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雑草少女と花の国  作者: 山名真雪
雑草少女と新たな出会い
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窓越しの夜空

私は一日、そのカバンを手放さず、肌身離さず掛けていた。

お金も入っていたし、大事なものを部屋に置いておくのは気が引けた。

きっと、フォンさんは盗らないだろうけど、ここに居る子供たちは分からない。


いつもと変わらぬ日常を送っている間にも、私がこの孤児院を出ていく、という噂が瞬く間に広がったようだった。


ひそひそと、漏れ聞こえてくる言葉に私は今更傷つくこともなかった。

その夜、食堂で夕食を摂り終わり僅かに和んできた頃合いを見て、私は声を上げた。


「皆さん、聞いてください……!」


にわかに静まり返る食堂。視線が一気に私に集まる。

吐き出そうとした言葉が、一瞬消えてなくなりそうだ。

だけど、苦しくなる呼吸を整えて頭を下げる。


「もう知っているとは思いますが、私は明日、ここを出ます……!」


食堂は静まり返っていて、誰も返事はしない。

元より、私も返事なんて必要としていなかった。これは私なりのケジメの付け方だった。

ここに、置いてもらったという礼は欠きたくない、という。


「今までお世話になりました!」


下げていた頭を上げて、私はみんなの顔をぐるりと見てからその場を後にした。

みんな驚いた顔や、清々した顔、様々な反応を示していた。きっとどんな顔をしたらいいのか、分からないのだろう。

私も分からない。嬉しいはずなのに、なんだか悲しい気持ちもあったから。


――――――――――――


その夜。私は自室には戻らず、馬小屋、ハンナの所へと来ていた。

厩の中に入り、干し草の中に腰を下ろす。

ハンナは初め、戸惑った様子を見せた。無理もない、いつもだったらこの時間誰も来るはずのない。

けれど、私がやってきたのだ。


警戒した様子は見せなかったが、その場で足踏みをして落ち着かない。


「ごめんね、どうしても今日はハンナのそばにいたかった……」


ローレル様達の助けを借りて、ここを出ると決めた時浮かれていた私が、ふと思ったのはハンナのことだった。

ローレル様達が目を光らせているから、世話等大丈夫だと思うけど、私はきっとここで別れてしまったら二度と会えないかもしれないと気づいたのだ。


いくら、ローレル様との約束があろうとも、本当は気軽に会える人ではないのだ。

ハンナもそう。元は王族の所有する馬。会いたい時には今みたいに会えなくなる。


「星、綺麗だね」


蹲って、厩の窓から星を眺める。

こんなに綺麗な星空をゆっくり見たのはいつぶりだろう?


「あのね、言わなきゃいけないことがあるの」


私はぽつりぽつりと、ハンナに話し始めた。

今日の出来事を、そして私がここを出ていくことを。


静かに優しい目で、ハンナは私に寄り添ってくれた。

まるで、慰めるかのように、元気づけてくれるかのように。


「ごめんね、あなたを中途半端に投げ出しちゃう形になって……」


頭を撫でながら謝ると、ハンナはそんな事ない、と口で髪をもしゃもしゃと食べた。

といってもフリなので、私の髪が乱れるだけだったけど。


「やめ、やめて…はははっ」


擽ったくて笑いが出ると、ハンナは一層私にじゃれついてきた。

あぁ、ハンナもハンナなりに私を思ってくれるのかもしれない。そう思うと、嬉しくて涙が出る。


「今日は、ずっとこうしてよう……?」


お互い、交わす言葉は無かった。要らない、必要なかった。






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