表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑草少女と花の国  作者: 山名真雪
雑草少女と不治の病
80/120

繋がった先に


浮浪者や、怪我を負い倒れている者。

その中には黒い髪をした、姚国の人間も混じっている。けれど、どうにも出来ない。


もしかしたら、あの病がこの人たちを蝕んでいるのかもしれないと思うと、恐ろしくもあった。

もしかしたら、私も同じようになるのかもしれないと思うと。


身震いを覚えながら、進んでいるとこの裏路地には珍しいいい匂いがしてくる。

どこかで炊き出しでもしているのだろうか。


ここに来てからというものの、食べ物はロイさんツテ……アシビさんからのがあるが贅沢は出来ない。今はなんとか受け取っているが、いつその宛が外れて食糧供給が絶たれるかもしれない。


最悪の事態は想定しておくに限る。出来るだけ温存しつつ、別の宛も持っていたほうがいい。そう思って、匂いがする方へと誘われていった。


そこは少し開けた広場のようなところだった。

と言っても城下町で見た噴水が合ったりするわけではなく、ただただ開けた場所があるだけの質素なものだった。


簡単に設置された屋台のようなところに、人が群がっている。

どこから集まってきたのだろうという程に賑わっていた。

そして、ここにいるすべての人は飢えた獣みたいだった。お腹を空かせ集まってきた獣。

今は行儀良く並んではいるが、ギラつかせた目は今か今かと鋭く光る。


やがて、配給が始まると人の波はわっと屋台へ集中する。人の波はさながら一つの生き物のようだった。見境なく動き出す波に一瞬にして飲み込まれる。


その波に抗おうとするが、私一人の力じゃどうにもならない。やがて、並んでもいないのに事務的に食料が手渡される。野菜スープと焼き立てのパン。


食欲を掻き立てるには、十分だった。

食事は取ってきたはずなのに、なぜだろう。すごく食べたい欲が溢れる。


「さぁ、どうぞ」


機械的に衛兵の一人が言う。スプーンを持つ手が震えて、うまく力が入らない。まるでなにかに取り憑かれたようなそんな感覚だった。

普通だったら、こんな感覚にさせられる怪しい食べ物なんて口にしない。


けれど私はその言葉に素直に従う。そう思わせる力があった。口に運ぼうとした瞬間、あの声が聞こえる。


――食べては、だめ! これ以上は、繋がってしまうから……!


けれど、私はその言葉を理解する前にそれを飲み込んでいた。


眼の前の光景が遠くなる。

色のついた世界が黒で塗りつぶされていって、やがて見えなくなった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ