表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑草少女と花の国  作者: 山名真雪
雑草少女と新たな出会い
6/120

監視

ローレルが笑いながら話す姿を、木の影から覗きながら、リークは深いため息をついた。

しかし、一瞬も目を離さず今後の対応をいくつも考えを巡らす。


リーク ポッロはローレルのお付の者、言わば暴走しがちな彼の手綱を唯一握れる人間だったからこの旅に同行することになった。

彼の仕事は、ローレルが暴走して余計な事件を起こさないようにすること。

未然に防ぐため、幼なじみであり、唯一話を聞いてくれるリークに白羽の矢が立ったのだ。

その役目を仰せつかった時、リークの胸に一抹の不安と予感があった。そしてやっぱり事件は起きた。


「本当、姚国の人間がここにいるなんて誤算だったよ……」


調べさせたつもりではいたのだが、どうやら彼女、シオンの存在は巧妙に隠されていたらしい。

もし、姚国の人間がここにいると知っていたら、ローレルを差し向けなかっただろう。


なぜなら、彼は姚国の人間にとても友好的で、かかわり合いを持とうとするから。

彼の執着が、いつか身を滅ぼす事になりうるから。


「本当に、厄介な事ばっかりだ……」


これから起こるであろう、事柄に頭を抱えて天を仰いだ。

そんな、リークの心配をローレルはまだ知らない。


―――――――――――――――


「僕、フォンに会いに来たんだ。案内してくれるかな?」


「あ、フォンさんのお客様だったんですね! すみません、こちらへどうぞ」


私は二人を引連れて、教会の中へと戻る。

聖堂を抜けた先、がフォンさんの執務室だ。普段はここで教会の事務作業や、お客様の対応をしている。

きっと今の時間ならフォンさんはここに居る


「ここにフォンがいるんだよね。案内ありがとう。ここから先は大丈夫だよ」


扉をノックしようとする私を制して、ローレル様は言う。


「そ、そうですか……? 分かりました。では、お茶の用意をしてきます」


「助かるよ。よろしくね」


失礼します、と腰を折るとローレル様は手を振って見送ってくれる。

私は何か不穏な空気を感じて、足早に台所へ向かった。


三人分の紅茶と茶菓子を用意して、執務室へ戻る。

ノックしようとすると、僅かだが扉の向こうから言い争う声が漏れ聞こえてきた。


『……って! わた……は!』


その大きな声に、びくりと手が止まる。

入っても、いいのだろうか……?

しばらく戸惑っていると、がちゃりと扉が開く。


「貴女でしたか。お茶をどうもありがとうございます」


「い、いいえ、お取り込み中すみません……」


「構いませんよ」


扉を開けたのは、リーク様だった。

リーク様の向こうで、フォンさんが肩で息をしながらこちらを睨みつけていた。


「そ、そうです。あいつが、あの者が支援金を横領したんです! 私ではありません!!!」


え……? 横領? 支援金?

頭の中に疑問が浮かぶ。お金のことは私は一切触れてきていない。

フォンさんが全て仕切っていたはず。


「私、そんな事しません!」


「どうだか! 姚国の人間なんて、信用できるか!」


フォンさんは真っ赤な顔をして、私を罵った。

まるで、自分の罪を全て私に被せるかのように。


あ、そっか…。フォンさんは、私に擦り付けたいんだ……。

どうしよう。姚国の人間の言葉なんて貴族様が聞いてくれるか分からない……。


不意に涙が溢れてくる。


「私、してないです。本当です……」


溢れかけた涙を拭いて、私はそういうしか無かった。もし信じてくれなかったら、どうしよう。


「大丈夫だよ、信じる」


その言葉にリーク様と私は椅子に座っていたローレル様を見た。

ですよね! といった様子でフォンさんのみるみる明るくなる。

きっと、私に罪を擦り付けられた、と思ったのだろう。


「分かってくださいましたか! あの者に罰を!」


そう、高らかにフォンさんがいう。

その顔は勝ち誇った様だった。

しかし、ローレル様から出た言葉は、意外な言葉だった。


「違うよ。勘違いしないで欲しい。フォンがやったことは調べ尽くしてここに来てるんだよ。今更覆らない」


「え、えっ……!?」


「ここに来るのに、証拠もなしにノコノコ来ると思ったの? それは舐められたものだね。ね、リーク?」


「はい。証拠はこちらです」


リーク様は懐から封筒を取り出すと、中身をフォンさんへと差し出した。

震える手でフォンさんは目を通し、顔色は真っ青になった。


「こ、これは……!」


「それは支援金の使い道について調べたよ。渡したお金が五百万。申請によれば建物の修理に使用するという申請があったけど、調べたらカロラのどこの職人、おろか店舗にも修理依頼、相談さえも来てないって結論に至った。カロラのどこも、だ」


語尾を強め、言い切ったローレル様はフォンさんをまっすぐ見た。


「そして、出金もフォン、貴方がしているのを確認した。その後、そのお金を交友費等に当てたことも調べがついてる」


それが意味するのは、この人たちはあらゆる手段を使って、この広大なカロラ王国を一人の不正を暴くために調べ尽くしたと言うことだ。

漏れもなく、尽力と人力を尽くしたという。

このそんなことが出来るなんて、上流階級じゃなきゃできない芸当だ。

一体、この人たちは……?


「それに、彼女の待遇についても言及しなきゃいけないことがある。姚国の人間だからって言って信用がないと思って、罪を擦り付けようとしたね? 日頃から彼女の扱いは酷いものだったんじゃない?」


ローレル様の言及はなおも続き、遂には私のことにまで及ぶ。


「私たち、王族の名において姚国の人を差別することは許していない」


「……王族?」


「あれ、言ってなかったっけ。僕はカロラ王国王子、ローレル カロラ シオールだよ」


「お、王子さまぁっ!?」


まさかの身分に驚く。貴族の格好はしていたけどそこまで雲の上の人だとは思っていなかった。

こんな田舎に、お供ひとりでやってくる王子様なんているとは思っていなかった。


「まさか、リーク様も?」


「いや、私は王族ではない。辺境伯という身分を賜っている身だ」


それでもすごい人だ。国境を最前線で守る言わば防波堤の役割をする人。

この国の守りの要の人がここにいる。


「まぁ、僕らの話は置いておいて。フォン、あまり自由気ままにやると痛い目を見るよ。これは警告だ。あとの処分等は追って沙汰を待つ様に」


「は、はい」


すっかり意気消沈したフォンさんが、力無く床にへたり込む。


「フォンにも時間が必要でしょう。私たちは一旦外に出ましょうか」


そうして促されるまま、魂の抜けたフォンさんを部屋に残し、私たちは部屋を後にした。

その後、今は誰もいない食堂に戻り、ローレル様とリーク様にお茶を出している。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ