表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑草少女と花の国  作者: 山名真雪
雑草少女と不治の病
84/120

長い長い廊下の先


背後から迫る気配を感じながら、ロイさんに手を引かれて逃げていた。

逃げながら、私はあの光景が頭から離れずにいる。


「ロイさん! 私、コウエイを助けに行かなきゃ……!」


「はっ…はっ、ど、どうして!? なんでコウエイ!?」


息を切らしながら、前だけを見ていたロイさんが振り返る。

私も息を切らしながら、乾く喉で叫ぶ。


「詳しいことは後で……!! 今は、コウエイを探さなきゃ……!」


「……ッ、分かった! でも宛はあるの!?」


「あり、ます! こっち!」


前を走っているロイさんを追い越し、私が前へと躍り出る。

向かうべき場所は分かっていた。


――こっちだよ。


そう呼ぶ声が、頭の中でずっと木霊していた。

時たま誰かが呼ぶ声がしていたその声は、コウエイに取り憑いた虹脈の声と同じだった。

そして、私と繋がりが深いとも言う。


その声がはっきりと、鮮明に聞こえるのはその証明だ。その証拠に、その声が何処から発せられているのかも、分かる。


私は行かなくてはいけない。その声のする方へ。

鬼に呼ばれるように、私はその手の鳴る方へ引き寄せられていく。


細い路地を抜け、いつの間にか背後に迫る気配は失せる。

私達の目の前には、地下へ続く狭い階段。下から吐き出される生温い空気が、何処か生き物の吐息を思わせる。まるで、巨大な獣の口の前にいる気分だ。

さながら、獣の口に飛び込む獲物かもしれない。


それでも、私は意を決して階段を降り始めた。

後ろをロイさんが静かについてくる。時々背後を気にして振り返る。

背中はロイさんに任せよう。私は前だけ見て、明かりのない階段をゆっくりと下っていく。

視界が悪いので、右手を壁につき慎重に降りていく。


暗闇に段々目が慣れてくると、一つの錆びた扉が目に入る。ドアノブを回すと鍵が掛かっていないのか、わずかに扉が開いた。ギィと言う嫌な音を立てながら、静かに体を滑り込ませると長い廊下に出た。


剥き出しの小さな豆電球に照らされた一本の廊下は、ずっと先まで続いている。緩やかに下がっている辺り地下へ地下へと向かっているようだ。


不気味な物音一つしない廊下を下りながら、強く手を握りしめた。

ぎゅっ、とロイさんがその手を握り返す。


そうだ、今は私は一人じゃない。

ロイさんがいる。それがどんなに心強いか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ