魔物の正体
「私が見えてるの……?」
そう声をかけると、コウエイは小さく微笑む。
「ことはもう止められない所まで来ている。十分注意することね」
「珍しいこともあるものだ、他人の心配をするなんて」
くすくすと腕を組み、リーク様は笑う。
けれど、その言葉はリーク様ではなく私に向けられている気がした。
視線が合い続ける目が、訴えかけているようだったから。
「さてと、時間ですから行きます。ではまた」
椅子から立ち上がり、リーク様は闇に消えた。
足音も去っていき、私とコウエイだけが残される。
「シオン、よね」
「え、はい。やっぱり、私が見えてるんですか」
「もちろんよ。だって、私とあなたは繋がっているから」
「繋がっている……? それはどういう意味ですか」
「私とあなたはとても深いつながりがあるの。それに、あなたは虹脈を取り込んだ。あなた、配給された食事を摂ったでしょう。あれは、虹脈を細かく砕いて混ぜている」
「そんなもの、どうして」
「虹脈と繋がる人間を見つけるためよ。その理由、知っているのでしょう」
「……虹脈様の力を使って、願いを叶えるため……?」
そうよ、とコウエイは微笑む。
「あの人達は言葉も持たぬ虹脈と意思疎通を図るため、人に虹脈を飲ませて虹脈と人との境を曖昧にし用としてる。だから、こんな非人道的なことも、でき、る……」
「コウエイ!?」
コウエイから微笑みがふと消え、表情が曇る。額からは汗を流し、苦悶に歪んでいく。
「どうしたの、コウエイ!」
「時間が、ない。お願い、この子を助けて。あなたらならきっと出来る……! あなたは私の――」
コウエイの手が、足が、強張って。
虹色の鱗が皮膚を変えていく。それは、魔物と同じ姿形に成して、コウエイの姿を覆い隠した。
「…………オン……シオン!」
「コウエイッ!!」
自分を呼ぶ声に、眼の前のコウエイの姿が霧散した。
入れ替わるように、必死に私の名を呼びながらロイさんが肩を揺さぶっていた。
はぁはぁ、と息がうまく出来ない私の背をゆっくりと撫でる。
「御婦人、どうかしましたか」
私の様子を不審思ったのか、一人の衛兵が近づいてくる。不敵なのっぺりとした笑顔を浮かべて。
笑っているのに、笑っていない……。
「いえ、ご心配なく」
ロイさんも不穏な気配に気がついたのか、私と近衛の間に割って入る。
私を背中で隠しながら、きっと警戒を込めて睨みつけた。
しかし、衛兵は気にすることなく近づいてくる。
「いやぁ、御婦人顔色が悪いようですよ。こちらで診ましょう。さぁ、どうぞ……?」
ねちっこい笑顔と声を発しながら、その手は私に触れようと伸ばされる。
「シオン、ごめん……!」
「は、はい!!!」
「待て!!!! その二人を止めろ!!!」
くるりと身を翻したロイさんは、私の手を取って走り出す。
走り出した背に、衛兵の鋭い声が突き刺さる。




