静かな街
手を繋いだまま、しばらく歩くと女将さんの宿屋が見えてきた。
比較的建物は残っていたが、外壁が所々崩れて雨が是を凌ぐには難しそうだ。
その建物の入口に、女将さんは腰に手を当てて険しい表情で立っていた。
「女将さん!」
「あっ、シオンちゃん、それにロイ! よかった、無事だったのね? 怪我はない?」
私の呼び掛けに振り返った女将さんは、真っ先に駆け寄ると自分の心配よりも私とローレル様の身を案じてくれる。一通り私たちが怪我をしていないか確かめるとホッとしたように息を付いた。
「大丈夫。それよりも、女将さんこそ平気? それに……宿、崩れちゃったね……」
ローレル様が悲しげに変わり果てた宿を見上げる。それに習って、女将さんも私も宿を見上げた。
「そうねぇ。壊れちゃったわね…。思い出が詰まってる場所がね……」
ちらり、と女将さんの顔を盗み見る。
泣くまでは行かないものの、とても悲しそうに笑っていた。
「でもま、こうしてたら何も始まらないわ。これから少しづつ片付けないとね」
そういうと、女将さんはさぁやるわよ! と威勢よく腕まくりして瓦礫の山を片付け始めた。
「私も手伝います!」
「あら、危ないから無理しなくていいのよ? 頑張ってシオンちゃんの荷物も掘り出すから」
「いえ、荷物もそうですけど、それよりもお世話になっていますし、手伝わせてください」
私は女将さんの隣に屈んで、崩れた壁などを運び出す。
女将さんはぎょっとした様子で驚いていたが、すぐに微笑んでありがとうと私に言ってくれた。
その言葉に、私の胸は痛む。
元はと言えば私の同胞のせいなのに。
ここを奇襲して、この国の人を傷つけた。
何か目的はあったようだけど、そのやり方は間違っている。一番最悪の方向で周りを巻き込んで、皆の日常をぶち壊してしまった。
日常が変わってしまう悲しさを、私たちは嫌という程知っているはずなのに。
つん、と鼻の奥が痛くなって、私は誤魔化すために強く目を擦る。
私が泣いてどうする。何もならないだろう。なら、今はやれる事をやるまでだ。
黙々と作業を続け、1階のフロアが段々片付く。一部崩れてしまっていて修復が必要な場所はあれど、今日一日なんとか雨風がしのげそうなスペースを確保する。
そこへ、薄暗くなった部屋にぽっ、とロウソクの明かりが灯る。
女将さんの手にはスタンドに立てられたロウソク。そして部屋の数箇所にランタン。
ほのかに温かい色が反射しあい幻想的で落ち着く。
「さぁ、おもてなしは出来ないけどご飯にしましょう?」
そう言って、女将さんは鍋に入ったシチューをよそって私に振舞ってくれた。
有難く口を付けると、甘くて優しい味がして、肩の力が抜けるようだった。




