二人だけで
その後、女将さんは二人分の肩掛けカバンとリュックにありったけの食料と、衣服を詰めて渡してくれた。
本当は引き止めたかっだろう、女将さんはもう少し、と言い切る既で口を閉ざした。
その言葉の先、ここに居たら? という言葉を飲み込んだんだろうということは私にも分かった。
だけど、女将さんもロイさんも、もちろん私もその先を言わなかった。言ってしまったら決意は変わらないのに、心の中が痛くなるから。
きっと、別れが先延ばしになるだけだ。
「僕たちは行くよ。もしまたリークが来たら、ここにはいないって言って」
「分かってるよ。家探でも何でもして、探し出してみなさいとでも言うさ」
おどけて女将さんはウインクをした。この空気を、少しでも和らげるような仕草に、私もロイさんも笑った。
「そろそろ、行こう」
はい、と私はロイさんに頷く。
リュックをロイさんが、肩掛けカバンを私が背負い込む。ずっしりとした重さに無意識にカバンの紐を握りしめた。
「ほら、手」
一歩前に歩いていたロイさんが、私に手を差し伸べた。
その手を、迷わずとって手を繋いだまま歩き出す。
この別れの先、またいつ会えるのか分からない。
リーク様が、この国がロイさんを邪魔者扱いする以上、女将さんには二度と会えないかもしれない。それは百も承知で、ロイさんと女将さんは泣きもせず、ちただ手を振る。
「また来るよ、それまでは元気で」
「ロイもね。シオンちゃん、頼んだよ」
「はい! いろいろありがとうございました。また!」
頭を下げて、別れの挨拶を済ませると扉を開けて宿を出た。
ちらり、と振り返ると小さくなっていく女将さんはずっと見えなくなるまで私たちを見送ってくれた。
だけど、ロイさんは一切振り返らなかった。
「これからどうしましょうか」
行く宛など検討もつかず、私は唸りながら考えた。この国にいるのは危険だろうか……?
もっと別の地へ行って、名前や身分も変えて生きていくのが、ロイさんの身の安全のためだろうか。
そんなことを考えていた。
「この国は出ないよ。僕は、この国を捨てられないから……」
少し表情の影ったロイさんの横顔。それは、この先の不安を映しているのだろうか。
それくらい、顔色が悪かった。




