その名を呼ばない
喧騒の中、私とローレル様――ロイさんは幾分落ち着いた城下町を歩いていた。
ロイさん呼びになったのは、二人で話し合っての事だった。
――これからはローレルって呼ばないで欲しいんだ。
そう言って、笑ったローレル様がとても悲しそうに見えた。
おそらく、あの日見た光景が関係しているのだろうと察した。ローレル様とリーク様、そして国王である父親との決裂。事実上の王族からの追放。
だからローレル様は、真名を呼ばないで欲しいと言ったんだろう。
そしてきっと、その名前を呼ぶ一人の友を思い出してしまうから。ロイさんの中に積もる思い出が、ロイさん自身を苦しめることがよく分かって、私はその名前を呼ぶことを止めた。
だから、私は何も聞かずにうなづいた。
単に街中でローレルと口にするだけで、一般人は王子がここに居る、ということを認識する。
それがどれだけの効力を発揮するか分からない。
今は知られていないがロイさんは王族を追われた。その事実が発覚すればどうなるか、ロイさん自身も測りかねているようだった。
なんにせよ、ローレル様と呼ぶことは私たちは選ばなかった。
「それにしても、見事な采配だな。復興のために炊き出し、仮の住居、保証まで政策を進めるんだから。大したものだよ」
ロイさんは紙袋いっぱいの食料を抱えながら呟く。私の分と女将さんの分も入っている。
そうですね、と私は答えた。
比較的被害の少ない大きな道路には長蛇の列。人々の目的は国から配給される食料を受け取りに来ていた。
その他、燃料や住宅の申し込みなどこれから更に手厚くなっていく予定らしい。
そして、これはどれもこれもリーク様の手腕によるもの、ということになっていた。
大怪我をして動けなくなった、ローレル様の代わりに。表向きはそういうことになっている。
表舞台に出てこれないローレル様の体の良い言い訳に過ぎないけど、それで凌いでいくことになったようだった。
「リークらしいよ。あいつは、国のためなら非道になれる。それが僕には出来なかったから」
ぽつりと呟かれた言葉が私の耳に届いたけれど、どう返すのが正解なのか分からず視線を落とす。
「その内きっと、僕の存在は消されるんだろうな」
ふたつの影が揺れて寄り添う。かける言葉は見つからないけど、でも今は傍に居たい。少しでも楽になれるなら、と私の影をロイさんの影に重ねた。




