私だけは知ってる
「恐らく、僕らが行ける場所は一つと思う。リークも多分、気づいているはずだ。だけど、手は出せないそんな場所……本当はシオンを連れていくのはどうかと思ったんだけど……」
「何を言ってるんですか。ロイさんが行くのなら、どこへだって一緒に行きますよ」
「そっか、そうだよね……ありがとう。じゃあ、行こうか」
「はい!」
今ロイさんが感じている不安や恐怖が吹き飛べばいいと、私は明るく振る舞う。笑顔を浮かべて、この先にある暗闇なんてなんともないと、恐れるものなんて無いと伝わればいいと思った。
どうやらロイさんに届いたらしく、いつもの様に優しく笑い返してくれた。
きっと、大丈夫。二人でいれば、なんとでも乗り越えていける。
私たちは歩き出し、城下町を離れる。
だんだんと城は小さくなっていき、やがて見えなくなる。街の風景も変わっていく。どうやらここは魔物たちの襲撃は免れたようで、建物自体は崩れてはいない。
しかし、至る所は傷み無造作に木の板で修復されたあとがある。それは真新しくなくずっと前からその状態のようだった。
古い建物のようだ。コケやカビがむき出しの煉瓦に生え、湿気を含み陰鬱な雰囲気にさせる。
日の当たりづらいのか、日は差さず日陰の場所が多い。
通ってきた道も、裏道だったようで細く入り組んだ、誰も近寄らなさそうな場所に位置しているようだった。
「ここは?」
「……ここはね、この国に、居場所がない人達の溜まり場かな……」
重く口を閉ざしていたロイさんが、苦々しくつぶやく。
「気を悪くしないで欲しいんだけど……カロラに流れ着いた移民……姚国の人とか……あんまり目立って表立てない人達が集まってるんだ……」
「そう、なんですか」
なるほど、と思った。
確かにここに横たわる何かの気配は、とても冷たい。
漂う空気の重さは、城下町とまるで正反対だ。城下町が陽の雰囲気なら、ここは陰の雰囲気。表の部分が覆い隠したい闇の場所だ。
「ごめん、本当ならシオンを連れてくるべきじゃないんだけど……」
僕が不甲斐ないばかりに、とロイさんは項垂れていた。きっと、王子としてなにか出来なかったことに対して謝り続けているのだろう。
「謝らないでください、大丈夫ですよ。もう謝るのは無しです」
さっきから、私に謝ってばかりだ。
確かに王子として何も出来なかったのだろう。けれど、それでもロイさんはリーク様や自分の父親と決別してまで何かをしようとしてくれたのだ。
私はそれを知ってる。
「だから、もういいんですよ」
あなたの、決意を、意思を、私は、私だけは知ってる。




