本当の目的
「―――…様! ローレル様………!!!」
遠くから声が聞こえ、ローレル様は振り返る。
あれは、衛兵の一人? とぽそりと呟きが聞こえて私は涙を拭いた。泣き顔は見られたくなかった。
「どうしたの? そんなに慌てて」
駆け寄ってきた衛兵に、優しくローレル様は尋ねる。
問いかけられた衛兵は、肩で息をしながらそれが、と言葉を続ける。
「今、場内に敵が侵入し、リーク様が応戦しています。どうやら、こちらは陽動。本当の狙いは国王の様で……すぐに来て欲しいと……」
「分かった。後は任せて。君はまだ逃げきれていない市民の誘導を」
今一度、分かりました! と威勢よく返事をした衛兵は一度礼を取ると持ち場に戻るため走り出した。
ふと、ローレル様の顔を見ると難しそうに眉根を寄せて考えているようだった。長く思案するように、うんん、と唸っている。
「私のことなら大丈夫ですよ。行ってください」
「でも……」
声をかけるとローレル様一旦考えることを止めたのか、悲しそうに笑った。
私も、その笑顔に笑顔で返す。
「王様がローレル様の助けを求めているのでしょう? 助けに行ってあげてください」
この国の王はローレル様にとっては父親だ。
たった一人の、父親。その人が実の息子に手を伸ばしてる。そんな人がいるのに、私が引き止める訳にはいかなかった。
「ほら早く 」
私は立ち上がり、ローレル様の背中をぐっと押した。
しかし、ローレル様は動けないのか、前につんのめる。それでも、私は背中を押した。
「行って。今なら、間に合うから」
私は、間に合わなかったけど。
お父さんに置いていかれたけど、ローレル様は違う。
「分かった。シオンも気をつけて」
はい、と返事をするとローレル様は意を決して走り出した。その背中を見送る。
小さくなっていく背中に手を振って、私は呆然と立ち尽くしていた。
「これからどうしよう……」
再会を果たしたものの、お父さんには見捨てられてしまった。それに、この惨状を私は知らなかったとはいえ、唯一の肉親が一口噛んでいると知れた以上、ここにはいられない。
この落とし前は私も付けなければ、背負わなければいけないのは確かだろう。
だけど、この罪の償い方を私は分からずに途方に暮れるしか無かった。
よろよろと、私は宛もなく歩き出す。
破壊された建物、踏み荒らされた花壇。いつの間にか、私はローレル様と来た丘の上にいた。
そこには、傷ひとつない虹脈様があの時の姿のまま輝いていた。




