正当防衛としても
目線の先には赤い海に沈んだ、若いふたりの男女が手を繋いで倒れていた。
その二人にローレル様が近寄りそっと首元に触れた。
ぴくり、とローレル様が身じろぎ、直ぐに手を戻した。
「その二人は国王を暗殺しようとしたので、こちらもそれ相応の対応をしただけですよ」
「だからって……!」
あくまで穏やかに朗らかに言ってのけるリーク様と、拳を作り怒りを顕にするローレル様。
あまりに対称的な二人が対峙する中、低く響く声がした。
「何が、不満だ? 何をそんなに怒っている」
部屋の隅、影の中から現れたのは灰髪の王。この国を治める――ノーブル カロラ シオール。その人だった。父と子が向き合い、睨み合う。
「この状況に、ですよ。リークにも、あなたにも、そして間に合わなかった自分にも」
苦虫を噛み潰したかのように、ローレル様は顔を歪めた。
「それはこの父を助けるのが自分ではなかったと怒っているのか?」
国王は口ではそんなことを言ったが、その言葉にはそんな意味など含んでいる様子は一切ない。
むしろ、ローレル様を馬鹿にしているような色が滲んでいた。
「何を冗談を。私のことをよく分かっているでしょうに。私が怒っているのは彼らを斬ったことにです」
「それは私よりも姚国の人間を選ぶ、と受け取っても良いのか」
「そうかもしれませんね」
いけしゃあしゃあと申すな、と国王は鼻で笑う。
ローレル様はそれでも屈せず、続けた。
「私はカロラの人々と同じように、姚国の人々も好きです。だからこそ許せないのです。いくら国王を守るためとはいえど」
「その発言は反逆と取られても申し開きはできぬぞ。それに仕掛けてきたのは姚国の人間たちだ。こちらは応戦した。いわば正当防衛」
確かに、仕掛けたのは姚国の人間だ。
城下町を破壊し、魔物まで送り込み美しい街並みは今や跡形もない。
そこかしこで煙が立ち上り、逃げ惑う人々に犠牲になった人だっている。あの男の子の、母親のように。
だけど。
それでも、姚国の同胞の人間が斬られた事実は私の中で重くのしかかる。
リーク様が斬ったというなら尚更。あの優しそうな人がいとこも簡単に、人を屠ったなんて思いたくなかった。やられなければ我が身だったとしても。
だからと言って、リーク様や国王の身に何かあったとしても、それは重い事実になっただろう。
あぁ、どうして、こんなことになってしまったのだろう。私はもっと、なにか出来なかったのか、とローレル様の隣でぐるぐると暗い渦に飲み込まれた。




