立ち止まれないから
黙ったままの二人に続きを促され、私はあの光景をぽつりぽつりと語りだした。
その間、二人は相槌を打ちつつ静かに聞いていた。
「光の乱反射の向こうにリークが見えた……」
「神様と話がしたいってなんだか……」
二人はうーん、と唸る。
「少し分かったことがあるんです。恐らくリーク様が見ていたのは虹脈だと思います。しかもお父さんが、言っていた特別な虹脈。なぜか、あの虹脈は……何か違うと感じました」
あの光景を、あの時感じた感覚を思い出す。
今は手のひらが自由に動く。けれど、あの時は自由に動かなかった。
ただ、薄く目を開いた感覚だけはあった。人だという感覚が、確かにあった。
「そうか……虹脈の中に、誰かいる。私は、その誰かに同調したんだ……」
「シオン、それはどういうこと?」
何がなんだかわからない、とロイさんは首を傾げる。コウエイはついていけないのか、私とロイさんの事を交互に見ていた。
「私はあの時、誰かの目を通してリーク様を見てた。動けない身体と瞼だけは開くっていう感覚だけは残っているんです。あれは神様じゃない、虹脈の中の誰かの感覚だった……」
「なるほど……でも、それは誰だ……? 虹脈の中に人が入るなんて可能なのか……?」
「虹脈は何でも出来るから神様って崇められてる……なら人が入るのは不可能じゃないのかも……もしかしたら迎え入れたとも考えられます」
なるほど、とロイさんは顎にて当てて考え始めた。
「なんで、シオンは同調したんだ? もしかしてシオンが関係する誰かなのか……? 」
そう言われても、私には思い当たる節がない。
ただ、お父さんはその虹脈を欲しているのだけは分かる。人一人を取り込んだかもしれない特別な虹脈。
そして、私と何か関わりがあるかもしれないその虹脈に……。
「私、探してみたい。その虹脈を探し当てられたら、何か分かるかもしれない」
「確かにそうだな。確証はないが、探してみる価値はあるかもしれない」
ロイさんも深く頷く。
しかし、コウエイは不安そうに俯いて言う。
「大丈夫かな……? 怪我したり、痛い目に遭うかもしれないよ……? 止めたほうが良いんじゃないかな……?」
「心配してくれてありがとう。でも、立ち止まらないって決めてるから。何があっても、私は行く」
他人を気遣える優しい子。そんな子の静止を振り切って、自分に正直にいるのは心苦しい。
けれど、立ち止まることだけは私自身が許せそうになかった。




