今、会いに行きます
今日も裏路地には湿った重い空気が立ち込めていた。
恐らくここはずっとこのままなのだろう。そんな裏路地を進んでいくにつれて、気付いたことがある。
それはここには、死の匂いが立ちこめているということ。国として終わってしまった姚国と同じ匂いがする。
そっと目配せをするといくつかの細い道とも呼べない隙間に、やせ細った人がうなだれている。
気づきたくはなかったが、虫が飛びその先のことは想像したくはなかった。
ここが世界の終わりなのでは、と思える。
まさか姚国を出て、カロラという栄えている国でまたこんな思いをするとは思わなかった。
お父さんが言った、いい所ばかりではなかった。
今思えば、あの時お父さんはいい所ってなんで言ったのか疑問が浮かぶ。
何度かため息を付いた時、視界の端に誰かが通り過ぎる。いつもならそんなに気にも止めない。
けれど、警戒して歩いていたためにその人物に目を向けた。その後姿が、自分の父親とそっくりで……無意識に走り出していた。
「待って、お父さん……!」
叫びながら、お父さんの背中を追いかける。
が、いつまでたっても追いつけなかった。小さくなり続けるその姿は、何度か曲がった道の先で消えた。
呼吸が乱れ、ままならない。
「お父さん……!」
見失ったとしても、前へと闇雲に走り出そうとした時。
待って、と私の手を掴まれ振り返るとそこにはコウエイが息を切らして立っていた。
「どうして、ここに?」
「それは、私のセリフですよ! なんで待っていなかったんですか? ロイさんは!?」
慌ててあたりを見回すコウエイの触れている手首が、熱を持つ。じわじわと焼かれるように、痛みを放ち気が遠くなる。聴覚が遠のいていき、私を呼ぶ声さえも聞こえない。
心配そうに私を見る、コウエイの顔が見えた。その顔に、誰か知らない女の人が重なる。
――シオン、こっち……
いつか聞いたような、優しい声が木霊する。
あぁ、誰か私を呼んでいる。ずっと前に聞いたような、懐かしい声。ずっと聞いていたいような、縋りたくなる誰か。
「今、行きます」
何処かここじゃない何処かの誰かに、私は答える。
今、あなたに会いに行きます、と。




