされた一本の廊下は、ずっと先まで続いている。緩やかに下がっている辺り地下へ地下へと向かっているようだ。
不気味な物音一つしない廊下を下りながら、強く手を握りしめた。
ぎゅっ、とロイさんがその手を握り返す。
そうだ、今は私は一人じゃない。
ロイさんがいる。それがどんなに心強いか。




