見通す力
あの時。お父さんはローレル様が取りだした虹脈には一切興味を示さなかった。
他の虹脈と確かに言った。他の虹脈とは果たしてなんだろう。虹脈にも個体別というものがあるような口ぶりだったことを思い出す。
けれど、そこまでしか思い当たらず、それ以上のことは分からない。本当の目的は何だ。
お父さんは何をしようとしているんだろう。
虹脈を見上げる。そこには不変があった。
「虹脈様、変わってしまったのは私ですか。それともお父さんですか」
といかけても返事がないと分かっていたのに、問いかけられずにはいられなかった。
もしも、この問いに応えてくれるとしたら人ではなく、神様だと思ったからだ。
きっと神様なら、間違えない。
しばらくの沈黙。応えてくれるとは思ってはいなかったものの、やはり何だか悲しくなってくる。
「何してるんだろ……」
ひとつ息を吐いてそこから立ち去ろうと背を向けた瞬間。
――行かないで。
どこからが声がした。
その声は、ここに導かれた時に聞いた声と一緒だった。
「私を呼んでいるのは、虹脈様……?」
振り返り、虹脈様に目をこらすが虹色に輝くだけでほかは何も見えない。
気のせい、だろうか?
――こっちに来て。シオン……。
名を呼ばれ、驚きはしたものの悪い感じは一切しない。むしろ、懐かしいような、もっとこの声を聞いていたい気になってくる。
目の前の虹脈に触れてみたい、という気持ちでいっぱいになって私はそっと手を触れた。
温かいような、冷たいような。だけど、優しい気持ちに包まれて私は目を閉じる。
目を閉じたら、目の前は暗くなるはずなのに光に包まれて体が軽く浮かび上がり、他者の感覚に支配されたようだった。
ばっ、と一瞬にして見たことの無い景色が見えた。
それは鳥になり、全てを見通しているかのようだ。
その景色は、空を飛びカロラ王国を上から見下ろしていた。至る所から煙が立ち込め、城下町から逃げてきた住民たちが少し離れた場所で近衛兵たちに守られていた。
「これは、今起こってることをそのまま見てるの?」
やがて、城の真上に着くと急降下して城の中へと入っていく。
壁をすり抜けて、やってきたのはこの国の王と謁見したその場所――。
「ローレル様! リーク様!!」
二人の名前を呼ぶがもちろん声が届くはずもない。
部屋の中に降り立つ。二人に私の姿は見えていないようだ。
「リーク、説明して」
ローレル様が剣を握りしめたまま、呟く。
その声は酷く沈んでいて、目に光が灯っていない。ふとローレル様の視線が足元に落ちる。
赤い絨毯が、さらに赤黒く染まっていた。
「説明も何もないです。見たままですよ」
リーク様が握っていた剣から、赤い雫が滴れ落ちていた。




